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第46話再会の翡翠~揺心~

 風呂から上がると希はまだ眠っていた。


(仕事で疲れてるし当たり前か)


 彼女に布団をかけてあげて俺はその隣に腰掛ける。


(会うのは五年ぶりなのに、不思議と違和感がなかったんだよな......)


 五年も会わなければもっと大きく変化しているものだと思っていた。俺はともかくとして、希は五年前の彼女と何も変わらない彼女のままでいてくれた。


(俺を心配してこんな世界までやって来てくれて、本当に感謝しかないよ希)


 彼女の寝顔を見ながら心の中で感謝をする。


「んっ......光? 私いつの間に......」


 それとほぼ同じタイミングで希が目を覚ます。


「起こしちゃった? ごめん」


「う、ううん。大丈夫......。わたしそろそろ仕事に戻らないと」


「そっか、宿酒場だから夜の仕事もあるんだっけ」


「うん。光はゆっくりしていっってね」


 希はそう言い残し部屋を出ていく。残された俺は疲れが溜まっていたのか、そのまま布団に入り目を閉じる。


(結局色々曖昧なまま終わっちゃったな......)


 五年前に叶えられなかったことが叶えられたのは嬉しい、が、肝心な気持ちを伝える前に色々終わってしまった。明日にはこの地を離れるし、またいつ再会できるかも分からない。


(このままでいいのか、俺......)


 けどその答えが出る前に深い眠りについてしまったのだった。


 ■□■□■□

「ノゾミ、どこに行ってたの?」


「ごめんごめん、ちょっと疲れて眠っちゃってた」


 光と話をしている途中でいつの間にか眠ってしまい、夜の仕事の時間のギリギリに起きた私は、シオンに謝りながら仕事に戻った。


(ほとんど覚えていないけど、光は何かを私に言おうとしていたような......)


 仕事をしながらさっきまでの光とのやり取りを思い出す。彼は私がシオンに告白されたことがショックだったのか、涙を流していた。


(流石にそれはビックリしたなぁ。光が想っていてくれたなんて......)


 少し驚いたけど、同時に私も少しだけ泣きそうになってしまった。ただしその涙は嬉しさもあり、悲しくもあった。


(光にはああ言ったけど、私少しだけ悩んじゃっているんだよね......)


 何にと言えばシオンの告白だ。最初はかなり驚かされたけど時間が経って冷静になって、少しずつ気持ちが揺らいでいる。それが果たして正しいことなのかは分からない。けどもし、自分を好いている人がいるなら、その気持ちに答えるべきなのかと思っている。


「ノゾミ、話聞いてる? ノゾミ!」


 仕事をしながらそんなことをボーッとしながら考えていると、シオンに声をかけられて我に返る。


「あ、ご、ごめん。何か言った?」


「何かって、さっきからノゾミの様子がおかしいから心配しているんだけど......」


「ご、ごめんごめん。別に何もないから」


「本当に? お父さんも心配しているんだけど」


「大丈夫! 気にしないで!」


「けど......」


 心配するシオンを横目に仕事を続ける。あの告白から私達の間に少しだけ重たい空気が流れている。別にシオンに返事を急かされているわけでもないけど、告白された後だとどう接すればいいか分からない。


「ノゾミ、元気がないのってもしかして私のせい?」


 そんな私を見透かされたようにシオンにそんなことを言われてしまう。


「え、ち、違うよ? シオンは何も悪いことしてないよ」


「ならどうして、最近あまり話をしようとしてくれないの?」


「そ、それは、ま、まだ、返事をしていないでしょ? だから話をしづらくて」


「でもその状態三ヶ月くらい経っているし、少し心配にもなっちゃうでしょ」


「ご、ごめん......」


 シオンに詰め寄られても、私はどうにも答えられなかった。シオンの言う通りではあるけど、光と再会して自分の心の答えが余計に出なくなってしまった。


(私達の再会って間違っていたのかな、光......)


 だけどその問いに答えは返ってこない。遠い異世界の地で果たした、ずっと私自身が望んでいた再会。けどそれは少しだけ、私の心を揺るがしていた。


「......」


 ■□■□■□

(眠れないな......)


 深夜。

 すっかり眠れた思っていたが目を覚ますとまだ朝陽も上っていない時間に俺は目を覚ました。


(まあ眠れなくて当然だよな)


 今日一日色々あった上、いつもと違うとベッドで眠っている。簡単に睡眠が取れないのは何となく察していた。


(少しだけ散歩するか)


 身体を起こし部屋を出る。


「あ」


「貴女確かノゾミが言っていた......」


 すると廊下を出たところで、希が言っていたシオンという女性と遭遇した。


「セフィ、です」


「あ、そう、セフィちゃん! どうしたの? もしかして眠れないの?」


「は、はい」


「じゃあ少しだけお姉さんとお話しない?」


「おはなし?」


「うん、お話」


 ちょっと予想していなかった提案に、戸惑い少し悩むが、眠れないのは変わらないので彼女の提案を受けた。


「どうぞ、入って。まだ飛翔は営業中だから、ここしか話す場所ないの」


「お、おじゃまします」


 そうして彼女に連れてこられたのは、彼女自身の部屋だった。部屋を通された後、適当な場所に座ると彼女は正面に腰掛けた。


「まだ仕事の休憩時間だから、長くは話せないけどセフィちゃんとちょっお話がしたくて誘ったの。ごめんね?」


「わ、わたしとお話、ですか? でも、初対面なのにどうして」


「ノゾミのことよ」


「え? ノゾミ?」


「セフィちゃんはノゾミのことを知っているのよね?」


「は、はい。今日ともだちに」


「本当に今日? それにしては仲が良すぎると思う」


「そ、それはたまたまで」


 痛いところを突かれて俺は動揺する。


「たまたまなら、どうしてさっきまで一緒のお部屋にいたの?」


「そ、それはノゾミ、が来たからで」


「ふーん、全部偶々って言いたいんだ」


 シオンに疑いの目を向けられる。部屋に行くところまで見られたら、今日知り合った友人で通すのは結構無理があるのは分かる。けどこれ以上のことは隠し通す以外に道はない。


(なんとか切り抜ける方法はないのか?)


「でもそれだとおかしいの」


「おかしい?」


「今から三ヶ月前くらい、ノゾミはセフィちゃんのことを探していたんだよ? クラリス山で」


「......あ」


 三ヶ月前、クラリス山といえば初めての遠足の頃だ。フランが彼女と会っていたことは知っている。その目的を考えるなら......。


「ねえ教えてほしいなセフィちゃん。ノゾミとはどういう関係なの?」


 もしかしたら希はとんでもない子に好かれてしまったのかもしれない。

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