第45話再会の翡翠~告白~
「ノゾミって誰だ?」
ノゾミを守るがために発したセフィが知るはずもない名前。俺がセフィであることを時々を忘れて自分が出てしまう。しかも今回に限っては一番最悪のタイミングだ。
「えっと、さっきのお店にそんな名前のひとがいたから......」
「ならどうしてその人を庇おうとしたんだ?」
「それ、は......」
言葉が出てこない。ユシスの言う通り何も知らない人からしたら見ず知らずの女性を庇おうとしているのと同じだ。
「セフィ、何か隠しているなら正直に話してもらえないか? 親として娘に何かがあったなら、見過ごすことはできない」
親として
その言葉を出されてしまったら何も言い返せない。言い返したところで子供の
(どうすればいい、希を庇おうとすると俺のことがバレる。でも希やお店の人に迷惑かけるわけにはいかない)
俺自身のこの先の人生のことを考えると、ユシスや近しい人間になら話すべきなのかもしれない。
(ここはもう腹を括るしかない、か)
俺は覚悟を決めて二人に本当のことを話すことにした。
「あの、おとうさん、その、ノゾミはその」
「ちょっと待ってください、彼女は私の友達です」
のだが、その会話を遮るように背後から聞きなれた声が聞こえる。
「えっと、君は確かさっき飛翔で働いていた......」
「はい、私はノゾミです」
「君が......」
仕事服のまま俺の元へやって来た希はそう言うと一礼する。そこ礼儀正しさにユシスは少し落ち着きを取り戻した。
「君がセフィを泣かせたのか?」
「違います、私はセフィちゃんと少し散歩してお話ししただけなんです。ですから決してそのようなことはしていません」
「なら、どうしてセフィちゃんは泣いていたのですか?」
「え、えっと......」
まさか失恋して泣いただなんて言えず、スイカさんの疑問には答えられない。
「それはさっき、セフィちゃんと辛いもの食べたからなんです」
「え?」
「え?」
あまりに苦し紛れの言い訳に二人は疑問符を浮かべる。折角なので俺は彼女の話に合わせた。
「そ、そうなんだ。さっき食べたのがすごく辛くて、思い出したら涙が出てきたんだ。それでノゾミ許すまじってなったの」
「本当か? どうにも怪しいんだが」
「ほ、ほんとうだよ、ねえノゾミ?」
「う、うんだからそのお詫びがしたくてここに来たんです」
「お詫び?」
「もしよろしければですが、飛翔に泊まっていきませんか?」
■□■□■□
希の助けのおかげで、ピンチを脱することができた俺は、希の提案で仕事で帰らなければならないユシスを除いて、スイカさんと二人で飛翔に宿泊することになった。
「それで何で希は私の部屋に?」
「さっきの話の続きをしようと思って」
「つづき? ああ......」
「ひとつ大きな勘違いをしているから言うけど、私に告白してきたの女性だからね?」
そして希は俺の宿泊部屋に入ってくるなり、 とんでもない事を言い出した。
「......え?」
ただの百合? いや、セフィとして告白したらそうなるんだけど。
「え? じゃなくて。私を好きっていってきたのはここで働いている女の子!」
「ど、同性?!」
「さっきの反応からそうだと思ってたけど、やっぱり勘違いしてたんだ......」
「う、うん。だってふつうはそう思わないし」
「気持ちは分かるけどね」
別れ際に何か言いかけたのはこれだったのだろう。まさか相手が女性だなんて予想できない。
(あの涙を返してくれ)
「それにしてももしかして泣いていたのって、もしかして嫉妬しちゃったの?」
「ち、ちがっ」
「可愛いところあるんだね、嬉しいなあ」
「だからこっちのはなしを」
聞いてと言う前に希が優しく抱き締めてくる。
「......ノゾミ?」
「本当嬉しいよ。こうやって再会できたんだから」
「それは......私も」
「五年間、ずっと会える日を待っていた。あんな理不尽な形で別れちゃったんだもん、もう一度再会できないと気が済まなかった」
「ごめん、巻き込んで」
「巻き込むだなんてそんな! 私は光の為なら何でもする」
「私の為?」
それってつまり......。
「告白はされたけどね、ちゃんと断ろうと思うの。恩義はあるけど、好きとかとは違うと思うから」
「そう、なんだ」
その言葉を聞いて一瞬だけど安心した俺がいる。昼にこの話を聞いてから、心がざわついていた。それはやはり嫉妬だったのかもしれない。けど彼女が今こうしていてくれてそう言ってくれることが何よりの救いで、ようやく俺はずっと言えなかった言葉を口にすることができる。
「ノゾミ」
「ん? どうしたの?」
「五年前言えなかった言葉を言うね。わた......俺はノゾミのことが」
「セフィちゃん、お風呂できあがったので先に」
好きという言葉を口にする直前、扉の先からスイカさんの声がする。
(タイミング悪っ!)
ラノベとかでよくある展開を自分まで経験するはめになるとは......。
「セフィちゃん?」
「い、今行きます!」
希から離れ、着替えをとる。肝心の希はと言うと、俺が離れたこと知らずにいつの間にか寝息を立てていた。
「こっちもこっちで最悪なタイミング......」
もしかしたら告白が聞こえていなかったかもしれないと思うと、これはこれで良かったのかもしれない。
「告白するのはその内にしよう」
俺は彼女を起こさないように部屋を出たのだった。