第43話再会の翡翠~邂逅~
翡翠の街オリーヴ
以前遠足で訪れたクラリス山の近くにある街という話だけは少し前から知っていた。
(ヨーロッパにありそうな街並みだな)
ここではそう呼ぶかは分からないが、レンガ造りの建物が多く、山の近くということもあり高低差を活かした街並みだった。
「セフィちゃんはここに来るのが初めてですよね? どうですか?」
「すごくきれい.......」
俺は正直な感想を漏らした。高校生の時なんて海外旅行は行ったことなかったので、こういう景色を見るのは何だか新鮮な気持ちだった。
「今日はせっかくの三人だけの旅行だ、楽しもうな」
「うん」
「まずは腹ごしらえでもしましょうか。お腹が減っては楽しいこともできませんから」
ある程度土地感があるというスイカさんさんに連れられて、まずは三人で遅めの昼食を取ることに。
「宿酒場『飛翔』。名前に酒場はついていますが、ここの料理は絶品です。勿論お酒は飲まなくても大丈夫ですので入りましょう」
スイカさんさんに言われるがままに、宿酒場に足を踏み入れる。中はそこそこの広さで、お昼過ぎながらお客さんはそこそこいた。
「いらっしゃいませー!」
酒場中に店員の声が響く。こういう外食をこの世界にやって来て初めてなので、少し新鮮味を感じる、が。
「いらっしゃいませ、お客様様三名様ですか?」
「......え?」
俺達を迎え入れた店員を見て、俺は思わず声が漏れた。
「ん? どうかしたかセフィ」
「......セフィ?」
ユシスの声かけに、今度は店員の方が声を出す。
「え、え、えっと、さ、三名様ですよね? 今お席にご案内しますね」
しかし何事もなかったように女性は俺達を三人の席に案内してくれる。その間ユシス達が何か声をかけてくれていたが、それどころではなかった。
(嘘、だろ?)
嘘だと思いたかった。けどあの姿と声、五年前と少し違えど見間違うわけがない。
(どうして......希が、ここにいるんだよ)
まるで夢でも見ているかのような感覚に陥る。あり得ない現実が今目の前にあって、折角の食事も手に付けられそうにない。
「どうかしたんですか? セフィちゃん」
「さっきまで元気だったのに、あの店員さんと何かあったのか?」
「な、なにもないよ? だってここに来るのも初めてだし」
「ならいいんだが......」
二人にはそんなセフィの異変を怪しまれ、ますます居づらくなってしまう。
(大人ならこの場から逃げることはできる。けど今の俺が逃げ出すことなんげ難しい。どうすれば)
「お待たせしました、こちら当店人気メニューのお子様ランチです」
そうこうしている間にも、いつの間にか注文が終わり俺の前には子供用のご飯が運ばれてくる。
「お子様ランチ?」
「あ」
ただしお子様ランチという概念はこの世界にはないので、聞き慣れない言葉にユシスとスイカさんさんが反応する。運んできたのは希だった。さっきの反応を見る限り動揺しているように見えたが、彼女はもしかしてセフィという人物を認知しているのだろうか。
「す、すいません、間違えました。え、えっと、チルドプレートです」
一度気を取り直した希は、本当のメニュー名を言ってそれをセフィの前に置く。三つの小さな区分に分けられたそのプレートは、確かにお子様ランチに見えなくもないが、これは明らかに希のミスだった。
「ご、ごゆっくりどうぞ」
ユシスとスイカさんさんの料理を運び終えた希は、すぐさま俺達のテーブルから去っていく。
(食事なんてできるわけがない......)
かといって二人に怪しまれるわけにもいかないので、何とか冷静を保ちながらご飯を食べる。
「どうですかセフィちゃん。美味しいですか?」
「はい......美味しいです」
料理は美味しい。今まで食べてきた中で間違いなく絶品だ。なのに......。
(すごくしょっぱい......)
思わぬ再会に、俺は悲しいのか嬉しいのかとても複雑な気持ちだった。
■□■□■□
食事を終え、飛翔を出た後。
「あ、あのねお父さん」
「ん? どうかしたかセフィ」
「少しだけ......一人でこの街を歩いてみたい」
俺は思い切って一人になれないか提案。。
「一人でって、今日初めて来た場所なのに大丈夫なのか?」
「うん。そんなに遠くにいかないから大丈夫!」
「オリーヴはそんなに危ない街ではないですから、別行動をしても問題はないと思いますよ」
「そうか。なら、一時間だけ別行動にしよう」
「ありがとう!」
そして何とか一人きりになれた俺は、もう一度飛翔の中に入る。
「いらっしゃいま......あっ」
「あの、すいません。私貴女とお話したいのですが、いいですか?」
中で出迎えてくれた店員、希に俺はお願いする。すると別の店員が彼女に寄ってくる。
「いいんじゃないノゾミ。丁度お昼休憩だし」
「で、でも」
「ほら、いいから」
渋る希に対して、無理矢理背中を押してセフィに押し付けてくる。
「......近くに公園があるから、そこでいい?」
「うん」
「着替えてくるから、ちょっと待ってて」
そう言い残すと希は、一度バックヤードに姿を消す。すると今度はさっきの店員が俺に寄ってきた。
「ノゾミちゃんの知り合いなの?」
「そんなところ、です」
その後十分程待つと、私服に着替えた希が出てきた。
「じゃあ行こう」
「うん」
希に連れられるがままに、公園に向かう。その間に会話はなく、公園のベンチに座ったところで希の方から口を開いた。
「久しぶりであってるのかな? 光」
俺はどう答えるか悩む。けど希は確信をもって俺に話しかけている。ならば俺は......。
「久しぶり、希」
折原光としての言葉を選ぶ以外の選択肢はなかった。