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第41話二つの嘘

 夕食前。

 魔昌ドッジボール(仮)で遊び疲れたのか、セフィを除く三人はぐっすりと眠ってしまった。


(日本でいう小学一年生相当の年齢、疲れないわけないよな......)


 逆に俺は眠ることができなかった。この世界にやって来てもう六年経つが、見た目は子供でも中身は二十歳。こういう遊びは疲れはするが、眠くなったりはしなかった。


(身体は小学一年生なのに、どうして俺自身もそれ相応にならないんだ?)


 すごく今さらの話ではあるが俺は実年齢としてはもう二十歳を越えている。小学生が二十歳の体つきを持つというのもなんとも不思議な話だが、実際そうなのだから仕方がない。


(この顔で二十歳過ぎ、か)


 鏡に映った自分を見て改めて思う。母ソフィから受け継いだ銀色の髪と父ユシスから受け継いだ金色の瞳をしたロングヘアーの女性がそこには映っていて、自分は本当に女子に生まれ変わってしまったのだと。五年も経っていう言葉では決してないと思うが、現実逃避のためになるべく鏡は見ないようにしてきた。


(これが今の俺、か)


「はぁ......」


「どうかしましたかセフィちゃん。鏡なんて見つめて」


 ため息をつくと丁度そのタイミングでスイカさんが通りかかる。


「な、何でもないです」


「そうですか? 私には何か深刻な悩みを抱えているように見えますが」


「き、きのせいです。」


 深刻な悩みなのは当然なのだが、話せるわけもなく適当に嘘を言って誤魔化そうとする。今までアリエッテ達のような子供相手なら何とかなったが、大人相手に通じるのだろうか。


「それならいいのですが......」


 通じました。


「でも無理だけはしないでくださいね。いざとなれば大人を頼っていいのですから」


「......はい」


 それだけ言い残すと、スイカさんはその場から居なくなった。


(大人を頼れ、か)


 本気で心配してくれるスイカさんに少しだけ胸がチクリと痛む。


(俺は......いつまで嘘の自分でいればいいんだ)


 もう一度鏡を見て考える。五年経って今更考えさせられる偽りの自分。誰にも頼らず、誰にも助けてもらうことなくこの先も生きていくなんて考えると、少し憂鬱になってしまう。


(どうして今更こんなこと)


 俺はほんの少しだけ五年前の自分に戻りたいなんて考えてしまうのだった。


 ■□■□■□

 その後皆で夕食を食べお風呂も済ませた後、大広間に四人分の布団を敷き、そこで皆で寝ることになった。


「こういうのがやっぱりお泊まり会って感じがするよね」


「わ、分かります。皆でこうやってお布団くっつけて寝るの、いいですよね」


 布団に潜り込みながらユイとアリエッテが言う。お泊まり会の認識はどの世界でも共通の認識らしく、俺自身も誰かと一緒にこうして寝るのは久しぶりだったので、少しだけワクワクしていた。


「ねえセフィちゃんのおとうさんって、おうこくの騎士団長さんなんだよね? 今日もおしごと?」


「うん。最近まで家にいることが多かったんだけど、せんせいが住むようになってから、仕事にいくことが増えたの」


「羨ましいですわ。お父様が騎士団長で、お母様が元聖女だなんて」


「羨ましがるほどのことじゃないよ。むしろ大変なことのほうが多かったから」


 天井を眺めながら少しだけこの五年のことを思い出す。

 リラーシアに入学するまでの道のりは決して楽なものじゃなかった。言葉も一から覚えないといけなかったし、相手の言葉は理解できてもこちらが発する言葉は自分で何とかしないといけなかったので、人一倍に勉強した。


 けどそれ以上に苦労したのは、やはり元聖女の子供、という点だ。


 周りから期待され、聖女になるに違いないと囁かれて。恨みだって買われた。まだ小学生にも満たない子供が、だ。その度にユシスに守ってもらえたけど、それでも苦しかったのは間違いなかった。


(珍しく昔のこと思い出したな......)


 夕方の一件があったからか、今日はやけに気分が沈む。


「セフィさんも、苦労したんですね」


 と言葉を漏らしたのは現聖女を母に持つユイ。彼女もきっとセフィと同じように周囲の眼差しに苦しめられてきたのだろう。しかも彼女に至っては、自身より期待されているのがセフィとアリエッテときたものだから、その心の負荷は計り知れない。


「って、何でこんな重たい話になっていますの? 折角の夜更かしなのですからもっと楽しまないと」


 少し重たい空気を振り払うようにフランが言う。過去の話となると、どうしても重たい空気になるので、彼女には助けられた。


「そ、そうだよ。あたし今日は朝まで起きているんだから」


 フランの言葉にアリエッテが続く。その割にはすごく眠そうにしていたので、恐らくだけど彼女達が先に眠ってしまうだろう。


 五分後


「すぅ......すぅ......」


「すやぁ......」


 案の定アリエッテとフランは寝息をたてていた。残されたのはセフィとユイだけで、どうしようかと思っていると、ユイの方から話しかけてきた。


「やっぱりこうなりましたね......」


「ユイは眠くないの?」


「少しだけ眠いですが、セフィちゃんとお話がしたいので起きていました」


「わたしと?」


「わたし、どうしても聞きたいことがあるんです」


「聞きたいこと?」


 彼女のことだからソフィの事とかと思っていたのだが、次にユイが発した言葉に耳を疑った。


「セフィちゃんは、本当にセフィちゃんなんですか?」


「えっと、それはどういう」


「セフィちゃんはもしかして、別の人物ではないのですか?」


 それはとても小学生が言うような言葉ではなかった。


 セフィがセフィではない


 その意味は当事者の俺なら尚更分かる。いや、分かってしまう。


「夏休みに入ってすぐです、わたしはたまたある言葉を聞いてしまったんです」


「ある言葉?」


「せいじゃてんせい計画」


 その単語に身体がビクッとしてしまう。


(どうしてユイがその言葉を......いや、知っていてもおかしくないんだ)


 ナインがセフィに接触してきたとき、真っ先に彼女が発した言葉はこれだった。つまり聖女教会はこれを認知している事となり、聖女を母に持つユイなら、耳にしても不思議な話ではない。


「むずかしい言葉は分からないですが、きょうかいの教えにてんせいという言葉はあります。亡き人が魂そのままに別の人に生まれ変わる、ということですよね?」


 全くもってその通りだったのでどう答えればいいかわからない。ユイは多分複雑な答えは求めていないのだろう。


 俺がセフィかセフィじゃないか。


 二つに一つの答え。でも俺はその答えに悩む必要はなかった。


「わたしはセフィだよ、ユイちゃん」


「え? でも」


「わたしはその計画は知らないし、例え偽物だとしてもわたしはわたしだから」


「セフィちゃん......」


 そんな嘘の言葉を並べて、ユイを説得する。彼女は少しだけ考えた後に、答えを出した。


「わかりました。わたしはセフィちゃんを信じます」


「ありがとう、ユイ」


 こうして俺はまた一つ大きな嘘をついてしまった。


「......」

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