第40話魔力は投げるもの
翌日。我が家にはアリエッテ、ユイ、そしてフランの三人が集まっていた。
何だかんだで彼女達と夏休み中に会うのは、今日が初めてだったりするのだが、俺は早速三人に怒られることになる。
「せ、セフィちゃん? あの人がこの家にいるなんて初耳なんだけど?!」
「し、しかもかていきょうしだなんて」
「わたくし腰をぬかしましたわよ」
「さ、三人とも、落ち着いてよ。スイカさんは、その、夏休み入ってすぐににおとうさんが、今日からかていきょうしだって連れてきたの。だからわたしは、何も知らなくて......」
話題は勿論スイカさんのこと。俺は彼女と出会うまで、そういう人がいたなんて知らなかったので、アリエッテ達の反応を見ると知らなかったこちらが恥ずかしくもなる。
「あの、私そんなに魔法が使える訳じゃないし、セフィちゃんにはアドバイスしているだけだから、そんなに持ち上げられると恥ずかしいのですが」
挙げ句スイカさんが照れてしまう始末。彼女が謙遜しているだけなのは分かるが、まだ六歳の子供達に褒め称えられると恥ずかしくなる気持ちは分かる。
「今からそんなんじゃ一日もたないよ? せっかくのおとまり会なんだから」
俺は三人をたしなめる。そもそも今日三人がこの家に集まったのかというと、入学当初からアリエッテと約束していた家に遊びにいくというのを果たすためだった。そしてその約束を果たすついでに、夏休みらしくお泊まり会をすることになったのだった。
「話には聞いていたけど、セフィちゃんの家も大きいよね」
「わたしの家も、っていう辺り自慢してるよね?」
「そ、そんなつもりないよ?」
実際アリエッテの家の方が大きいけどさ。
「そ、それよりそろそろ何かしませんか? こうしてお話するのもいいですけど、遊びたいです」
「そうですわ。ちょっといろいろ驚かされましたが、折角のなつやすみ、わたくしはたくさん遊びたいですわ」
「遊ぶ、って言われても......」
お泊まり会を開催しておいてなんだが、正直何をして過ごそうとか一切考えていなかった。何故ならこの家に皆で遊べるようなものがないからだ。
(中身が二十歳近くの俺が、おままごとなんてできるわけないしな)
年相応に合わせた遊びならそれくらいしか浮かんでこない。勿論この世界にそんな概念があるかは不明だが。
「なら折角ですから、私が考えた遊びで遊んでみませんか?」
そんな俺達の様子を見ていたスイカさんがそんな提案をしてくる。
「先生が考えた遊び?」
「はい。魔法も鍛えることのできる楽しい遊びです」
■□■□■□
『魔昌』
この世界にはそう呼ばれている水色の球体がある。それは普通に持とうとすると重たくて持てないが、自分の魔力を使って持ち上げれば簡単に持ち上げることができる。
「セフィちゃん達の年齢で使いこなすというのは難しいかもしれないので、私が少ない魔力でも扱えるように細工しておきました。これを使って投げ合って、魔昌を落としてしまった方が負けという簡単な遊びです」
スイカさんが魔昌も含めて遊びの説明をしてくれる。簡単に言えば異世界版ドッジボールだ。
ただし手で掴むのは禁止。魔力を使って受け止めてください」
ただし手で物を掴むということができないので、何とか魔力を使ってキャッチする以外にない。
(戦いになるのか不安だな......)
お互いにキャッチできずにそのまま終わりという可能性もある。
「セフィちゃん、こうして二人でちょくせつ対決するのは初めてだけど、てかげんはしないからね」
セフィの相手はアリエッテ。彼女の言う通り、お互いライバルでありながら直接対決はしたことがなかったので、少しだけ胸が踊る。
「もちろん私も勝つつもりだから。心しておいてね」
俺はスイカさんから魔昌を受けとる。魔力で持っているからか魔昌は手から少し浮いた位置にあり、本物のドッジボールのようにボールを持つ感触がしない。
(スイカさんは言っていた。魔力はイメージをすれば動かすことができると)
短い間での教えを思い出し、俺は目を閉じイメージする。右手に魔昌があり、それをアリエッテに投げる。
「え、セフィちゃん? あたし魔昌なんて持ったことなから、まずはお互いれんしゅうのつもりで......きゃあ!」
あ、当たった。
どうやらセフィが綺麗に投げれるなんて思ってもいなかったのか、アリエッテは受け止める動作もせず直撃を受けた。
「だ、大丈夫? アリエッテ」
「......さない」
「え?」
「ぜったいに許さないよ! セフィちゃん」
何が逆鱗に触れたのか、アリエッテは落ちている魔昌を拾うと何とノーモーションで投げてきた。
(おい、それは聞いてない!)
不意討ちだったためひとつ反応が遅れた俺に向かって真っ直ぐ魔昌が飛んでくる。
(駄目だイメージが間に合わない)
俺は被弾を覚悟で目を瞑ったが、
「ほぎゃあ!」
次には別の方から悲鳴が聞こえた。セフィ自身には何かぶつかった感触もない。恐る恐る目を開くと真正面で倒れているアリエッテと、何故か奥の方で倒れているフランの姿があった。
「えっと、ナニコレ」
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「もう、散々ですわ」
「ごめんねフランちゃん。まさかあんな軌道になるなんて」
「一体どういう投げ方したら、ああなるんですの?!」
「まあまあ」
その後も魔昌ドッジボールを楽しんだセフィ達は、一度休憩を取ることになったのだが、先程の一件でフランがご立腹だった。
(アリエッテは確かに真っ直ぐに投げたはずだよな。それなのに軌道が後ろにいたフランに変わるって、どういうことなんだ)
普通のドッジボールではないと言えど、流石にあれはおかしいと俺は思ってしまう。
「でも楽しかったよね?」
「っ、そ、それは......」
「それにあの事故は一回しか起きていないんだから、もっとたのしもうよ。せっかくのお泊まり会なんだから」
「うぅっ......」
アリエッテの正論というか反論にフランは黙ってしまう。
(どちらかと言えば、アリエッテに非があると思うんだけどな......)
この後、夕方になるまで遊んだセフィ達だが、アリエッテの言葉とは裏腹に何度かフランの悲鳴が上がることになったのだった。
「もうわたくし、この遊びはこりごりですわ!」
「まあまあ」