表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
間章 この剣に誓いを立てて
36/126

第35話七年前 愛の我儘

 ソフィと結婚することになったあと......。


 彼女の身体やお腹の赤ちゃんを気にしながら、様々な準備が進められた。


「お腹、また少し大ききなったな」


「はい。たまにお腹を蹴ったりしてくれるんですよ?」


「それは元気な証拠だな」


 結婚式は王都の方で行うことが決まり、多くの参列者を招くことも決まった。ただ俺が気がかりなのはやはりソフィの体調の事だ。ソフィ自身はあれから一度も自分のことは語らず、いつもこれから生まれてくる赤ちゃんの話ばかりしていた。


「きっとこの子はユシスに似て元気な子に育ってくれますよ」


「俺に?」


「はい。ユシスは誰よりも強い人ですから」


 正面からそんなことを言われると恥ずかしくなりつつも、俺は「それなら」と返す。


「じゃあ優しい人子にも育つな」


「え?」


「俺とソフィの子供なんだ、優しくて強い子供に育ってくれるさ」


 ソフィがそうしている以上、俺も彼女を不安にさせまいとこれからの未来の話をする。


(ソフィを不安にさせたら駄目だ。今のことを考えるのは俺だけでいい)


 彼女の痛みを少しでも自分が背負うために、俺は式の準備の合間を縫って聖女というものを調べた。


「聖女はこの世界にとって一番の柱......この存在がなければ、この世界は滅ぶ、か。その存在が命を懸ける必要なんてどこにあるんだよ」


 しかし調べれば調べるほど俺から出るのはため息だった。聖女についての文献には他にもこんなことが書いてあった。


『聖女になる者には特異の体質がある。それが魔物が生み出す障気をその身体に取り込んでしまうことだ。これは本人にも気づくことができず、その障気が身体に害を及ぼし、病になる』


(世界の障気......?)


 それは体質について


 今まで俺は疑問に思っていた。何故この世界には聖女が必要なのかと。けどその答えは単純だった。


(この体質がないと、世界のバランスがとれないのか? 犠牲を産み出してまで)


 その内容は俺に衝撃を与えた。もしこの文献に書いてあることが本当ならば、これから生まれてくる子供は? 子供を生むソフィの身体は?


「どういうこと、だよこれ......」


「ユシス......? こんなところで何をやっているんですか?」


 俺がその事を知ったタイミングで、ソフィに俺が聖女について調べていることがバレてしまった。特にこの文献があったのは聖女教会の書庫。王国騎士団長の俺が普通ならいるはずのない場所だった。


「そ、ソフィ? い、いや、俺は別に何も」


「何もないと言うなら、その手に持っている本は?」


「こ、これは」


「いいですよ隠さなくて。私もそれは読んだことがあるので、内容は知っていますから」


「だったら」


 何で聖女になったのかと聞こうとしたが、踏みとどまる。今更そんなこと彼女に聞けるはずもなかった。


「ねえユシス」


「な、何だ」


「ユシスは......もう知っているんですよね」


「な、何を?」


「誤魔化さなくていいんですよ。私は全部知っていますから」


 そう言うとソフィはこっちまで来て、震える手で本を持つ俺を優しく抱き締めてくれた。


「今日まで何も言わずにいてくれてありがとうございます、ユシス。貴方が黙って側にいてくれて、心強かった。本当はすごく怖かったのに、貴方がいつも通りでいてくれたから、何も怖がらずにいられた」


「ソフィ、俺は、俺は......」


 ソフィの優しい言葉に涙が流れる。三年前とは立場が違って、今度は俺が彼女に抱き締められ、溢れ出す想いを止められなかった。


「なあ何でだよソフィ、どうして大事なことを黙ってた」


「ユシスに心配をかけたくなかったからですよ。貴方にはそのままでいてほしかった」


「そのままでいられたら苦労しない。本当は黙っているのだって辛かった」


「すいません。でも......こうなることは運命だったんです」


「そんな運命、俺は認められない。ソフィを......愛する人を失う運命なんて」


「ごめんなさい、ユシス.....」


 悔しい。何もかもが悔しい。


 何もできないのも、元気付けなきゃいけないソフィに、逆に元気付けられるのも、全てが......。


「子供は産みます。ユシスとの愛の証ですから」


「でもそしたらソフィは......」


「その時はその時です」


 本当は怖いはずなのに、ソフィはこんな時でも優しく、そして力強く前を向いている。


 悲しい運命を受け入れて......。


 そんな彼女に俺がかけられる言葉は......。


「ソフィ」


「はい」


「俺はお前を愛している。愛しているからこそ、言いたい」


「......はい」


「俺はお前との未来を諦めたくない。運命に抗いたい」


 それはただの我儘だった。愛しているからなんてただの後付けの理由だ。俺はこの我儘を押し通したい。


「その我儘、私には残酷すぎますよ?」


「だとしても、俺はお前を護るって決めた。だから我儘、通させてくれ」


「ユシス......」


 俺が選ぶ道は決して正しいとは限らない。それは誰かに迷惑かけることなのかもしれない。それでも俺は......。


(我儘でごめん、ソフィ)


 そして時が経ち、俺たちは結婚式当日を迎えた。


「流石に私、緊張します」


「心配するな、俺も一緒だ」


 式が行われる王都では様々な国から多くの人たちが集まっていて、その代表である俺もソフィも緊張を隠せない。


「でも折角の晴れ舞台で緊張してたら、聖女としての威厳が立たないぞ」


「それを言うならユシスもですよ。王国騎士団長がそれでいいんですか?」


「せ、聖女の方が立場上だろ」


「あー、それはずるいですよ。式が終わったら説教ですからね」


「お二人とも大事な日に何やっているんですか......」


 何とか迎えることができた俺達にとって最高の幸せの時間。


 もうすぐ子供も産まれ、俺達は家族になる。


 ソフィの容態は気になるけれど、彼女は今こうして俺の隣で結婚式を迎えられるくらいには元気だ。


『それでは新郎新婦の入場です。皆様、盛大な拍手でお出迎えください』


 色々なことを思っているうちに、外から司会の声が聞こえてくる。


「行こうソフィ」


「はい、ユシス」


 俺達は手を取り合って、沢山に参列者が待つ式場へと足を踏み入れた。


 ■□■□■□


「俺はこの剣と王国騎士団長の証に誓って、妻ソフィをいついかなる時も護ると誓います」


 騎士団長の証の剣を掲げ、ソフィに誓う。


 そしてソフィも俺と同じように誓いをたてる。


「私は聖女として、そして世界を癒す者としていついかなる時も夫ユシスを支え、傷を癒すことを誓います」


 二人がそれぞれ考えて立てた誓いの言葉。どちらもその立場であるからこそ立てられた言葉で、お互い少しだけ恥ずかしくなりつつも、多くの人に見守られながら誓いのキスをした。


(これで始められる、俺達だけの未来の物語を)


 しかしそんな未来はずっとは続かなかった。


 それは俺達の子供が産まれる少し前。


 今日まで安定していたソフィの容態急変した。


「ユ......シ......ス」


 ソフィが倒れたと言う話を聞いたのは、出産予定日のわずか二日前。予定日が早まったのかと思いきや、そういうわけではなく、ナインちゃんからの連絡では今日が山場かもしれないと言っていた。


「ソフィ! 大丈夫か?」


「私は......大丈夫です。この子も必ず産んでみせます......」


「無茶するな、もしお前の身に何かあったら俺は......」


「私を信じてください、ユシス......。」


 真っ直ぐな瞳でこちらを見るソフィ。俺に何かできることないかとこれまで何度も考え、たくさん調べてきた。しかしすでに彼女の身体を蝕んでいたそれに対抗する手段は見つからず、遂には彼女に信じてほしいと言われる始末。


(何をやっているんだよ俺。この前誓ったばかりだろ、何があってもソフィを護るって。それなのに......)


 俺は彼女の言葉を信じて待つ以外の道はなかった。


「ソフィ、必ず帰ってこい。新しい命と一緒に」


「......はい、必ず約束します。ユシス」


 俺は医務室の奥に連れていかれるソフィをただ見つめていることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ