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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
間章 この剣に誓いを立てて
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第29話十二年前 二人の出会い

 一人の騎士は誓いを立てた。

 この剣で貴女を守ってみせると。

 一人のシスターは誓った。

 騎士が傷ついたら自分が癒すと。


 二人はその日初めて結ばれた。


 出会ってからわずか数年。直接会ったり二人きりでどこかに出掛けたりなど、職業柄あまり多くはできなかったが、二つの思いは確かに結ばれた。


 いつしか子供も授かり、祝福されながらこの世界に生まれ落ちた。


 その子の名は......。


 ■□■□■□

 物語はほんの少し前。

 聖女教会のシスターナインに初めて会った日まで遡る。


「ねえおとうさん」


「どうかしたか?」


「さっきのシスターさんはおとうさんのお知り合い?」


 ナインが帰ったあと、ふとナインとユシスの関係が気になったので尋ねてみた。ユシスはナインの事をちゃん付けで呼んでいたし、ナインもそれを当然のように流し会話をしていた。浅い関係だったらそんなに親しみ深い呼び方しないだろうし、男性に呼ばれたら普通は怒られる呼び方だ。


 例えばそう、不倫関係だったとか。


「お父さんが、というよりは母さんの方の知り合いだな」


「ほんとうに? おとうさん、“ふりん”とかしてたんじゃないの?」


「ぶっ、ば、馬鹿。どこからそんな言葉覚えてきたんだお前は」


「本でよんだことある」


「今度どういう本を読んでいるのか、一度確認した方がいいかもな」


 本当は元から知っていただけなんだけど。


「と、とにかくお父さんとナインちゃんは決してそういう関係じゃないから! 母さんに会いに行くと、よく一緒にいた子なんだよ。まあ、あの頃はナインちゃんも学生だったけどな」


「おとうさん、学生に手を」


「それは断じてない! 断じてないから、そんな目で俺を見ないでくれ!」


 気を取り直して。


「そう言えばまだセフィには話したことなかったな。父さんと母さんのこと」


「おはなししてくれるの?」


「ナインちゃんとの誤解も解きたいからな。少し長話になるがいいか?」


「うん!」


「じゃあまずはお父さんとお母さんが出会ったときの話から始めるな」


 ユシスはそう前置きを置くと、二人の馴れ初めから話を始めてくれた。


「これはセフィが生まれる六年前、今から十二年も前の話になんるんだが」


「じゅ、じゅうにねん? お父さんたちそんなに前から知り合いだったの?」


 話の導入から俺は驚かされる。母ソフィが亡くなったのはセフィが二歳の時だから、二人は八年も知り合いだったことが分かる。


(もっと短いかなと思っていたけど、違ったんだな)


「と言っても父さんと母さんが出会ったのは、仕事先、たまたま偶然だったからすぐに仲が良かったとかそういうわけじゃないんだ」


「おしごとさき?」


「父さんは十二年前、先代聖女の護衛任務をまかされたんだ」


 ■□■□■□

 ―十二年前


 シスターソフィ。


 その名前を初めて知ることになったのは、当時まだ騎士の見習いだった俺が、とある護衛任務を任されたのがきっかけだった。


「相手は聖女様だ。失礼のないようにな、ユシス」


「はい、団長」


 その護衛対象はこの世界で一番の有名人であり、世界の要と呼ぶべき人物聖女フィーネ様、先代の聖女だった。


 ソフィはその付き添いという形で彼女に同行しており、この護衛任務が俺とソフィの出会いだった。


「お初にお目にかかります、聖女フィーネ。王国騎士団長クラトス、王の命により本日は護衛させていただきます」


「お、同じく王国騎士団の騎士ユシス、団長のサポートをさせていただきます」


「そんなにお堅くならないでお二人とも。護衛を頼んだのは私の方なのですから」


「しかし聖女様お相手に失礼な態度をお取りするわけには」


「私がいいと言ったのですから、どうぞ肩の力を抜いてください。それに今日は王立記念祭、祝い事の日なのですから騎士団長にも楽しんでいただかないと」


「聖女様がそこまで仰るのなら......」


 先代聖女はおっとりした性格のお方で、堅物騎士団長呼ばれていたクラトスさんでさえたじろいでしまうほどのお方だった。そしてその聖女の傍らで、少し恥ずかしそうにこちらを見ていたシスター服の女性がいた。


「それでフィーネ様、その後ろにいるお方は」


 それに気がついたクラトスさんが彼女について訪ねた。


「彼女は私の後継者になるシスターソフィです」


「後継者? 次期聖女ということですか?」


「はい。ソフィにはその資格があり、現聖女である私すら上回る力を持っているんです」


 フィーネ様はソフィのことを気に入っていたのか、初対面の俺達にその素晴らしさをアピールしていた。


「ふぃ、フィーネ様、私はそのような器では」


「謙遜することなんてないんですよ、ソフィ。騎士団の方々にも気に入っていただけます、きっと」


「わ、私そんなこと望んでないですから!」


 ただ当の本人はフィーネ様の称賛とは裏腹に、自分のことを卑下していた。後になって聞いた話なのだが、当時からソフィの力はフィーネ様言っていた通りの実力を持っていたらしい。


「わ、私のことはいいですからフィーネ様、そろそろ時間お時間ですよ」


 そんな自分を誤魔化すようにソフィは話を変える。フィーネ様は今日から行われる王立記念祭において多くの行事に顔を出すためゆっくりしている時間がなく、俺とクラトスさんも今日一日だけでもかなりハードなスケジュールが組み込まれていた。


「あら、もうそんな時間ですか。では参りましょうか」


 フィーネ様の前を俺とクラトスさんが守るように歩き出す。そのフィーネ様の後ろをシスターのソフィが付いていくような形で、一行は王都へと足を踏み入れる。


(まさか初めての護衛任務が、聖女様相手になるとは......流石に荷が重すぎるような......)


 俺は少しだけこの日クラトスさんと一緒にこの任務を請け負ったことを後悔していた。まだ見習いの自分には重すぎるような役目だと分かっていたからだ。けどほんの少しだけ良かったと思ったこともある。


 この日この場所に来ていなければソフィと出会うことなんてなかったのだから。

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