第26話夏の足音 出会いの足音 後編
俺が教室に戻ってきたのは既に午後の授業が始まった後。見事にお昼を食べ損ねた俺は(残したご飯はアリエッテ達が分けて食べてしまったらしい)、空腹と生徒会の件に悩まされながら、その日を何とかやり過ごした。
そして放課後。
「せ、せ、せ、セフィちゃんが?!」
「せいとかいに?!」
「は、入るの?!」
「とりあえず三人とも落ちつこう」
つい最近も見たことがある光景が今度は三人で繰り広げられていた。
「そんなに驚くこと?」
「驚くよ。せいとかいなんて成績がいくらよくても入れないんだよ? ましてやあたし達初等科の、しかも一年生が入るなんて普通はあり得ないよ」
「そ、そうなんだ」
生徒会が存在するなんて聞いたこともなかったので、大したことないと思っていたがどうやらそうではなかったらしい。
なら尚更分からないことがある。
「ならどうして学院長はわたしにそこで活動させようとするんだろう」
「そ、それは確かに......おかあさんだってちゃんと了承してくれたことなのに、どうして学院長はそんな処分をくだしたのかな」
「処分とは思えないですわよ。むしろわたくしたちにはサプライズに近い、ラッキーな出来事ですわよ」
「学院長はもしかしてそれを狙っていたのかな」
話を聞く限りでは生徒会に入れることは、どちらかといえばラッキーな話だ。でも裏を返せば俺を逃げられないようにするためとも考えられる。
「ねらう? どういうことセフィちゃん」
「ただの予想だけど、学院長はわたしをせいとかいで仕事をさせて、わたしの気持ちを変えさせようとしているんじゃないかな。勿論すぐにというわけではないけど、自分が学院長である内に聖女を出す。そうすればこの学院の名前は更に広がる、でしょ?」
「今でも充分有名校ですわよ」
「でもわたしが聖女様直々のさそいを断ってしまった。だから学院としても顔がたたなくなる。もしかしたら入学する生徒の数も減っちゃうかもしれない。それだけは避けたいんじゃないかな。たしかな実績を残して」
俺はセフィであることを一瞬忘れて長々と自分の考えを伝える。簡単にまとめればこうだ。
断った代償を払ってね♪
この学院は俺が考えている以上に黒い何かを抱えているんじゃないかと考えてしまった。
「ねえユイちゃん、今のはなし理解できた?」
「ぜ、全然......」
「どういう思考していますの、彼女は......」
また三人になにか言われている気がするけど、それも気にしないでいよう。
■□■□■□
その日の夜。
「そっか。セフィも母さんと同じ道歩くのか」
今日の一連の出来事を父ユシスに話したところ、そんな返答が返ってきた。もう少し驚かれると思っていたが、しみじみとされてしまった。
「え? おかあさんもそうだったの?」
「前に母さんも同じ学院に通っていた話はしただろ? 母さんはそこで生徒会長もやっていたんだ。流石に学校は違ったから詳しくは知らないけど」
「そう、なんだ」
母ソフィも歩いた同じ道。年代的には十年以上前になるけど、生徒会長にまでなっていたならどこかに記録も残っているかもしれない。
(それだけ母さんは実力もあって、素質もあったんだな。そしてその子供として産まれたセフィが同じ道を歩く......か)
「どうしたセフィ。何か考え事か?」
「ねえおとうさん。おとうさんはわたしにおかあさんと同じ聖女になってほしい?」
「それは......セフィがそう決めたなら尊重するよ。ただ急ぐ必要はどこにもない。お前はまだ子供なんだから」
「うん、そうだよね。ゆっくり考える」
俺はユシスを残して自分の部屋に戻ると、そのままベッドに潜り込んだ。いつもなら寝る前にやる予習も、今日はやる気が出ない。
(母が生徒会長をやっていた学院で、その娘が生徒会の手伝いをする。ありきたりな話だけど、何でここまで話ができているんだ)
転生して五年も経って言う台詞ではないかもしれないが、今日まで起きたことを思い返して俺は何か作為的なものを感じずにはいられなかった。
(あまりに話ができすぎている。聖女教会の一件から、この生徒会の一件まで。まるで最初から決まっていたかのうようだな.)
考えすぎなのかもしれないが、そもそも俺は聖女になるために転生させられた。その事については五年経って今更どうこう言わないが、元々、希が転生する予定で計画が立てられていた。ならば、ここまでの出来事ももしかしたらシュリ達が仕組んだ可能性もゼロではない。
(いくら神様でもそれはやりすぎか?)
考えれば考えるほど深まる謎に、頭を悩ませながらも俺は眠りについた。
■□■□■□
かつて一人の騎士は死の運命にあるシスターに誓った。
『俺が絶対にお前を守る。そんな間違った運命、お前には絶対に歩かせない』
『ユシス、さんっ!』
次期聖女と慕われ、誰からも愛された彼女を誰よりもユシスは愛していた。結婚して子供も授かって、順風満帆な毎日。彼女の力は世界を癒し、何人も癒し続けた。
だから目をつけられてしまったのだ。絶対的な悪に。
(久しぶりに思い出したな......あの頃のこと......)
セフィが部屋に戻り一人残されたユシスは、かつての記憶を思い出し天井を見上げた。
(ソフィと同じ聖女に、か。血は確かに継いでいるんだなソフィも)
セフィは実の娘ながら心配なところが多かった。またいつ同じことを繰り返すか不安で、彼女を一人で学院に通わすのにも不安があった。
(いつかは話さないといけないな、セフィにも)
その理由をセフィ......いや、光はまだ知らない。彼はまだ気づいていないのだ。
何故彼が転生したとき、セフィは既に一つ歳をとっていたのか。
そこにはユシスしか知らないあの日の真実があった。