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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
第2章邂逅そして夏の幕開け
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第25話夏の足音 出会いの足音 前編

 聖女教会の一件から半月後。

 日本で言う梅雨の季節も終わりが近づき、少しずつ暑い日が続くようになった。


(この世界も地球と似たような季節だから、本当助かるよな)


 この世界には季節という概念は存在しないが、雨が続く月があったりずっと寒い月があったり、何処と無く日本と似ているところがあった。


「今日もあついですわね、セフィさん」


 お昼時。いつもの四人で食堂でお昼を食べているとフランがそんな言葉を洩らす。


「うん。この学院、ころもがえがないから尚更」


 それもそのはず、この学院、いやこの世界に衣替えという概念が存在しないからだ。年を通して同じ制服を着るので、中に着込める冬と違って夏はとにかく暑く感じる。


「ころもがえ? なんですのそれは」


「きせつ.....その月にあった服に着替えること。ほら、奈の月とかは袖が短いふくを着るでしょ?」


「言われてみれば......」


 奈の月というのはにほんので言う7月の事を示し、奈の月(7月)、波の月(8月)は決まって暑い季節になっている。学院にも夏休みはちゃんとあり、この二ヶ月がそれに該当している。


(言葉も多少異なるとはいえ、似てるんだよな本当に)


 セフィとして産まれて一番苦労すると思っていたのがやはりこの世界の言語だ。産まれて間もない時はまだ喋れないので特に気にする必要がなかったが、年月が経てば話せるようにならなければならないと思っていた。

 だが今までも見て分かるように、何の障害もなく普通に会話ができている。勿論集中して勉強を頑張ったこともあるが、聞こえてくる言葉が割と日本語に似ていて、それに合わせて言葉を覚えたら普通の会話ができるようになっていた。


「えんそくの時もそうだったけど、セフィちゃんのちしきってすごいよね。授業でもちゃんと発言しているし」


 ここで自分の昼食を運んできたアリエッテが会話に入ってくる。彼女も魂が成人の俺とは違って、幼いながらその知識量はすごいにだが、自覚がないのかやたらとセフィを持ち上げてくる。セフィはアリエッテと違って、致命的に苦手な分野がある。


「それはアリエッテも同じだよ。じつぎとかは特にそうだし」


「あたしは体を動かすの好きだからね」


「わたしは運動とかからっきしだし、羨ましいよ」


 それは運動などの実技だ。日本で言う体育の分野。

 魂は男でも、本体はれっきとした少女であるがためか、このセフィという少女はすぐに息切れを起こす。特に遠足の時は何とか誤魔化していたが、息切れが激しくあの時治癒の魔法を使っていなければかなり危なかった。


(今更の話だけど、あまりに情けない話だよな......)


 生意気に指示を出してたくせに、自分が息切れを起こしていたら格好悪い他ない。


「ねえそういえば夏休みだけど、四人でどこかにお出掛けしたりしない? 遠くだと誰かのおかあさんとか連れていかないとだけど、初めてのなつやすみたくさん遊ぼう!」


「いいですわね。折角だから海とかもいきたいですわね」


「うみ?!」


「ど、どうしたのセフィちゃん。そんなおおげさに反応して」


「ご、ごめん。私海行くの初めてで嬉しくって」


 勿論それは嘘だ。(中身が)男の俺は海という単語に反応せざるえない。


(海と言えば水着! ようやく異世界らしいイベントがきた!)


 相手が小学生なのは目を瞑って、水着イベントといえば男の夢。嬉しくないはずがない。アリエッテ達に不審がられているが構わない。変な趣味を持っているとか思われたって構わない。


 たとえ見た目が女の子だとしても、男の魂としてこの夏を思いっきり満喫したい。


「セフィちゃん、今から少し時間あるかしら」


 海に思いを馳せていると、突然誰かに話しかけられる。声の主は先生だった。


「なんですか先生? まだお昼ご飯食べ終わっていないでんですが」


 お昼ご飯を食べ始めてまだそんなに時間が経っておらず、まだ半分以上お昼ご飯が残っている。このまま彼女の言う用事で時間が経ってしまえば、まともに食事ができないまま午後を迎えることになってしまう。


「それどころじゃないんです。学院長がセフィちゃんを呼んでいるので、至急付いてきてください」


「「「え?!」」」


 だけど用事があるのは彼女ではなく、ここの学院長とのこと。流石に想定していなかったので全員が驚きの声を上げた。


「が、学院長が?」


「セフィさん、やらかしましたの?」


「な、なにもしてないよ?」


 心当たりは何となくだけどあるが。

 けどそれだけでわざわざ学院長が呼び出すことか?


「とにかく付いてきて!」


 考えをまとめる間もなく、俺は先生に連れられて学院長室に向かうことになった。


「ご、ごめん、私の料理なかなか完成しなくて......あれ? セフィちゃんは?」


「学院長に」


「ゆうかいされましたわ」


「え? え?」


 ■□■□■□

 聖リラーシア学院、現学院長アリーシャ。高等科までエスカレーター式のこの学院の全てをまとめているこの学院のトップ。

 入学式で挨拶をしていたので、顔を見たことがある程度の認識だった。向こうは俺の名前すら知らないはずなのに、何故俺一人だけわざわざ呼び出したのか。


 考えられる理由はただ一つ。


「貴女、聖女様の誘いを断ったそうね」


「うっ」


 半月前の聖女教会の一件だ。この学院は何度も説明している通り、将来聖女を目指す育成校。そのゴールと言える聖女ユリエルからの直接の誘いを勝手に断ったのだ。学院長として顔が立たないのは分かる。でもこれは間違いなく、セフィとして決めたことなのだ。


 こっちも簡単には曲げられない。


「でもわたし、すぐにせいじょになれって言われてもそんなの無理です。もう決めたことなので」


「そうでしょうね。いくら素質があっても、初等科一年生には荷が重すぎる話だわ」


「学院長に何を言われてもわたしは......え? 怒っているわけじゃないんですか?」


「まだこんな小さな子に怒るほど私も鬼じゃないわよ」


 頭を撫でながら優しく微笑む学院長。思っていたことと違うことが起きて戸惑う俺に、学院長は話を続ける。


「でも素質のある貴女をこのまま放置っていうわけにはいかないの。だから聖女になるための訓練を今から始めてみない?」


「せいじょになるための訓練? それは授業でやっていますし」


「違うわよ、セフィちゃん。生徒会の仕事を手伝うの」


「せいとかい?」


 日本では馴染み深い言葉だが、この世界で聞くのは初めてだったので、まぬけな返事をしてしまう。


「そうよ、生徒会。会長ちゃんには話は通してあるから、明日の放課後ここを訪ねてみて」


 生徒会室までの案内図と思われる紙を渡される。


(あれ? これもしかしてもう逃げられないやつ?)


 やっぱり学院長は怒っていたらしい。

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