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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
第2章邂逅そして夏の幕開け
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第23話おとぎ話のような現実の話 後編

「このせかいの......やみ......」


 それは俺が今一番知りたいこと。けどいざそれを聞こうとすると、身体が少しだけ震え出す。


「怖がることはありません。私がお伝えするのは、その真偽ですから」


「わたしは学院の授業で聞いたことがあります。しかしそれを目で見たりしたことはありません」


「そうでしょうね。実際私達は目に見えないものと戦っていますから」


「目にみえないもの?」


 確かに光や闇は目に見えるものではない。けど彼女が言いたかった事はそういうことではないらしい。


「一年に十、いや正確にはもっとありますが、この数字の意味セフィさんには分かりますか?」


「わからないです」


「この世界から原因不明で消えている国や街の数です」


「......え?」


 俺は耳を疑った。この世界の規模は分からないが、これが地球上の話なら十年も経たない内に地球から国が消えてもおかしくない数だ。


「私達も正確には把握できていませんが、聖都側の偵察班の情報によると、それほどの規模で消えているんです。この世界から国が、そして人が。そして私達聖女はそれを打ち消す力を手にしています」


「やみを打ち消す力......」


 最初のシュリの説明ではここまで詳しくは語られなかった。


 闇を払い光を差し込む存在

 治癒の力で傷ついた人を癒す存在


 大筋は聖女が語ったものと変わらないが、存在の意味が大きく変わってくる。


(世界から国や人が消えていく......一体誰がそんなことをしているんだ)


 そんなことができるのは、RPGでいうと魔王レベルのやつだ。つまりこの世界にはそのレベルのなにかが存在しているということだ。


(まさかそれと戦えとか言い出したりしないよな?)


 そういうのは完全に専門外なので、俺としては完全にご勘弁してもらいたいのですが。


「ただその力は完全ではないんです。それが先程の話と繋がります」


「お母さんやユリエル様のびょうき......」


「闇というのは完全に毒素です。たとえ聖女だとしても、それを取り入れてしまえば必ず害を及ぼします」


「だからかくごが必要......」


 闇を打ち消す力がどのようなものなのかはハッキリしていない以上、どれ程のリスクがあるのかは計り知れないが、聖女の言う覚悟というのはどうやら己の命を賭すことに近いらしい。


(シュリはそれをわかっていて、俺、いや希にそれをやらせようとしていたのか)


 そう考えると彼女たちに怒りも覚える。もし希が同じ立場になって、俺の知らないところで命を懸けていたら何て考えたらゾッとする。


(こんな残酷な話あっていいのかよ......)


 聖女が自分の娘をこの道から遠ざける理由も理解ができるが、それなら俺でっていう選択肢も間違っている。こんな提案、よほどの人間に対してじゃない限り、言い出さないと思うんだが、まさか彼女は......。


「それでどうしますかセフィちゃん。貴女は覚悟をもって聖女になりますか?」


「わたし、は.....」


「ま、待っておかあさん!」


 俺が自分の答えを出そうとしたタイミングで、部屋の扉が開け放たれ、ユイが入ってきた。


「どうかしましたかユイ。まだ私は話が終わっていないですよ?」


「わ、わたしがおかあさんと話がしたい!」


 目を真っ赤にして、片頬だけ真っ赤にしながらそう宣言するユイ。


(こ、このわずかな時間に何があったんだ?)


 ■□■□■□

 突然の出来事に呆然とする俺を尻目に、ユイは言葉を続ける。


「おかあさん、いつもわたしに隠し事ばかりしてる。わたしが子供だから、わたしがまだ何も知らないからって。でも勘違いしてる」


「勘違い?」


「おかあさん、じぶんのからだのこと隠してる」


「っ! ど、どうしてそれを」


「むずかしい話はわからないよ。でもおかあさんは、わたしにもこうなってほしくないから遠ざけているんだよね?」


「それ、は」


 自分も知らなかった事実に今日初めて動揺を見せる聖女。彼女はユイがそこまで知っているなんて分からなかったのだろう。俺も正直今のには驚かされている。


(子供は大人が思っている以上に成長をしている、というのは正にその通りか)


「わたしおかあさんには無理はしてほしくない。わたしもせいじょになっておかあさんの負担を少しでも減らしたい。それはセフィちゃんでも譲れない」


「ユイ......」


「おかあさんが何を言おうが私は必ず聖女になる!」


 聖女を真っ直ぐに見つめ、ユイは強く決意したように言う。最初出会ったときは臆病な子だなとは思ったが、どうやらそれはただの思い違いだったらしい。


 彼女は既に足をつけていたのだ。聖女になると言う道の上を。


「......」


 ただそれに対して複雑な表情を浮かべるのは、母ユリエル。聖女としての立場ではなく、母として彼女が決めた道に戸惑っている様子だ。


(当たり前、か)


 どうやらそろそろ助け船を出してあげたほうが良さそうだ。


「あ、あの、ユリエル様」


「どうかしましたか?」


「さきほどの質問の答え、すぐには出せません。わたしには......まだかくごというのがわかりません。だから時間をください」


「時間、ですか」


「せいじょになる道は確かにわたしの道の一つかもしれません。ですが、もう少しゆっくり考えたいんです。だから、その、もうすこしユイの気持ちも汲み取ってあげてください。今ここでわたしがせいじょになったら、学院のみんなの道がなくなってしまいますから」


「セフィちゃん......」


「ではわたしはこのへんで」


 そう言い残して俺は部屋を出る。


(これでよかったんだよな......)


 俺がしたのは正直逃げだ。だから正しいとかそういうのは分からない。だけど今日、聖女ユリエルと話して少しだけ聖女について分かった気がする。


(聖女になる覚悟、か)


 果たしてこの先俺はその覚悟を持てる日が来るのだろうか。

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