第1話転生の時
ー俺を女の子として転生させる
聞き間違いであってほしかったその言葉は、どうあがいても聞き間違いではなかった。
〔確かに聖女なんだから、男がなるものじゃないけどさ〕
しかも転生ということは当然だけど、
〔赤ちゃんになるのか? 俺〕
ー今からでも断ったほうがいいかもしれない
俺の危険信号が赤に変わりかけている。引き返すなら今しかない。
「なあやっぱり俺以外に」
「時間がないの、私たちの世界は」
そう思い断ろうとしたとき、シェリが少しだけ声色を低くして言った。
「こんな形で巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないって思っている。でも私たちには時間がないの光」
「そんなにやばいのか? その世界は」
「光が考えているより何十倍もやばい状況。今に始まったことではないのかもしれないけど」
「それはどういう」
「私たちも精一杯サポートはする。だからお願い、私たちに力を貸してほしい」
シェリとシュリの神様はそう言って俺に頭を下げてきた。
〔神様がここまでするって、相当状況は悪いってことか……〕
俺が背負うには重すぎるのかもしれない。
ーでもそれを希が背負うはずだった
そう考えると、ここで俺がやらないという選択肢はないのではないか。
〔人生のやり直し、か……〕
無に近かった俺の十八年の人生をやり直せるなら、今しかチャンスがない。
「……分かったよ」
それなら答えは決まっている。
「どうせ断っても無理やりさせるつもりだったんだろ? なら乗ってやるよお前達の計画に」
「本当に?! ありがとう!」
「じゃあ早速手続きを始める」
理不尽に奪われた俺の青春、異世界で取り戻してみせる。
2
「なあ、残された希がどうなったかは流石に分からないよな」
俺の決心がついたところで気がかりになったのは残された希のことだけだった。
「残念だけど、あれから私達は君の世界に干渉してない」
「やっぱりそうだよな」
神様がそう何度も異世界に干渉するものではない。希だって事件の張本人に会いたくないだろう。
「心配?」
「当たり前だろ。あいつだけ残してきたんだから」
「そこまで心配なら、転生する前に彼女にメッセージ残して。手違いのお詫びとして彼女に届ける」
「いいのか?」
「いいよね? シェリ」
「まあ、異例中の異例だけど仕方がないか。やり方も強引だったし、彼女ももしかしたら塞ぎこんじゃっているかもしれないしね。せめてものお詫びとしてそのくらいはするよ」
「ありがとう」
俺は咄嗟に希に届ける言葉を考える。言いたい事は沢山ある。謝らなければならないことだって。でも一番伝えなければいけないのは、
これまでの感謝の気持ちと、好きだったという気持ち
せめてそれだけでも彼女に届けたい。最後のメッセージを。
「じゃあ今から言う言葉を希に伝えてほしい。頼む」
3
メッセージを託してしばらくした後、準備が完了したらしく、俺は魔法陣の上に立たされていた。
「これから君には神の力を授ける儀式を行うね。そしてそれが終わったら、そのまま転生だから。その体で話ができるのも今が最後かな」
「いよいよか」
希に伝えたい言葉は全て託した。後悔がないと言えば嘘になるけれど、もう生まれ変わる覚悟はできている。
(これから女性になるって改めて考えるととんでもないことだよな……)
去年の俺にこんなことを言っても絶対に信じないだろうし、ましてや死ぬだなんて普通なら考えない。これが夢ならどれだけよかったことか……。
「折原光」
「な、何だ?」
突然シュリに名前を呼ばれて、変な声を出してしまう。
「今回の私達の失態に巻き込む形になってしまった事は、本当に申し訳ない」
「もういいって。希がこうなるよりかは全然マシだったから」
「そう言ってくれると助かる。その代わりと言っては何だけど、ちゃんと高野希にはメッセージを届けるから」
「ああ、頼んだよ」
俺がそう返事すると同時に足元の魔法陣が光る。
「これで準備を完了っと。じゃあ目を閉じて」
俺はシュリの指示通りに目を閉じる。すると何かの魔法にかけられたかのように俺の意識は急に遠のき始める感覚に陥る。
「次目を開けたら君は私達の世界エデルシアの未来の聖女、聖者として生まれ変わる。もう引き返せないけど、覚悟はできてる?」
「……ああ」
「じゃあ折原光、改めセフィ。貴方の新たな人生に光と神の加護があらんことを」
「私達は遠くで見守っている」
シェリとシュリの声は耳に届いているものの、もう声は出すことができない。
(次目が覚めたらもう俺が俺ではなくなる)
十八年共にした体も声も何もかも全部。
シェリが最後に言っていた
俺の新たな性はセフィだと
きっとそこにたどり着くまでにまた長い時間を過ごすことになるだろう。そしてその間に十八年の人生の記憶も徐々に薄れていってしまうかもしれない。
(でも絶対に忘れないことがある)
それは……。