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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
第2章邂逅そして夏の幕開け
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第17話小さく確かな絆

 思わぬ形でアリエッテの家を訪れる事になった俺達。


「何でふたりもついてきてるの?」


「セフィさん一人にぬけがけさせるわけにはいきませんもの」


「アリエッテちゃんが心配だから......」


「まあ、いいんだけど」


 ユイとフランも引き連れアリエッテの家と思われる家の門前までやって来る。


「アリエッテの家ってウワサには聞いていたけど」


「大きい、ですわね」


「アリエッテちゃんの家は、昔いたすごいまほうつかいの血筋だって聞いたことある」


「それわたしも聞いたことある」


 だから俺は彼女をライバル視していたわけだし、家の大きさも何となくだけど予想通りだった。ちなみにどのくらいの大きさかと言うと、東京ドーム丸々一個入るかもしれない大きさだ(目測なので確かではないが)。


「それでどうやって家に入りますの? 呼び鈴とか見当たりませんが」


「多分そんなの鳴らしても、この広さだと誰もきづかないと思う。お客さん用の入口とかあると思うけど......」


 三人で周囲を見回すがあまりの大きさに、まずどこを探せばいいか分からない。そもそもここが家の入口なのかも分からないし、周囲に人がいる気配もない。


「困りましたわね......」


「あした渡すようなものじゃなさそうだし、どうしよう」


 家には入れない以上どうしようもできないので、どうしたものかと悩んでいると屋敷の方からこちらに人影がやって来た。


「コリン家に何かご用事でしょうか? その制服リラーシア学院の物とお見受けしますが」


「あ、はい。実はアリエッテさんに学院から渡すように頼まれたものがありまして」


「お嬢様のご学友の方でしたか。どうぞお入りください」


「あ、ありがとうございます!」


 現れたのはメイド服を着た青髪の二十代ほどの女性。数十分立ち往生していた俺達が気になって、声をかけてくれたらしい。家の門を開けてくれた彼女についていく形で三人で中に足を踏みい入れる。


(お嬢様、ねえ)


 お嬢様という言葉を聞いてついフランの顔を見る。


「な、なんですの?」


 その言葉はどちらかと言えば彼女の方が似合っている気がする。


 ■□■□■□

 メイドの女性、サフィ(後で名乗られた)に案内されて、アリエッテの家、コフィン邸に無事入ることができた俺達は、そのまま来客用の応接室に通されアリエッテが来るまでの間待つ事になった。


「そとから見てもそうでしたが、かなり広いですわね」


「うん。多分一人で歩いたら迷子になると思う」


「そ、それに、こ、こんなに広いおうちなのに息がつまりそう」


「なんというか重苦しい、ですわよね」


 フランとユイがそれぞれ口にするように、この家は肌がヒリつくくらい重苦しく、人が住んでいるはずなのにまるで幽霊屋敷に入ったかのようにとても静かだった。


(こんな家で暮らしているのか、アリエッテは......)


 彼女の性格からしてこんな所で暮らすのは、かなり居づらい空間なのが容易に想像できる。俺だってこんな家だったらすぐに家出している。


(セフィの家に行きたがっていたのは、これもあるんだろうな)


 小学一年生が暮らす家としてはあまりに重すぎる。


「セフィちゃんにみんな、どうしたのわざわざあたしの家に来て」


 応接室で待つこと五分。今日の学校での様子と全く変わらないアリエッテがやって来た。


「せんせいにアリエッテに届けてほしいって頼まれたものがあって、それを届けに来たの。はい、これ」


「その為にわざわざ来なくても......明日でもよかったのに」


「せんせいが急いで渡してほしそうだったから。それに」


「それに?」


 アリエッテを除いた三人で視線を合わせ頷く。


「ともだちが元気がないのに、それを無視できるほどはくじょうじゃありませんの」


「あたしフランとともだちになった覚えないけど」


「ふ、フランちゃんはともかく、私も! アリエッテちゃんが心配で」


「みんなアリエッテのことが心配で放っておけなかったの。よけいなお世話かもしれないけど、許して」


 ユイと一「わたくしともだちじゃありませんでしたの?!」と衝撃を受けているフランと一緒に真っ直ぐアリエッテを見て言う。これはここに来るまでの間にアリエッテに真っ先に言おうと決めていたことだった。


 多分アリエッテは自分のことにあまり踏み込んでほしくないタイプの人間だ。


 だから俺達の言葉は余計なお世話かもしれない。それでも俺は、彼女を見捨てることはできない。


 何故ならアリエッテは、異世界に来て初めてできた友達なのだから。


「ありがとうセフィちゃん、ユイちゃん。でもあたしはだいじょうぶだよ」


「アリエッテ、だめだよ無理したら」


 それでも強がるアリエッテに、さらに言葉をかけようとしたが、俺はあるとに気がつきそれを止める。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ」


 自分に何度も言い聞かせるように大丈夫というアリエッテ。けどその言葉は震え、頬には涙がつたっていた。多分今日一日、いやずっと前から我慢していたであろう涙。それがこの一週間に何があったのか言葉にせずとも分かった。


 この家の雰囲気。

 名門と言われる家柄。


 その中で彼女はたった三日間といえど停学という過ちを犯してしまった。けどそれは彼女だけの責任じゃない。


「アリエッテ、だいじょうぶ。わたしたちがいる。がまんもむりもする必要なんてないよ。それにアリエッテだけが悪いんじゃない。指示をしたのはわたし。だから気負う必要なんてどこにもない」


「うぅ......ぅ......セフィ、ちゃん」


「アリエッテ一人のせいにしようとしてたら、わたしたち三人が揃ってこないよ。だから、ね? 元気だして」


「うぅ......あぅ......」


 アリエッテは年相応の涙をずっと流し続ける。彼女の事情を俺達は知らない。だけど傷を癒すことくらいならできる。


 たった一ヶ月半一緒にいた仲。


 けどあの遠足で四人で時間を共にして、確かなものがそこに生まれた。


 まだまだ小さいけどそこに確かにある絆。


 その絆は俺の今後の人生にとって間違いなく重要なものだと気づくのはもう少し先のことになる。

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