第16話一度の過ちの代償
ーーー世界のどこかで一輪の百合の花が咲いた頃
「セフィさん、わたくしとおともだちになってください!」
「ヤだ」
「な、なんでですの?!」
三日間の停学明け、俺は登校するなりフランにフレンド申請をされていた。そして答えは勿論ノーだ。
「あたりまえだよ? この前は一緒に行動したけど、わたしその前のことはゆるしてないから」
「そ、そんな」
確かに遠足ではお互い協力しあった。けどそれとこれとは違う。自分の親のことをあそこまで言われて、すぐに受け入れるなんて、虫のいい話だ。
「なら一つわたくしと取り引きいたしませんか?」
「とりひき? 何でそんなこと」
というかそこまでして友達になりたいのか?
(それなら謝るのがまずは優先だろ)
「じつは遠足の日、わたくしあなたを探している人物に会ったのです。セフィのなまえを聞いたら、ものすごく食いつきましたわ」
「わたしの名前を?」
「誰だか気になりませんか? 気になるならわたくしとともだちに」
「べつにそこまで気にならないからいいや」
「なっ」
別にセフィの名前は今でもよく開かれる家でのパーティーとかで知られているし、食らいつくくらい興味持たれてる人なら逆に身の危険を感じる。その情報を知ったところで特にメリットもないので、取り引きする必要はない。
「......ノゾミという方はあんなに食らいついていたというのに、会ってもあげないんですわね」
「だからわたしとフランはともだちになる必要は......え?」
ふとふらんがこぼした名前に、俺の心臓が一瞬止まる。聞き間違えでなければ、今彼女は間違いなく......。
「いまフラン、ノゾミって言った?」
「言いましたわよ。それがどうかしましたか?」
「前言撤回。わたしと取り引きしよう」
「ど、どういうつもりですの? さっきと言っていることが逆ですわよ」
「ちょ、ちょっとじじょうが変わったの!」
ただの偶然ではあるかもしれない。でもその名前を聞いてしまった以上、背に腹は変えられない。
(まさか希が来ているのか? この世界に)
とても信じられない話だ。だけど彼女が.この一件に責任を感じているなら、もしかしたら行動していた可能性もある。問題はそれがどれだけの年月が経っているか、だ。
(もしあの直後にそんな事があったなら、少なくとも五年は経っているよな。その間希はどこでどうしていたんだ?)
一人で生活していたとは考えにくいけど、心配なのでついでに尋ねてみる。
「ノゾミ、さんはその時誰かと一緒だった?」
「一人お姉さんを連れていましたわよ。たしかシオンという名前のお姉さんでしたわ」
「そっか。一人じゃなかったんだ」
「何だか嬉しそうですわね」
「き、気のせいだよ」
嬉しいというよりはひと安心に近い。これで一応の不安要素は取り除けたわけだが、勿論それで終わりではない。
(ノゾミが本当に希なら、一度会わないとな)
こんな容姿で俺だって信じてもらえるかは分からないけど。
「そういえば今日は、アリエッテさんの姿が見当たりませんわね。もうすぐ授業がはじまるというのに」
「言われてみれば......」
いつもならとっくに隣に座っているはずのアリエッテの姿が見当たらない。停学の期間は四人とも同じだというのに、どうしたのだろうか。
「まさかサボりとかではありませんわよね」
「アリエッテに限って、そんなことないと思うけど」
結局停学明けで姿を見れたのはフランだけ。アリエッテもユイも、今日は登校してこなかった。
(何か二人にあったのか?)
俺は二人を心配しながらも、二人が登校してくるのを待つことしかできなかった。
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それからさらに二後にユイ、そしてしなんと一週間後にアリエッテは登校してきた。
「おはよう、セフィちゃん......」
いつもより声に覇気のないアリエッテが隣に座る。彼女を見た俺......いや、クラス全員が大きくざわついた。それは一週間ぶりに登校してきた事についてではない。
いや、それもあるかもしれないが、何よりざわつかせたのは、
「あ、アリエッテ?! どうしたの? すごくやつれてるよ?」
「べつに何もないから気にしないで......」
声からも分かるように、アリエッテは遠足で行動したときよりも、顔がやつれて目の下にくまができていてかなり疲れた様子だったからだ。彼女に何があったか、言葉にせずともはっきり分かるくらい変貌してしまった彼女は、理由を聞こうにも何も答えてもらえずあっという間に放課後になってしまった。
「あ、アリエッテちゃん、何かあったのかな」
放課後。そう言葉を洩らしたのはユイ。彼女も停学中に何かあったらしいが、それについて答えてはもらえなかった。セフィとフランは何もなかっただけに自覚は持てていなかったが、やはり今回の件は俺が考えている以上に大きな代償が支払われているのかもしれない。
「アリエッテ、わたくしたちに何も言わずに帰ってしまいましたし、やはりしんぱいですわ」
「それは同感。でもわたしたちにしてあげれることなんて何もないよ」
「それは......そうだけど」
三人で深いため息をつく。何もできない以上様子見するしかないと決め、俺達も家に帰ろうとしたが、そのタイミングで担任の先生が教室内に入ってきた。
「あ、丁度よかったセフィさん。今から帰るところ?」
「そ、そうだけど。どうしたのせんせい」
「実はアリエッテちゃんに渡し忘れたプリントがあって、セフィさんなら仲いいし届けてきてくれないかしら。住所はここに載ってるから、お願いね!」
俺の答えを待たずに先生は封筒を渡して、そのまま教室を出ていく。
(先週から気になっていたけど、先生の態度がよそよしくないか?)
停学の件があったからだろうけど、先生の態度が俺やアリエッテ達に対して明らかにおかしくなっていた。きっと問題児として扱われているのかもしれないが、今はそれよりも無理矢理渡されたこの封筒だ。
「どうしますの?」
「届けるしかないよ。それにこれはチャンスかもしれない」
「ちゃんす?」
「アリエッテに何があったか知れる大事なチャンス」