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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
間章 追ってやってきた少女
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第13話宿酒場『飛翔』

「今日もお疲れ様、ノゾミ」


 強引な形で異世界にやって来て五年。

 私、高野希は自分と手違いで命を奪われこの世界に転生した幼馴染を探し続けていた。とはいっても衣食住無しで暮らしていけるわけがないので、とある町の宿酒場で住み込みで働かせてもらっている。


「シオンもお疲れ。今日も繁盛だったね」


「それもこれもノゾミが働いてくれているおかげだよ!」


「そんなことないって。あの日マスターに助けてもらってなかったら、私は生きていなかったんだから」


「そんな大袈裟だってば」


 宿酒場『飛翔』

 名前が限りなく日本に近い宿酒場だが、れっきとしたこの世界の宿酒場で、町の中でも一番繁盛しているお店だ。その店を経営しているのが、私がマスターと呼んだ人と、その奥さんの二人の夫婦、そしてその子供のシオンの三人だった。

 この世界に来て間もない頃にとある事件に巻き込まれた私は、マスターに命を救ってもらってその恩返しと衣食住の確保を含めて、住み込みで働かせてもらうことを選んだ。


「ふわぁ」


 飛翔は宿酒場なので夜遅くから早朝ま開いており、私たちが仕事を終えてゆっくりできるのは太陽が昇った頃。完全に昼夜逆転生活になってしまっているので、光を探すのも難航していた。


(そんなの言い訳で、ここでの生活をすっかり楽しんでいるだけかもしれないけど)


 勿論五年間何もしていなかった訳じゃないけど、どこで生まれてどこで育っているかも分からない子供を、闇雲に探し続けるのは難しい。だから少しずつ情報を手に入れて、光、もといセフィを探すことにした。幸いなことにここは宿酒場なので、自然と情報も入るようになっている。


 今私が掴んでいる情報は、

(1)この世界には聖女を育成する学校が存在すること

(2)光が聖女を目指しているなら、そこに通っている可能性が非常に高いこと

(3)近々町から出た先にある山でその学校の行事が行われること


 この三点だ。学校に存在自体はかなり前に知っていたものの、生まれてからの年数的に今年辺りが接触できる可能性が高いと考えより情報を仕入れた結果、学校行事が町から出た先にある山で行われることが分かった。


(一年生が山に行くのって、遠足とかなのかな。だとしたら見つけやすいかも)


 問題はどうやって接触するか、なのだけど......。


「ノゾミ、ノゾミ! 私の話聞いてる?」


「え? あ、ごめん、考え事してた。どうしたの?」


「今度の休み、久しぶりにどこかに出掛けないって聞いてるの」


「今度の休み? 別にいいけどどこか行きたい場所ある?」


「ノゾミも知っているでしょ? 近くに山があるの」


「う、うん」


 今しがたその事を考えていたのでドキッとする。


「折角だから私登山してみたいなって」


「きゅ、急な話ね。今までだって機会はあったでしょ」


「今までは興味が湧かなかっただけ。ね? いいと思わない?」


「悪くはないと思うけど、私登山なんてしたことないよ?」


「大丈夫、私もだから」


「それは大丈夫とは言えないような......」


 とは言え断る理由もないので私はシオンと登山する約束をした。


(例の遠足と鉢合わせか分からないけど、たまには新しいことにチャレンジしてみるのもアリ、かな)


 光の事を優先しない辺り、私もすっかりこの世界に染まったなって思い、思わず笑みをこぼしてしまった。




 その後、シオンと別れ自分の部屋に戻った私は、眠ってくる眠気に身を任せながらベッドに飛び込んだ。


(今日もよく働いたなぁ)


 五年前の私だったら今の状況を説明しても、きっと理解できないだろう。


(あの日何も起きなければ今頃私は社会人。それもそれで楽しい人生なのかもしれないけど、こっちに来てそんな思いも大きく変わったなぁ)


 特にマスターやセレンさん(マスターの奥さん)、シオンに出会って助けられてから私は大きく変わった。こういう風な生き方も自分にはあったのだと。


 ただ決められたレールを進むより、自分の好きな道を作って好きなように進む。


 飛翔の人達にはその大切さを教えてもらった。


(本当感謝しかないな......)


 そんなことを考えている内に眠気がやって来て意識がどんどん遠ざかっていく。今日もまた夜遅くからの仕事だ。眠れる内にたっぷり眠っておかないと、体が持たない。


(おやすみなさい)


 私は眠気に身を任せそのまま深い眠りについた。


 ■□■□■□

 話は遡って、私がこの世界にはやって来る直前のこと。


「本気で彼を見つけるつもりなの? 簡単な話じゃないと思うけど」


 私を送り出してくれたシュリは最後の確認として私に尋ねた。


「本気も本気。私は一度やるって決めたことは曲げない主義だから」


「変わった人」


「それより私も一つ聞きたいことがあるんだけど、いい?」


「答えられる範囲なら」


「そもそもどうして私が、この聖者転生計画だっけ? に選ばれたのかなって」


「別に大きな理由はない。たまたま」


「それならいいんだけど。でも納得いかないのは、どうして私達のような普通の人間を殺してまでその計画を進めたいのか、なのよ。こっちからしたらはた迷惑な計画なんだけど」


「身勝手なことをしてるのは自覚がある」


 シュリは私の質問に淡々と答える。いくら神様であってもやっていることはかなり横暴だ。だから私はその理由を知りたかったのだけど、満足する答えは得られなかった。


「でもその答えいずれあの世界にいるうちに分かってくる」


「え?」


「私達がこんなことをしてまで変えなければならない事がある。そしてその役目は聖女の力を持った者にしかなし得ない事」


「光にしかできない、事......」


「話はここまで。そろそろ時間」


「あ、う、うん」


 何かを言おうと思ったがその前に時間が来てしまう。


 光が背負ってしまった私が背負うはずだった使命。


 その答えはそこで過ごせば分かる。まるで、いや本当にライトノベルのような非現実的な話。でも今それを私は、いや彼は体験させられている。そしてそれはこれから先も......。


(光は本当にこんな話受け入れちゃったのかな)


 その答えは分からない。


「じゃあ頑張って。多分過酷な暮らしにはなると思うけど、私の言葉の意味貴方達なら見つけられると思うから」


 シュリの言葉と共に私は送り出される。


 結局五年経った今でもその言葉の意味は見つけられていない。正確にはまだ私は聖女のこともなにも知れていないだけだけど、急ぐ必要はないと思っている。


 だって光の方がその答えを必要としていて、私はそれを支えてあげるだけなのだから。

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