第12話もしもと現実
俺が攻撃系の魔法を使えないことが判明している間にもワーウルフは輪の幅を狭めてきており、俺達は逃げ場をなくし始めていた。
「ど、どうするのセフィちゃん。いくらあたしのまほうでもこの数は......」
「にげばがありませんわよ! もう」
「くっ......」
(アリエッテの魔法で倒せるのも精々一匹。他に戦える人がいないこの状況で、なにかできることは......)
周囲を見回す。近くに川は流れているが、むやみに飛び込むのは危険だ。他にあるとしたらどこにでもある木。あれをうまく活用できないだろうか?
(こういう木は倒せれば十分に敵を妨害できるが、倒す方法が......いや、ある)
「アリエッテ、あの木に向かってさっきの魔法を放って!」
「木に? わ、分かった」
「フラン、ユイ、走れる?」
「さっきの魔法のお陰で走れますわ」
「わ、私も」
「じゃあ一気に駆け抜けるよ!」
アリエッテの魔法が当たったのを確認したと同時に、俺とユイとフラン、そして少し遅れてアリエッテが正面突破を図る。
「そこを通して!」
半ば強行突破の形で敵の包囲網を駆け抜ける。全員が治癒の魔法で疲れがとれていたことも後押しし、三人とも大きな怪我はせずに包囲網を突破。
包囲網を抜け少し進んだところで、背後から大きな倒れる音がした。
倒れたのは先程アリエッテが魔法で燃やして倒した大木。その下敷きになったのは、俺達を包囲していたワーウルフの群れ。更に木を燃やした事によって大木自体も燃えており、ワーウルフの群れをほぼ壊滅状態に追いやっていた。
「よし!」
予想通りの光景が広がっていて、思わずガッツポーズをする俺。それとは反対に、アリエッテ達三人は目の前で起きた光景にポカンとしている。
「どうしたの三人とも」
「さっきも言ったけど、セフィちゃんって本当にあたしたちと同じ歳だよね?」
「そ、そうだよ?」
「普通はわたくしたちこんな作戦思い付きませんわよ」
「た、たまたまだよ」
「ど、どこからそんなちしき得たの?」
「ご、ご本からとかかな」
実際は日本のアニメとかライトノベルからだけど。まさかこんなところでその知識が役に立つとは思ってなかった。
(日本のアニメ文化ってすごいな)
その知識は五年以上前のものではあるが。
「そ、それより気になったんだけど、アリエッテちゃんの火のまほう、こっちまで来てない?」
「え?!」
ユイに言われて俺は気づく。大木を燃やしただけに炎が、いつの間にかとなりの草木に燃え移り、ワーウルフどころか俺達まで燃やされかねない勢いになっていた。
「こ、これはもしや」
「山火事、ではありませんの?!」
「あ、あたしはただセフィの指示にしたがっただけだから!」
「あ、卑怯者!」
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聖リラーシア学院行事報告書 第一項
初等科第一学年遠足
開催日時 皐の月9日
場所 クラリス山
《概要》
今年度の入学生徒は潜在魔力測定不能者が複数現れたことにより、争いも激しいものと予想された今行事。
開始早々に一番期待されていた二名が他者二人を引き連れ行方不明になり、我々の予想を大きく裏切る結果が生まれた。
行方不明になった者達は他生徒全員のゴールを確認した後全員教師達により捜索が行われ、同日午後に無事発見された。しかし彼女達の問題行動はこれだけに留まらず、四人のうち誰かが放ったであろう火の魔法が山の木々を燃やし、ひとつ間違えば大事件になる山火事を発生させた。迅速な対応でこれらは無事鎮火させたが、その責任は大きいと考え、以下四名に三日間の停学の処罰を与えるとする。
[停学対象者]
セフィ·カリステラ
アリエッテ·コフィン
ユイ·クロフォード
フラン·シスナ
以上
(終わった、俺のスクールライフ.....)
あの遠足から二日後。俺は自分の部屋で頭を抱えていた。理由は言わずもがな、今さっき自身に与えられた今回の一件のケジメ、停学という烙印だ。まだ入学して一ヶ月も満たないスピード停学。後から知ったことだヴが、初等科の子が停学を食らうのは前代未聞とのこと
(普通はあり得ない話だもんな.....)
今回の一件で父ユシスは非常にお怒りで、この三日間部屋から出るのを一切禁止されてしまった。
その為今は何もせずベッドに寝転がっているわけだが、眠くもないので非常に退屈な時間が過ぎていく。考えることがあるとすれば、遠足での一件。結果的に停学ということになってしまったが、アリエッテがいなければあの窮地を脱する事は不可能だった。
アリエッテが持つ魔法の強さは間違いなく本物だった。それに比べて俺にできたことは意味を持たなかった治癒の魔法だけ。しかも攻撃魔法のつもりだったものがそれに変わってしまったのだ。
(聖女としては正解の力かもしれないけど、どんな魔法を使ってもああなってしまうならそれは......)
勿論聖女を育てる学校としては望ましい生徒なのかもしれない。けどもしも、治癒の面でもアリエッテに負けるならそれは......。
(俺は何のためにわざわざ転生したんだ?)
この役目が本来の通り希が担ったとしたら、結果はどうなっていたのだろうか。もしかしたら彼女なら停学も回避していたかもしれないし、魔法の使い方も違っていたかもしれない。今さらそんなことを考えたところでどうにもならない事だが、あれから既に四年以上経って、今更希の事を考えてしまう。
(もし逆の立場だったら、俺はどうなっていたのかな......。突然希を失って、それでも生きていかなくて)
"もしも"
それを頭につけて色々考えると、どんどん嫌悪感に襲われる。
(今頃希はどこで何をしているんだろう......)
俺は遠い世界にいる幼馴染に思いを馳せた。
「私も異世界に連れてって!」
「......困ったことになった」
今から四五年前、私は大きな決断をした。
「私このまま取り残されるなんて嫌。光を追って私も異世界に行きたい!」
「それ......本気で言ってる?」
「本気だもん! 女の子になった光に会いたい!」
それは私の人生を大きく変える決断。
「後悔、しない? 多分もうこっちに戻ってこれない」
「それでもいいよ!」
手違いによって命を奪われて、異世界に行ってしまった幼馴染の折原光。
「光を一人ぼっちになんてできないもの!」
「多分一人ぼっちじゃない、と思う」
「とにかく連れてって!」
「本当に困った......」
私は彼を追って同じ異世界に転移によってやって来た。
それがもう五年も前の話。
「ノゾミ、三番テーブルのお客さんの注文お願い!」
「分かった!」
彼を探し続けて五年。
私は今、下宿先の宿酒場で働き詰めの毎日を過ごしていた。
(光、いつになったら会えるの?)




