第124話オリーヴの魔女 中編
ーその昔
この世界には聖女という光なる存在の裏に、その影となる存在魔女が存在したという
世界から愛される聖女とは違って、憎まれし存在である魔女はある者たちの手によって滅ぼされた
俺が知っている言葉で言うなら『魔女狩り』に近いものがこの世界でも行われたらしい。あくまで本で読んだことがあるだけなので、その真偽は分からない。
「その目、どうやらボクのことを疑っているようだね」
「本の中でしか読んだことがないから、とても信じられなくて」
「言いたいことは分かるよ。でもボクという魔女が今ここに存在しているのだから、本の中だけの話じゃないってことだよ」
自称魔女はそう言っているが、本当に証明できるものがない以上身分をいくらでも偽ることができる。魔女狩りが行われたのだって初代聖女が存在していた頃の話だし、見た目が若すぎる。
「やだなぁ、若いだなんて照れるじゃないか」
「ひとのこころを勝手に読まないでください」
「別に心の声を読んでいるわけじゃないよ。なんとなくそんなこと考えているんだろうなって思っているだけ」
「それはそれで逆にこわいんですけど」
自分の勝手な想像で相手がそんなことを考えているって色々とやばい人間なのかもしれない。
(まさか魔女というのも嘘で、新手の詐欺だったりしないよな?)
「詐欺ってなんのこと?」
「本当はよんでいますよね?! わたしのこころ!」
色々ツッコんでいたらキリがないので、とりあえず話をいったん戻す。
「ほんとうに魔女なのかはいったん置いておくとして、スイカさんたちと一緒に入ってきたはずなのにどうしてわたしだけをこの場所に呼び寄せたんですか? 」
「それはボクが君だけに用事があるからだよ。他の人間には興味がないからね」
「前に私がオリーヴに来た時も見ていたと言っていましたけど、どうしてわたしに興味なんか」
「その答えは君自身が分かっているんじゃないのかい」
「私自身?」
「君は聖者転生計画の犠牲者の一人、そうなんだろ?」
「えっと、それは......」
「無理に隠す必要はないよ。ボクは全部見てきたから計画の事だって、教会がしていることだって知っている」
俺は答えに困って黙ってしまう。彼女が本当に魔女だというなら計画について知っていても何ら不思議な話ではないのだが、まさかこの一瞬でそこまで見抜かれてしまっているとは思わなかった。
(もしかしたら前に来た時から既に気づいていたのかもな。けどそれより気になるのが)
「仮にわたしがそうだったとして、犠牲者というのはどういう意味なんですか?」
「そのままの意味だよ。アルマルナが始めた誰も救われない計画、それに強制的に参加させられた君は犠牲者以外のなにものでもないじゃないか」
「アルマルナってたしか初代聖女の名前ですよね? 知っているんですか?」
「知っているも何もボクにとっては大切な友達だったからね。向こうがどう思っていたかは分からないけれど、ボクは彼女の事をルナって呼んでいたくらいには親しかったよ」
少し遠い目をしながらそう語るオルティナ。先述の魔女狩りを率先していたのは聖女教会の人間だったと聞いている。ならその中心ともいうべき聖女はその主導者であり、オルティナにとっては恨むべき存在。
それでもアルマルナを今になっても友達と呼んでいる彼女の内心は、俺には到底計り知れない。
「オルティナさんに聞きたいことがあるんですが、聞いてもいいですか?」
「何でも聞いていいよ。その為に君をここに呼び出したんだから。勿論ボクが応えられる範囲で、だけど」
「オルティナさんは『アルマルナの遺産』という言葉を知っていますか?」
「勿論知っているよ。と言ってもルナ本人が直接遺した物ではないから、詳しいことはボクには分からないけれど」
「直接遺した物ではないって、どういうことですか?」
「知っているかもしれないけどルナは、転生計画の発案者でありこの世界で唯一の純粋な聖女になった人間だ。その力の大きさは、歴代聖女とは全く比べ物にならないくらいだった。そんな彼女が亡き跡からあるものが残ったと言われている。それが彼女の遺産と呼ばれるもの、らしいね」
「亡き跡から残ったもの......」
アルマルナが亡くなったのは数百年も前の話だ。それが今もなお形として残っていることがどうしても不思議で仕方がないが、とりあえずそれも重要な手がかりなのかもしれない。
「聞きたいのはそれだけかい?」
「さっきオルティナさんは私のことを計画の犠牲者と言っていましたが、オルティナさんは聖者転生計画について何か知っているんですか?」
「全部は知らないけど、ボクもその計画を考えた人間の一人だからね」
「そうなんですか?」
「この世界を守るために神の手の力を借りる禁忌とも呼ぶべき計画。最初これをルナがボクに提案してきたときは正気かと疑ったけど、この世界はそこまでしないといけないほど追い詰められていたのも事実だったんだ。まさかそれが何百年経った今でも続くことになるとは思っていなかったんだけどね」
「よければ教えてくれないですか? 計画について詳しく」
「ああ、いいとも。折角の機会だ、君も知っておくといい。未来の聖女として、どうしてこの世界に造られた聖女が必要になったのかを」




