第123話オリーヴの魔女 前編
ーオリーヴには昔から入ることができない幽霊屋敷が存在していて、そこに入ったものは二度と外へ戻れない
そんな話を突然シオンが言い出したのは、年越しする少し前。彼女曰く、それはオリーヴに残り続ける呪いみたいなもので、何と魔物に襲撃された際も形は見事に残ったという。
「だからって私達が調査しなくてもいいと思うんだけど」
「なら付いてこなくてもよかったんですよ?」
「それは、セフィが心配だから」
「お化け屋敷、楽しみだね」
「......心配なさそうに見えますが」
「確かにそうかも」
その調査に向かったのはセフィ、スイカさん、希の三人だった。俺は昔からこういう非現実的存在が好きなので、こういう調査は好きだ。
逆に希は昔からお化けとかそういう類いが大の苦手なので、本来なら行きたくないのに、それを知ってか知らぬかシオンは彼女を調査員の一人に選んだ。
「スイカさんはそういう系統は、怖くないの?」
「私は見たくないものは見ないですから。そういうのは全く問題ありません」
「いいなぁ、私にもそういうのができれば」
「私みたいになっても不便だらけですよ?」
「そういう意味で言ったんじゃない」
そうこう話をしているうちに、目的の幽霊屋敷に到着。
「これは......言葉の通り幽霊屋敷ですね」
それを見てスイカさんが一言言うと、希は背筋が凍ったかのようにガクブルと震えた。
(無理に付いてくる必要なかったのにな)
その様子を見て、俺は苦笑いする。確かに俺も少しだけ怖くも感じるが、それ以上にワクワクを感じていた。
(本物のお化け屋敷をこの目で見れる日が来るなんてな)
これを口にしたら希に叩かれそうだが、俺はやっぱりこの幽霊屋敷に心が踊っている。
「ね、ねえ、本当にこんな所に入るの? 入ったら二度と戻って来れないんだよ?」
「それはあくまで都市伝説ですから。何かカラクリがあるんですよ」
「か、カラクリ?」
「幽霊なんて存在しませんから、絶対何かあると思っています」
「うわぁ、スイカさんってそういう人なんですね......」
日本とかでもこういうことを言っている人いたなって思いながら、俺は屋敷を見上げる。
大きさは二階建て
だけど横に広がっていて、イメージ的にはアメリカにあるホワイトハウスに近い
明らかにボロいのと、日本のカラスみたいな魔物が徘徊していることを除けば一見普通の屋敷ではある。
「幽霊とかは冗談にして、入ったら出られないというのは嘘ではないかもしれないですよ」
「え?」
「この屋敷、何か大きな結界みたいなのが張られています。誰かが意図的に張っている、魔法結界を」
「それってつまり、この幽霊屋敷は」
「誰かが意図的に作った可能性があるかもしれません。まだ調べてみないと分かりませんが」
2
スイカさん曰く、魔法結界は必ずどこかに外から入れる綻びが存在しているとのことで、まずは屋敷の外をぐるっと回りながらそれを探すことにした。
「なあ希」
「な、何よ」
「帰っていいぞ?」
「だ、大丈夫だから! わ、私はこれくらい平気にならないと、強くなれないから」
「そんなに生き急ぐなって」
「生き急いでいないわよ!」
小学生に支えられながらブルブル震える大人の構図は、なかなか面白いものだがこれ以上からかうと可哀想なので黙っておく。
(それにしてもこの異様な雰囲気......絶対に何かあるな)
目には見えないけど、この屋敷からは禍禍しい何かを感じる。スイカさんが言ったように、幽霊と言うよりは怨霊のような何かをこの場所から感じる。
「なあ希、本当に危ないと思ったら帰っても」
それに本当に危険を感じた俺は、希に帰るように言おうとしたところで、俺は気づいた。
ーさっきまで近くに居たはずの希の姿がない。
(いつの間にはぐれたんだ? いや、これは)
いつの間にはぐれたのかと思ったが、どうやらセフィの方が屋敷の方に取り込まれてしまったらしく、さっきまで屋敷の外を歩いていたはずなのに俺は今屋敷の中にいた。
「スイカさん、希!」
試しに二人の名前を呼んでみるが返事はない。ここの主はセフィだけをここに招待した、それに何か意味があるのだろうか。
「それにしても幽霊屋敷って聞いていたけど、中は綺麗」
屋敷の中は外観とは違って、隅々まで掃除が行き届いていて、とても幽霊屋敷という言葉とは似合わない。誰かがここに住んでいても何も不思議な話ではない。
「誰かいませんか?」
けど屋敷の中は外で感じたような誰かの気配もなく、セフィの声だけが屋敷に響き渡るだけ。一階と二階を一通り探索したが、特別何かあるようには思えなかった。
「この部屋で最後か」
そして探索していない部屋は最後の一つになっていた。
「お邪魔します......」
ゆっくりと部屋の扉を開くと、中は書斎みたいな場所になっていて、部屋中が本という本で埋め尽くされていた。
ーそしてその部屋の中心には、
「ようこそ僕のの書斎へ。君がいつかこの場所にやってくるのを待っていたよ」
ハットを深々と被って、緑色のマントを羽織っている女性が本を読んでいた。
「私を待っていた?」
「ああ、そうさ。前回貴女がこの街に来てから、いつかここに来てくれると分かっていたからね」
「前回って半年前から?」
名前も知らない女性から、突然そんなことを言われても俺は困惑するしかない。
「自己紹介がまだだったね。ボクはオルティナ。人はボクのことを魔女、なんて呼んでいる」




