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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
第7章魔法使いになりたくて
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第120話それぞれの年越し

「キサラ、いるかしら」


 セフィへの手紙を書き終えて筆を置いた私は、一息つくとキサラを呼んだ。


「はい、エル様。お呼びでしょうか?」


「これ、明日彼女に渡しておいてほしいの」


「出来上がったんですか? 招待状」


「ええ。これに応じてくれるといいんだけど」


「聖夜祭が終わってから、どこかへ行ってしまったらしいですし、精神的に不安なのかもしれないですね」


「でもちゃんと渡せるわよね?」


「その点はご心配なく」


 私は書き上がった手紙をキサラに渡して、彼女はそれを懐にしまった。


「それにしても、随分と大胆な行動をしましたね、エル様」


「そう? 私はセフィちゃんと沢山話がしたいから、招待しただけなんだけど」


「キャルシャ様は反対していましたよ?」


「お母様は何も分かっていないだけなのよ。これはチャンスなのに」


 本当の目的のためにも私が招待したのに、お母様は一般人を王宮に呼びたくないと猛反対した。

 逆にお父様は賛成してくれ、その助言もあってお母様も頷いてくれたのだった。


「ねえキサラ」


「はい」


「本当のことセフィちゃんに話したら怒られるかな」


「普通ならば怒るかと思いますよ」


「私がしている事って騙し討ち、みたいなものだもんね。でも私にはそれ以外の道はないから」


 セフィちゃんには転入して最初の頃に私の目的は話してある。でもまだ全部話していないことが沢山あるし、もしかしたら友達を続けることさえできないかもしれない。


(だから今のうちに謝っておくね、セフィちゃん)


 私は窓の外から見える王都を見ながら、セフィちゃんに謝罪をした。


 2

 私がオリーヴに現れたのは本当に偶然だった。シェリ様の命を受けて地上に降り立って、セフィの姿を追った結果オリーヴに辿り着いた。


 ーそしてその時に私は目の当たりにした。魔物の襲撃を受けたオリーヴの姿を


 そこからは身体は勝手に動いていて、この街を護らなければならない=セフィを護ることに繋がった。


(ただそれだけの話、なのに)


 セフィもノゾミという女の子も私に感謝した。私はただ自分のできることをしただけで、あんなにも感謝の言葉を言われると少し、ほんの少しだけ恥ずかしくなる。


(私は誰かに感謝されるような天使ではないのに、皆が優しすぎる)


 こんな気持ちにさせられたのは、もしかしたら彼女と会って以来かもしれない。


 ーそんな私は今日も月を見上げる


 今日はセフィやノゾミには分からない、どこか遠くの空で月を眺めた。もう何度も眺めているこの月はいつ見ても綺麗だった。


(アルマルナ、貴女が好きだったこの月は今でも変わってないわよ)


 四百年の時を越えても、目に映る月は相も変わらず私を照らし続けていた。


 3

「今年も残り僅かだね、光」


「そうだな」


 今年最後の仕事も終わり、新年まで残り一時間を切っていた。

 当然ながらこの世界には紅白歌合戦も、年末特番のテレビも、除夜の鐘もない。最初はそんな年越しに寂しさもあったけれど、7年も繰り返せば慣れる。


 ーそれに今年はいつもと違う


「今年は本当に色々なことがあったよね。私達」


「そうだな。まさか希がこの世界にやって来ていて、こうして無事に再会できるとも思わなかったよ」


「あれから6年経っているんだよ? 本当に長い時間だった」


「......何も知らなかったとはいえ、会いに行けなくて悪かった。何より希をこんな形で巻き込んでしまったことも悪かったって思ってる」


「元々私の役目だったんだから、そんなの今更の話よ光。私からしたら夢に見た異世界生活だし、それがなかったらオリーヴの人達に会えなかったんだから私は感謝してる」


 以前にも似たようなことを言われた気がするけど、つくづく自分が彼女の代わりになれてよかったと思う。

 もし彼女が俺の立場になっていたら、思い描くような異世界生活も送れなかっただろうし、残された俺は絶望して何かを起こしていたかもしれない。


(そう考えると我ながら怖いな)


「希は......これからもオリーヴの復興のために、ここに残るんだよな?」


「うん。こんな私でも役に立てるから」


「じゃあ、またしばらくのお別れになるんだな」


 オリーヴと家までは馬車に乗ってもかなり時間がかかる距離にあるので、会える頻度は少なくなってしまう。それでも前回みたいに不安を抱えたまま毎日を過ごすよりは、何倍もマシではあるが。


 「もしかして私に会えなくて寂しくなっちゃった?」


 「馬鹿、そうじゃねえよ。......まあ、寂しくはあるけどさ」


 「相変わらず素直じゃないなぁ光は。でも、ありがとう」


 そんないつも通りの調子で会話しながらふと時計を見ると、新年まで残り三十秒だった。


 「の、希! もう新年まで三十秒だ!」


 「え? あ、本当だ、どうしよう」


 「どうしようもなにも、この時間じゃ」


 そうこうしている内に時計はてっぺんを指して、新年を知らせる時計の音だけがその場に響いた。


 「なんというか、俺達らしいって言えばらしいけど」


 「年越しにしては締まらないよね」


 「でもまあ、希。あけましておめでとう」


 「こちらこそあけましておめでとう、光」


 リラーシア学院に入学してから色々あった9ヶ月。俺の異世界生活はようやく7年目を迎えたのだった。

お知らせ

次から新章突入のため、小説の全体改稿作業に入ります。その為次回の更新は12/25になります。

王都で繰り広げられる陰謀と策略、そして出会い。お楽しみに!

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