第119話招待状
一夜明け
「おはよう、フィア」
「......おはよう」
昨夜のこともあって、フィアの意外な一面を見た俺は以前よりも彼女との距離が縮まった気がした。
(と言っても当の本人はいつも通りなんだけど)
彼女のこのクールの皮はどうすれば剥がれるだろうか。
「何?」
「べつに何でもないよ」
「ならどうしてニヤニヤしてるの? 気のせいだよ気のせい」
それは今後に乞うご期待、ということにしておこう。
「おはようございます、セフィちゃん」
「あ、おはようございます。スイカさん」
「忘れていると思いますが、今日は今年で最後の日ですよ。来年のためにも、今日はいつも以上に復興を頑張りましょう」
「今年最後の日? あっ」
スイカさんにそう言われて俺は気づいた。聖夜に色々ありすぎて時間の経過すら忘れていたが、気づけばこの世界も新たな年を迎えるらしい。
(本当はアリエッテ達と一緒に年末年始を迎えるはずだったのに、こんなことになるなんて思わなかったな)
フラン、ユイ、アリエッテ。入学式の出会いから始まって七ヶ月。決して長い時間ではないけど、きっといい友達になれると思っていた。
ーでも今の現実はどうだ
フランはこの地を去り、アリエッテもユイも聖夜祭の一件でそれぞれがバラバラになってしまった。
(何で俺だけは平気なんだ。三人はあんなに苦労しているのに)
「セフィちゃん、大丈夫ですか?」
「アリエッテ、フラン、ユイ......みんなと一緒に年越しをできるはずだったんです。何にも事件なんて起きないで、四人で笑って一年を終えて、また新しい一年始まる予定だったんです」
「そうですね......」
「スイカさん......先生、私に何が足りないんですか? 入学してから色々な人から注目されて、私も少しだけそれが嬉しくて......それでも何かが足りない。友達ですら助けられない、私のこの力はなんのためにあるんですか?」
希にも言った言葉をスイカさんにも投げかけてしまう。自分に足りないもの、それが何なのかもしかしたらスイカさんなら分かると思って、そんな小さな希望に縋って、俺はスイカさんに問う。
「それはこれから見極めるべきだと思いますよ。確かに最近は辛いことばかりが起きていると思います。でもそれを乗り越えたら、その先にきっと希望があると思います。かつての私がそうだったように」
「その先の光、ですか......」
俺が求めていた答えではなかったけれど、これから見極めるべきという話は少しだけ頷ける。それはスイカさんの過去を昨日聞いたからであって、生き急ぐ必要はないことを教えてもらった。
(希望は決して零ではないよな)
また来年、ユイとアリエッテとは顔を合わせて話がしたい。そしてその時にもう一度向き合いたいと思う。
聖女のこと、転生したこと、その他のことも。
「少しだけ話をできてよかったです。スイカさん」
「昨日私の話を聞いてくれたちょっとのお礼です。さあ、復興頑張りますよ」
「はい!」
そして話した先に見えるものが、スイカさんの言った小さな希望だと俺は思った。
2
そんな年末のお昼過ぎ。作業が一段落してお昼ご飯を食べているときだった。
「そういえばセフィ、貴女に渡すものがあった」
フィアが思い出したかのように、セフィに渡してきたのは一通の手紙だった。
「私に手紙?」
今までそんなものは受け取ったことなかったので、不思議に思いながらも俺は手紙を開いてみた。
「セフィへ 聖夜祭の話はとある伝手で聞いたわ。今ロレアル王室もその犯人を追っているみたいなの。私は王族といってもまだまだ子供だから関われないけど、できることなら力を貸したいと思ってる」
差出人はエルからだった。
終業式の時に会って少し話して以来だが、どうやら冬休みの間は王都に帰っているらしい。わざわざ年末年始の挨拶の手紙を送ってきたのかと思ったが、手紙の最後の方にこう書かれていた。
「それで私から提案があるんだけど、年明けの三日から四日の間に王都に来てみない? 王族からの来賓客としての招待だから精一杯おもてなしするわ。返事は三日に貴女の家に行ったときに聞くから考えておいてね。じゃあお互いによいお年を」
要約:私の家(王室)に遊びに来て! 勿論泊まりで!
ということらしい。
「す、す、スイカさん! 大変です」
「どうしましたか? そんなに大慌てして」
「落ち着いてなんていられないですよ!」
俺は興奮と戸惑いを交えながらスイカさんに手紙のことを説明した。
「えー、王室が招待ですか?! い、いつからそんな関わりが」
「あ、えっと、それは」
そういえばエルの事情を知っているのはセフィだけなので、そこから驚かれてしまうのも当然といえば当然だった。
でも、隠すことができないので、
「え、エル様がリラーシア学院に?!」
「こ、声が大きいですよ」
昨日の意趣返しのつもりはないが、スイカさんを驚かせることに無事成功した。
「そ、そんなに大きな事件が起きているなんて、私も腰を抜かしますよセフィちゃん」
「すいません、だまっているように頼まれたので」
俺は謝りながら手紙を眺める。
(招待状、か。それにしては気になることが多すぎるな)
内容もそうだが、何故彼女はセフィがここにいることを知っているのか、それが一番気になることだった。
(誰かに監視されているのか?)
出会ったときのエルの言葉を思い出すと、それもやぶさかではないが、その真相は今の俺には分からなかった。




