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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
第7章魔法使いになりたくて
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第118話彼女が護った場所

「それが今日までの経緯です」


 スイカさんはそこまで語り終えると、こちらを見て微笑んできた。大人の女性の微笑みに俺は少しだけドキッとしながらも、言葉を紡ぐ。


「じゃあもしかしてスイカさんは、あの日私が話をしなくても全部知っていた、そういうことなんですか?」


「はい。全部承知の上だったんですよ」


「本当すごいですね」


 思わず苦笑いが出る。全部知っていて最初の反応を見せていたのだと考えると、この人のすごさには頭が上がらない。


(でもちゃんと、誓いを守ったんだな)


 スイカさんから語られた物語はきっと全部ではないだろう。本当はもっと色々なことがあって、過酷な経験もしてきたのだと思う。


(それでもこの人は、今俺の......セフィの横にいてくれている)


 俺はそんな彼女に憧れと、


「長い話になってしまいましたね。今日はもう休みましょうか」


「はい」


 ほんの少しの好意のの気持ちを抱き始めていた。


 2

 その日の夜遅く。


(この世界の冬は本当に寒いな)


 冬の寒さで目を覚ましてしまった俺は、身体を起こして少しだけ外の散歩に出かけた。


(ここが本当にあのオリーヴだなんて思えないよな)


 そこら中が倒壊した建物ばかりで、その被害の大きさは言葉にせずとも伝わってくる。


(希やオリーヴの人達は今、一所懸命に復興を頑張っている。それに比べて俺は)


 今もこの先も、できることなんてあるのだろうか。友達ですらまともに助けてあげれない俺が。


(風邪を引く前に戻るか。......ん?)


 十分ほど散歩して、寝床に戻ろうとしたところで誰かがいる気配を感じる。こんな遅い時間に起きている人物なんて珍しいが、何となくだけど心当たりがあった。


「フィア、こんなところにいたら風邪ひくよ?」


「大丈夫。私はそういうのならないから」


 瓦礫の山のてっぺん。そこにフィアは腰を掛けて空に浮かぶ月を眺めていた。


「隣、座ってもいい?」


「んっ」


 折角なので俺も瓦礫を登り、彼女の隣に腰掛ける。


「綺麗......」


 そして彼女と同じ態勢で月を眺めると、その光景に思わず感嘆の声が漏れ出てしまった。


「いつ見てもこの世界の夜空は好き。ただこう眺めているだけで、色々なことを忘れさせてくれる」


「色々な事って?」


「色々な事は色々な事」


 スイカさんの時もそうだったけど、今日はよくからかわれている気がする。でもなぜか嫌悪感は抱かないから不思議だ。


「......あの日、私はこの街をなんとしても護りたいって思った。人は皆非力だし、一方的に蹂躙される姿だけは見ていられなかったから」


「フィアはちゃんと護ってくれたよ。私の大切な人もまもってくれた」


「でもそれはほんの一部の人間でしかない。本当はそれ以上に犠牲者が出ている」


「それは......」


「何よりこの街の惨状を見ると、私は守り切れたとは言い切れない。結局私は非力なんだって」


 淡々と語るフィアだが、感情がこもっていないわけではない。言葉の節々に悔しさと悲しさが混ざっている。


(俺はどう言葉を掛ければいいんだ、目の前の彼女に)


 犠牲者が多いことも、オリーヴがこうなってしまったことも紛れもない事実だ。だからどんなに言葉を掛けても、慰めにはならない。


 ならせめて、俺ができることは、


「フィア、少しだけ頭を下に下げてくれる?」


「? どうして急に......っ」


「大丈夫だよ、フィア。フィアはよくやっているよ」


 彼女の頭を優しく撫でてあげることだけだった。勿論ただ撫でるだけではなく、その手に少しだけ魔法を纏わせて彼女の心を癒した。


「セフィ......その、恥ずかしい」


「私もすこしはずかしいよ。でも、今は誰も見ていないから」


「そういう問題じゃない」


 そんなことを言うフィアだが、少しだけ耳が赤いのを見て思わず笑みが零れる。


(よかった、フィアにもそういう感情があって)


 すごい失礼なことを思っている気がするけど、こういうのを見せられるともっと続けたくなる。


「うぅっ、セフィがそんなことしてくるとは思わなかった」


「すごく可愛いかったよフィア」


「い、いい加減にして!」


 普段の彼女から出ているとは思えないくらい可愛らしい天使に、こちらまでもが恥ずかしくなる。


(これ本当にフィアなんだよな?)


 人格がまるで生まれ変わっているような彼女に、俺はそんな疑問を持ってしまう。


「セフィの馬鹿」


 セフィの手を離しながら顔を真っ赤にして言うティアは、これが本当の自分なのだと言わんばかりの顔をした後に、一瞬でいつもの表情に戻った。


「でもさフィア、確かに護れなかったこともあったかもしれないけど、護った人達は少なからずフィアに感謝しているんだよ?」


「私に、感謝?」


「うん。もしあの日、誰も助けに来なかったらこの街は形どころか生き残りすらいなかったって。だから感謝しているって」


「そんな、私は何も......」


「そう思っているのはフィアだけよ」


 突然第三者が会話に入ってきたと思って見たら、希が近くでこちらを見上げていた。


「貴女は確か......」


「希よ。さっきも自己紹介したと思うけど、貴女にあの時助けてもらった一人で、貴女を命の恩人とも言っていた人よ」


「ごめんなさい。でもあの時助けたのはただの偶然だし、命の恩人は大袈裟すぎる」


「それが勘違いだって言ってるの。光......セフィも言っていたけど、ここにいる生き残った皆が貴女や王国騎士団に感謝しているの。それを無下にするような真似は私が許さないわ」


 流石は希と言うべきか。頑ななフィアの心を無理にでもこじ開けようとしているのが伝わってくる。


(俺も何度も助けられたんだよな......)


 こちらを引っ張ってくれる彼女が俺は好きだったんだ。


 「そんなに言われると、少し恥ずかしい」


 こうなるとフィアも希に一瞬だけデレを見せざる得なかったのだった。

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