第117話魔法溢れる世界を貴女に
「初代聖女アルマルナ......産まれながらにして聖女としての力をその身に宿した始まりの聖女ですか」
ソフィの事もあって魔法の研究と一緒に聖女の研究もしていた私は、調べていくうちに初代聖女アルマルナという名前に辿り着いた。
『神聖■■■国にて、アルマルナという人間あり。その者を聖女と呼ばんとする』
私が読んだ古文書の一文にはそう記されていた。この一文を見つけたときは、もしかしたらアルマルナという人物を探っていけば、ソフィを、聖女を救えるかもしれないそう思った。
ーあの時、
「私のお腹には双子の子供がいます。ですが二人とも産むのはとてもではありませんが、私の身体では難しいんです」
ソフィは自分の中に宿った命をそう涙を流しながら語った。
「どうして? ソフィは別に病弱では......あっ」
どうしてソフィが私に相談してきたのか、すぐに理解できてしまった。
(私以外に話せる相手なんているわけがないんですよね)
ソフィの身体が既に始まっている、そんな話出来る相手がいるとしたら旦那のユシスさんと、友達の私以外にいない。
「だから私は反対だったんです。もし聖女になるなら、きっとこういう結末を辿るって。それをどうしても止めたくて、沢山魔法を研究して......それなのに、それなのに......なにも成果を得られなくて......」
あの時に聖女になるという話を聞いてから、その決意の固さは分かり切っていた。分かり切っていたから、どうしても目の前の友達を助けたかったのに、私は......。
「どうか泣かないでください。私は後悔なんてしてないんですから。それよりも私は未来の話をしたいんです」
「未来の話?」
「いつか叶うならばスイカに私の子供の家庭教師をしてほしいんです。私は教えてあげたくても、きっとその時まではこの命は持ってくれませんから」
「その未来の話にソフィがいないじゃないですか。それに今しがた子供を産むことはできないって」
「別の方法があるんです。私が確かに生きた証を残せるただ一つの方法が」
「何を......言いたいんですか?」
「スイカは......聖者転生計画と言う言葉を知っていますか?」
「聖者転生、計画?」
あの古文書で見たことがある言葉だ。神様と異世界の人間の命を借りて、新たな子供をこの世界に転生させる計画。そしてその子供は神様の力を借りているので、その身には聖女に足るだけの力を宿すことができる。
「私はその計画に全てを懸けたい、そう思っているんです」
2
私はソフィが聖者転生計画に手を出すことに最初は反対だった。ふざけている計画だと思っていましたし、他人を犠牲にしてまで得る幸せは本当に幸せと呼んでいいのか。私には分からなかった。
「本当にそれでいいんですか? そんなのが本当に幸せなんですか?」
「思っているから、私は選ぶんです。それが望んでいる未来だと思いますから」
「そんな選択......間違っていますよ。私は認められません」
「すいませんスイカ。もう心は決まっているんです」
ソフィの強い意志に私はそれ以上追求することはできなかった。本当はあの時もっと力強く止めていたら、未来の話は変わっていたかもしれない。
六年経った今でもそれだけは後悔している
そしてそれから少しして、計画は無事成功してセフィという女の子が産まれたという知らせを聞きました。
「無事産まれてよかったです、ソフィ」
「ありがとうございます、スイカ。今日の誕生日会にも来てくださって」
「私も一度だけでも触れてみたかったんです。ソフィの子供がどんな子供なのか」
セフィが産まれてから一年後の誕生日会。そこに招待されていた私は、勿論招待を受けてパーティー会場にやって来ました。
一体ソフィの子供はどんな魔法を持っていて、どんな姿をしているのか
目には見えなくても、私のまぶたの裏にその姿を焼き付けておきたかった。
セフィに触れられたのはほんの短い時間の間。私が不注意で怪我をしてしまって、それをセフィが治してくれたあの一瞬の間だけだった。
(この子が......ソフィの子供。魔法がとても暖かくて優しい)
まだ1歳の子供なのに、その中にある魔力は確かな物だった。ソフィの中にもあった全てを包み込んでくれるような魔力。
ーこの子がソフィの子供。将来この世界の命運を担うことになるかもしれない子供
「スイカ、どうしたんですか? もしかしてさっきの怪我は治ってなくて」
「違うんです。セフィちゃんは本当にソフィの子供なんだなって、そう思ったら嬉しくて......でも同時に悲しくもなって」
「スイカ......」
「こんなにも優しくて暖かい子が、私達のために犠牲になるかもしれない、なんて、そんなの悲しい......」
私には見えないけど、この世界には沢山の魔法が溢れている。きっとこの子もそれをこれから沢山知っていくことになる。
ーでも全部は一人だけの力じゃ知れない
「悲しいから私が、いつかこの子の家庭教師になって、その運命から救い出してみせます。ぜったいに」
私はソフィに誓った。いつか必ずセフィちゃんにこの魔法が溢れている世界を見せると。
「あっ、今セフィが笑いましたよ」
その誓いに答えるようにセフィちゃんが笑ってくれたらしいというのが、私は少しだけ嬉しかった。




