第112話魔法溢れる世界の中で②
「到着しました、ここが聖都です。スイカちゃん」
迷子になったとは言っても、子供の私とは違って土地勘のある聖女様は、何とか頑張って私を聖都まで連れて行ってくれた。
「ありがとうございます、聖女様。私なんかのために」
「困っている子がいたら助ける、それが聖女の務めですから。それに、お礼を言うのはまだ早いです」
「ほんとうに、いいんですか? わたし、その、すこし怖くて」
意気揚々に私に協力をしてくれるティルリア様に、幼い私には少しだけ怖く感じた。いくら聖女といえど、一市民にしか過ぎない私に、ここまでする必要なんてない。もしかしたら何か裏があるのではないかって。
(それに本当に聖女なのかも分からない)
目に見えない私をいくらでも騙せることだってできる。目の前の女性は、本当は聖女を騙る別の誰かの可能性だってあった。
「ごめんなさい、不安にさせてしまって。私が本当に聖女なのか分からなくて、怖いんですよね?」
そんな震える私の手をティルリア様は、優しい言葉とともに包み込んでくれた。その手はとても温かくて、それだけでもこの人が聖女なのだと伝わってくる。
ティルリア様の言葉に私は頷いた後に言葉を続ける。
「ごめんなさい、ティルリア様。私、聖女様を信じることができなくて、どうしても怖いんです」
「大丈夫、大丈夫ですから。私はちゃんと貴女の味方です」
いつの間にか私の身体を優しくて抱きしめてくれるティルリア様。ここまで私に優しくしてくれる人を一度でも疑ってしまった自分が恥ずかしいくらいに、ティルリア様は私を優しく包み込んでくれた。
「まずは一度教会へ行って、沢山寝て疲れた身体を癒やしてから。お母さんを探しまょう」
「教会......聖女教会にですか? いいんですか、私が入ってしまって」
「教会に入ってはいけない人なんていません。アルマルナ様もそう仰るはずですから」
アルマルナとはこの世界で一番最初に聖女になった人という話を聞いたことある。聖女教会とは無縁だった私も受け入れてもらえるのかそんなことを思いながらも、
「分かりました、よろしくお願いします」
私はティルリア様の言葉に甘えてしばらく聖女教会に身を置くことになった。
2
ティルリア様と出会ってから三日が経った。服とか色々とボロボロだった私はティルリア様のおかげもあって、少しずつだけど元気を取り戻した。
「似合っていますよ、スイカちゃん」
服装もティルリア様が用意をしてくれたらしく、どういう服を着せてくれているのかは分からないけど、ティルリア様は何度も私に可愛いと繰り返していた。
(どんな服を私に着せているんだろう)
私には可愛いという言葉は知っているものの、それがどういうものなのかは分からない。けど似合っている、と言われるのは少しだけ嬉しかった。
ーそしてこの日は、それ以上に嬉しいことをティルリア様は報告してくれた
「スイカちゃんのお母さんがどこにあるのか分かりましたよ」
「本当ですか?!」
それはティルリア様が裏で、ずっと探してくれていた私のお母さんの発見。二年前に失った手がかりをようやくたぐり寄せられたことが、私は何より嬉しいことだった。
「ねえスイカちゃん。本当にお母さんに会いにいきますか?」
けどそんな私とは対照的に、ティルリア様の声色は明るくなかった。
「どういう意味ですか? 私はお母さんに会いたいからここまで」
「それがスイカちゃんにとってはとても残酷な事でも、ですか?」
「......言っている意味がわかりません、ティルリア様」
「......落ち着いて聞いてください、貴女のお母さんは」
3
「亡くなっていたんですか?」
「はい。私を置いていった僅か二年間の間に」
スイカさんはそこまで話をしたところで、一度大きな息を吐いた。彼女にとってこの話は、よほど辛いものだったのだろう。
こちらが心配そうな視線を送ると、スイカさんは微笑み返してきた。
「すいません、昔話をするなんて久々だったので。もうとっくに乗り越えたつもりだったんですけど」
「辛いならここで話をとめても」
「いえ、気にしないでください。私が話し始めた事ですから」
過去を思い出すと辛い気持ちになるのは俺だって分かる。たとえ乗り越えたって自分自身が思っていても、振り切れてないことは誰にだってある。
それは大人になってからこそ分かってくるものだ。
「ティルリア様はおかあさんの前の聖女の人なんですね。どういう人だったんですか?」
少しだけ重たくなってしまった空気を変えるために、こちらの方から話を振ってみる。アルマルナはともかく、ティルリアという名前を聞くのは初めてだった。
「ティルリア様はとても優しい人だったんですよ。あの日自分も迷子になっていたのに、それよりも私を優先してくれて。出会ったばかりの私のお願いも聞いてくれました」
「やっぱり聖女はみんないい人ばかりなんですね」
「はい。ティルリア様もソフィ様も、ユリエル様も皆いい人ばかりです。でも私にとってティルリア様は誰よりも特別でした」
「とくべつ?」
「実は私はティルリア様に出会ってから一年ほど、聖女教会にお世話になることになったんです」