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第109話聖夜祭、そしてー 後編

 悪夢の幕引きとなった聖夜祭は、反対勢力の侵入を簡単に許してしまったこともあり、教会の在り方についても問題視されるようになった。


 ー何より事情を知っていて、現場にいながら聖女を守れなかった俺達の責任は大きい


「私が、一番近くにいたんです。なのに全部怖くなって、お母さんに甘えてしまって。しゅうげきへの対処をできなくさせてしまったんです」


 聖夜祭から三日経っても目を覚まさないユリエル様をずっと見つめながら、ユイは掠れた声でそう言った。


「ユイは、なにもわるくないよ。悪いのはー組織だけだから」


 それに対して俺は、そうやって慰めにもならない言葉を掛けることしかできない。誰に責任があるとかないとかではなく、事件が起きてしまったこと自体に問題があるのだから、彼女を責めることも、自分自身を責めることもできない。


(殺されなかっただけ、マシだって思いたいけど、こんな最悪の聖夜祭になるなんて思わなかった)


 今回の件で一番可哀想なのはユイだ。彼女は僅か六歳で自分の母親が、自分を庇ってこうなってしまったという現実と向き合わなければならない。

 その傷を癒やしたくても、俺達には何もしてやれない。何より別の問題も発生している。


「セフィ、あたし全部知っちゃった。反聖女教会がどうしてこんなことをしたのか、そして聖女教会がなにをかくしているのか」


 あの日一時行方をくらましたアリエッテが、壊れたおもちゃのように顔を合わせるたびに同じ言葉を繰り返すようになってしまった。


 ーそう、みんな壊れてしまった


 フランもアリエッテも、ユイも、そして俺自身も。皆がその過酷すぎる運命の前に精神を壊し、限界を迎えた。


(このまま、終わるのか俺達。皆バラバラになって、何もできないまま)


 この先にあるのは全てが絶望で、光も届かないのだろうか。本当に、これで......。


「いつになく情けない顔しているわね、光」


「......え?」


 ユリエル様のお見舞いに行った帰り道、フラフラになりながら歩いていると誰かに声をかけられる。


「のぞ、み?」


 この世界で俺を名前で呼んでくれる人はたった一人しかいない。そして俺の目の前に立つショートカットの女性は、半年前の髪型とは違うけど顔と声は間違いなく行方不明だった希のものだった。


「やっと、やっと再会できたね光」


 2

 その日の夜、再会を喜ぶ意味も込めて希を家に招待した。


「まさか旅行に行った直後にああいうことがあったから心配したけど、無事だったようで何よりだ」


「心配してくださりありがとうございます。今オリーヴは復興に向けて頑張っている最中です」


「何か私たちに手伝えることがあれば、言ってくださいね。復興のお手伝いをさせてもらいます」


「何かあれば是非力を貸してくれると助かります」


 ただ再会を喜ぶと言っても、聖女の件もあってそこまで大喜びできるような空気ではなかった。希もそれに気づいているのだろう。いつもよりは声のトーンが控えめだった。


「聖女様の一件は私も聞いている。三日経った今でも、厳しい状況なんでしょ?」


「ああ。このまま目覚めない可能性もあるって」


 宴会もほどほどにして、俺は希と二人きりで話をするために彼女を部屋に招き入れた。


「反対勢力はどこの世界にでもいるけど、まさかここまで過激なものがこの世界にいるとは思わなかったなぁ」


「最初は俺もそう思っていたけど、実際に会って対峙して、ようやく理解できた。ああいう思想が組織を生み出すんだって」


「生み出した結果が今回の事件に繋がった、そういうこと?」


「もっと前からそういう兆候はあったんだと思う。それが今回の聖夜祭で爆発したんだよ」


 キッカケはいくらでもあったと思う。そしてきっかけとして選ばれてしまったのが、聖夜祭だったというわけだ。


「ねえ光、もしかして元気ない?」


「なんだよ薮から棒に」


「言葉にさっきから覇気を感じないし、何か疲れた顔してる」


「顔はこんなんだから分からないだろ」


 茶化すが希はこちらを真剣な目で見つめている。俺はため息をつきながら言葉を続けた。


「色々ありすぎたんだよ、あれから。希のことを心配しながらも、本当に沢山」


 それも嫌な思い出ばかり。すり減った精神は、とてもすぐには立て直せないほど脆くて、すぐにでも崩れそうなほどにぐらついていた。


「なあ希。今更こんなことを言うのもなんだけどさ」


「なに?」


「俺、聖女になるの諦めようと思うんだ」


 そして壊れかけた精神は、俺にそんな弱音を吐き出させた。もうこれ以上同じ思いを続けるなら、ここで道を引き返して聖女とは無縁の異世界生活をしたい、そう願うようになってしまった。


「本当にそんなことを言っているの?」


「本気だよ。もう聖女になるなんてどうでもよくなった。俺がいるせいで皆がおかしくなって、どんどん離れていく。こんな現実に、もう耐えられないんだ」


 俺は希に背を向けて話す。これ以上彼女を見ていると、甘えたくなってしまう。


 ー誰かに支えてもらいたい


 この前も感じたこの気持ちを俺は抑えられない。


「今度こそ一人ぼっちじゃないんだよ、光」


 それを察したのか希は優しく俺に言葉を投げかけてくる。


「だから辛かったら私に何でも相談してくれていい。私は絶対に光の前からいなくならないから」


 そして震える身体を彼女は優しく抱きしめてくれた。ただそれだけのことなのに、俺は嬉しくて、こみ上げてくる涙を抑えられなかった。


 そして......。


 「セフィちゃん、そろそろお風呂に」


 「シーッ」


 「ノゾミさん、もしかしてセフィちゃん、眠ってしまいましたか?」


 「うん。色々なことが起きすぎて疲れちゃったんだと思う」


 「そうですか......やっぱりセフィちゃんは、追い詰められていたんですか?」


 「心が壊れてしまいそうなくらいは」


 「たった一人で、戦っていたんですねセフィちゃん、いえ、彼は」


 「それでも弱音を吐けなかった。だからもう、立ち直れないかも」


 「それはどういう」


 「光は......聖女を目指すべきではないのかもしれない」

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