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第108話聖夜祭、そしてー 中編

 聖夜祭が始まってから三十分経った時、突然空が光った。


(今何が起きたんだ?)


 一瞬の出来事に会場の全員の視線が集まる。ただその光はすぐに消えてしまったので、特に気にする様子もなく視線を元に戻した。


「セフィちゃん、今何があったんですか?」


 それを無視できない人、ユリエル様が耳打ちをしてきた。「一瞬過ぎて何があったか分かりません」と俺が答えると、ユリエル様は少し不安そうな顔をしながらも、自分がいた場所に戻った。


(今のを見ていたとしたら、外にいるアリエッテか)


 話を聞こうと思い、彼女の姿を探すが見つからない。彼女は教会の入口に配置されているはずだが、人混みの中を探しても彼女の姿は見つからなかった。


(どこに行ったんだ? アリエッテ)


 何があったのか気になった俺は彼女のいた場所に向かおうとしたが、その足を止めてしまう。


(なんだ、この寒気は。誰かか、こっちを見ている?)


 周囲を、特に上の階の方を見て視線の正体を探る。すると微かに二階の方で人が動くのを感じた。


(まさかもう、侵入しているのか?!)


 アリエッテの事も気になるけど、こっちの方も無視はできない。誰にも気づかれてないうちに、対処しないと。


(ただ一人で行動するのは危ないな)


 誰か一緒に来てくれる人がいないかと探すと、近くにスイカさんを見つけて、事情を話した。


「まさか、既に侵入されているんですか?」


「わかりません。でも聖夜祭の参加者がいる必要の無い場所にひとのけはいがありました」


「確認する必要がありますね。セフィちゃん、案内できますか?」


「はい。こっちです、スイカさん」


 俺はなるべく一般人に不審に思われないように、スイカさんとその場から離れ、さっき見えた場所へと急いだ。


(もし本当に始まっているなら、全てが手遅れになる。その前に何とか間に合ってくれ)


 ユイ視点

「セフィちゃん、どこに行くんですか?」


 セフィちゃんを呼んだ私の声は雑踏の中にかき消され、どこかへスイカさんとどこかへ向かった彼女を呼び止められなかった。


(アリエッテちゃんもいませんし、お母さんを誰が護れるんですか?)


 今この場で事情を知っているのはお母さんと私しかいない。しかも戦う力なんて持っていない私は、何か起きても護ることすらできない。


(まさかこの状況を狙った、なんてことはないですよね?)


 そこまで向こうの人達が考えていたとしたら、とても恐ろしいし怖い。


「お母さん!」


 自分を襲う不安と恐怖に耐えられなくなった私は、人目も気にせずお母さんのところに行って抱きつく。


「ユイ、どうかしましたか?」


「おかあさん、私怖い。ここにいたくない」


「......」


「怖い、帰りたい。お外にいたくない」


 身体が震え、立ってもいられなくなってしまう。そんな私をお母さんは優しく抱っこしてくれた。


「ごめんなさい、ユイ。貴女にはこんなことをさせるべきではなかった」


「怖いよぉ、お母さん。もう嫌だよぉ」


「大丈夫、大丈夫です。私が貴女を、必ず守ってみせますから。だからどうか、怖がらないでください」


 その後のことは私は覚えていない。沢山お母さんの胸で泣いて疲れて、そのまま眠って。気づいたら聖夜祭は終わっていた。


「おかあ......さん?」


 でも朝、目を覚ましたとき側にお母さんの姿はどこにもなかった。


 2

 スイカさんと一緒に聖女教会の二階へと上がった俺は、すぐに謎の人物を発見する。


「見つけた、スイカさんあの人が」


「セフィちゃん伏せてください!」


「え?」


 発見したと同時にスイカさんの指示に従って、その場に伏せると頭上を何かが通過するのを感じた。


 それは魔法とかではなく、明らかな物体


「まだ小さい子供に向かってこんな物騒なものを投げつけて、どういうつもりですか?」


「そいつは我々の標的の一人だからな。自ら誘われてやって来た馬鹿に対処したにすぎない」


「セフィちゃんは馬鹿ではありませんよ? 少なくともこんなことを考える貴方達と比べれば」


 「こんなことだと? 間違った世界を正してなにが悪い」


 「間違っているのは世界ではなく、貴方達でしょう!」


 「言わせておけば!」


 スイカさんが気を引いているうちに、俺は何とか立ち上がり目の前の敵を見据える。相手は運動会の時に会った人間とは違う声をしていた。


 顔はやはりフードで隠れていて、確認はできないが声からして男なのは間違いなかった


(この声、どこかで聞いたことがあるけど気のせいか?)


 正体を悟られないために魔法か何かで声が作られているが、何故か聞き覚えがあるような気がした。


(今はそんなことはどうでもいい。集中しないと)


 「いいか、この世界に聖女は不要な存在だ。存在し続ける限り、犠牲も生まれ続ける。それはお前達も知っているだろう?」


 「知っていますよ。でもそうしないと、この世界は滅んでしまうんですよ」


 「聖女がいなければ滅ぶという根拠はなんだ? 何を根拠に話をしているんだ。その聖女でさえ隠し事をしているのに、そんなものを偉そうに語れるのか?」


 「そんなの、聖女になったことがないので分かりません」


 「だろうな。誰もその根拠のない話だけを信じて、それに抗う者達は排除しようとする。それで本当に全てが正しいとお前達は言えるのか?」


 男の言っていることはデタラメとかではなく筋は通っていた。だがその逆も然り、


 「なら、あなたが言ったことはどうなの?」


 「何だと」


 「聖女が不要だとか隠し事をしているだとかそれらも根拠がない。私たちが言っていることと何一つ変わらない」


 「根拠なら、ある。俺が知っている聖女がそうだったからだ」


 「......え?」


 一瞬何を言っているか分からなかった。


 「それはどういう」


 「俺の身近な人間に、聖女になったやつがいた、ただそれだけの話だ。それよりも、そろそろ聖女様の戻った方がいいんじゃないか?」


 「あっ」


 男の言葉と同時くらいに、悲鳴が下から上がり、我に返る。


 「時間稼ぎさせてもらったよ」


 下を眺められる場所から一階の会場を覗くと、胸に抱かれているユイを守るように、聖女ユリエルが血を流して倒れていた。


 「ユリエル様!」


 「ユイ!」

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