第10話お弁当タイム
結局迷子が迷子を見つけただけという事になり、事態は悪化。いよいよ手詰まりの状況に俺達四人はなりかけていた。
「わたくしままだと本当におうちに帰れませんの?」
この状況にフランも不安の声を漏らす。ユイやアリエッテも含めて、今のこの状況はとてもじゃないけど小学生には耐えられない。
時間も既に相当な時間が経っているだろう。
この山の中を歩き続けたこともあり、体力だってあまり残っていない。
(困ったな......)
正直セフィ自身の体力も限界に近い。今この状況を打開する方法は、フランと同じグループのメンバーが彼女をが迷子になったことを先生に報告して、先生が俺達を探しに来てくれる以外にない。
しかしそれもいつになるか....。
「セフィちゃん、あたし歩きつかれた」
「わ、私ももう歩けない.....」
「そうだね、私もお腹もすいたし、一回おべんとう休憩にしようか」
そんな不安の中で焦っても仕方がないので、体力の回復を含めて一度お昼休憩を取ることにする。
「わあ、セフィちゃんのお弁当美味しそう!」
「そ、そうかな? お父さんが作ってくれたんだけど」
「あたしなんてママが作るのへたっぴだから、羨ましいなぁ」
「そ、そういうアリエッテちゃんのお弁当も美味しそうだよ?」
「ほんとうに? じゃあおかず交換しよ! ユイちゃん」
「うん!」
敷物を敷いて皆でお母さんに作ってもらったお弁当を自慢しあいながら、時にはおかずを交換して食べる。こんな状況でさえなければそれは最も小学生の遠足らしい光景だ。
たそんな三人の中の輪に入れず気まずそうにしているフランに声をかけた。
「フランも一緒に食べよう?」
「え? いいんですの? わたくし......」
「このまえのことはまだ許してないよ? でもこういうときは楽しいことは楽しまないと、ね?」
「セフィ......」
皆が精神不安定の状態の中で、フランを一人ぼっちにしてしまうのは可哀想だ。さっき彼女と一緒に行動することを選んだ時もそうだ。先日の件は勿論許せないことだけど、今日の反応を見る限りではフランも悪い子ではないのかもしれないのではと思う。
「わ、わたくしもおかずの交換、したいですわ」
「いいよー、あたしのウインナーとそれ交換ね」
「は、はい」
アリエッテもそれが分かってか否か(多分分かってない)、さっきまでの態度とは少しだけ違う。
(小学生って難しいようで、簡単なんだな)
自分が本当小学生だった頃はこういうことはしょっちゅうあった。けどまだ子供。大人たちと違ってあっさりとそんなしがらみが解ける。それが子供。
「それでこれから本当にどうするの? あたしたち」
食事も落ち着いたたとところで、アリエッテそう切り出す。お昼を食べたこともあって、皆落ち着きを取り戻しつつあったので、俺は一つ提案してみる。
「私はもう順位とか諦めて、少しずつ移動しながらせんせい達が見つけてくれるのを待った方がいいと思う」
「それだといつになるか分かりませんわよ?」
「それでもマシだよ。迷い続けるよりも」
「こ、この山、何か出るかもしれないよ?」
「その時はみんなできょうりょくして戦おう! 学んだことを生かせるチャンスだし、それでせんせい達が気づいてくれるかもしれない」
リスクはたかいかもしれないが、今四人でできることは、とにかく『協力』すること。勿論リスクが高いし、賭けに近い。
「うーん、あたし達できょうりょくできるかな......」
「できるよきっと。遠足って本当はそういうものなんだから」
この世界の魔物とういうものがどのようなモノなのかはまだ分かってないものの、流石に先生もそこまで危険な場所に放置はしないと思う。
「ただここにずっといるのは危ないから、せめて安全な場所に移動はしよう!」
先程耳を澄ませたとき、ユイとは違って俺は水の音を聞いていた。今もその音が近くに聞こえるので、恐らくこの近くに川が流れている。そこから下流に向けて少しずつ移動すれば、先生も見つけやすいだろうし、闇雲に山道を歩き続けるより気持ちも楽になる。
それを一通り三人に説明すると、全員がポカンとしていた。
「さっきもちょっと思ったんだけど、セフィちゃん物知りだよね」
「大人びているみたいだし......」
「もしかして年を嘘ついていたりいたしません?」
「ど、どうしてそうなるの?!」
中身が大人なのはあながち間違ってはいないんだけどさ......。
■□■□■□
昼食を終えて十分後。
「ほ、本当に川が......」
「ねえねえ、水遊びしちゃだめ?」
「着替えないからやめておいた方がいいと思う」
予想通り山道を隔てるように流れる川を発見。これで川の流れに沿って歩けば、いつかは下山、もしくは先生達が見つけてくれるだろう。
「じゃあ休みながら、少しずつ移動しよう」
「「「おー!」」」
弁当を食べたことによって気力も回復したのか、三人から元気な返事が返ってくる。一時期ほどうなるかと思ったが、これで精神面の問題は解決したと思われる。あとは無事に帰れるまでの体力との戦いだ。
「それにしても残念だったなぁ。あたし絶対一番取るつもりだったのに」
川に沿って歩き始めて五分後、アリエッテがそんなことをぼやく。
「みんなと同じ道を行ってたら、多分狙えたと思うよ」
「本当にセフィちゃん」
「うん。最初さえ間違ってなければ、ね」
「うぅ、ごめん」
「情けない話ですわね、本当」
「そういうフランだって、どうして一人ぼっちになんてなったの? あんなにあたし達に対抗心燃やしていたのに」
「そ、それは、あの方達がわたくしの言うことを聞かないからで」
「それでケンカして、か......」
だとしたら俺は一つ気になったことがあった。
「そういえばユイはフランが誰かとお話してるのを聞いたんだよね?」
「う、うん」
それはユイが聞いたフランのものと思われる声。ただしそれは誰かが会話していると彼女は言っていた。
「お話? わたくしあなた達と会う前に誰かとお話していませんわよ?」
「え? じゃあユイちゃんが聞いた声はフランじゃなくてべつの人?」
「そういうことになるけど、あの周辺に誰もいなかったような......」
声を聞いた方角にたまたまフランがいたって事だろうか。だとしたらそっちの声の主は別の誰か、それも二人組ということになる。
(でもフランがいた場所の周囲に他の気配はなかった。ならユイが聞いた声は一体......)
流石に今その答えが見つかるわけもないので、俺はそれ以上考えるのはやめアリエッテ達との会話に戻る。
「フランもいつもケンカ腰だから、対立しちゃうんじゃないの?」
「な、わたくしが悪いんですの?」
先程の話の流れから、話題はフランの性格に変わっており、アリエッテは遠慮せずフランの駄目なところを指摘していた。
「そういう性格を直したほうがいいと思うよ? セフィちゃんは優しいからいいけど、あたし達じゃなかったら多分ずっと一人で行動していたよ?」
「そ、そうでしょう、か」
「ね? ユイちゃん」
「わ、私? でもその通りかも......フランちゃん、なんというか学校でも話づらいから」
「ユイちゃんまで......」
二人から色々言われへこむフラン。ちょっと厳しいかもしれないが、この歳ならまだ修正がきく。今のうちに性格を直せれば、アリエッテ達も受け入れてくれるだろう。
(まあそれも本人の努力次第だけど......っ!)
三人の会話を聞きながらそんなことを考えていると、突然背筋が凍る感覚に襲われる。
「どうしたのセフィちゃん」
「アリエッテ、ユイ、フラン、構えて」
「え?」
「何かが......来る!」