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第106話アルマルナの遺産I

『セフィを聖女教会で保護してほしい』


 一昨日私は聖女ユリエルにそう頼んだ。それはセフィの父親ユシスからの頼みでもあり、私も願ったことだった。


「先日の運動会の件で思ったんだ。俺やスイカさんだけじゃセフィを守り切る事ができないって」


「しかしそれではまだまだ小さいセフィちゃんには酷過ぎますよ。それに聖女教会だってセフィちゃんを守り切れるとは限らないですよ」


「それはそうだけど。ここにいるよりは安全、かもしれないな」


 運動会が終わってから数日後の深夜。私とスイカを集めたユシスは、その事を語った。勿論これにはスイカも反対し、私も反対の立場だった。


「二人で護れない部分は、私がカバーするってだけでは駄目なの?」


「俺は確率が高い方を選びたい。いくら反聖女教会でも教会に直接侵入してくるなんて事は無いだろうし、幸いユリエル様もセフィの事を可愛がってくれている。不自由なことはなにもないはずだ」


 ユシスの言葉は確かに筋は通っている、かもしれない。でも彼の言葉には一番肝心な部分が抜けている。


「セフィちゃんの意志はどうなんですか? 私達大人が勝手に決めて、それに子供を巻き込むなんてそれこそ勝手すぎますよ」


「......勝手ではあるだろうな。でもそうでもしないといけない事情を、セフィ......彼なら理解してくれる」


 ユシスが言う彼はセフィの中に入っている魂のことを言っているのだろう。今までユシスの口から彼のことを話すことはなかったが、余程の事態なのとでも言いたいのかもしれない。


「彼は大人だからその辺りを理解してくれるって言うんですか?」


「俺はそう思っている」


「では尋ねますがユシスさんは本当にこれでいいと思っているんですか? セフィちゃんは貴方のたった一人子供なんですよ。自分の子供と離れ離れなんて悲しいことを」


「いいんだ、スイカさん。俺は......セフィのことを思ってこの選択をするんだ」


 ユシスはそれ以上は何も言わなかった。私はスイカと目を合わせる。


 “彼の指示に従うしかない”


 お互いは目でそう語って、諦めるしかなかった。


 2

 私はユシスの言葉をそのまま聖女ユリエルに伝えた。


「セフィちゃんを聖女教会で保護、ですか」


「今話したようにユシスがそう決めた。セフィの安全を確保するためにも、もっとも安全な場所にいさせたいって」


「でもその教会も、明後日の聖夜祭で組織に狙われているんですよ? それこそ安全だなんて言えないですよ」


「それは......ユシスも考えていなかったと思う。まさか聖夜祭を狙ってくるなんて誰も思わない」


「普通は考えられないようなことをする組織ですから......」


 それだけ組織の妄執が強いのはハッキリと伝わってくる。もはやそれは組織ではなく一種の宗教に近い。


(そこまでして彼らが得たいもの、それは......)


「ユリエルは知っているの? 反聖女教会の本当の目的を。ただ聖女の命を狙っているわけではないのは分かってるよね?」


「勿論知っていますよ、彼らの真の目的も。しかしそれについては、私も知らない部分もあるんですよ」


「私もずっと昔の話だから詳しくは分からない。でも間違いなく関係している」


「アルマルナの遺産、彼らの狙いはそれですよね」


 アルマルナとはこの世界で生まれた初めての聖女。もう何百年も昔の話になるが、その人がこの世界に残したあるものがこの世界のどこかにある。


 それが『アルマルナの遺産』


 私が知っているのはその名前だけで、一体どういうものなのかは分かっていない。知っているのは歴代の聖女だけ、そう言われている。


「彼らはただ勘違いしているだけなんですよ。いくらこの場所を探しても、私のことを尋問、監禁してもそんなものは出てこない。何故なら私達もそれを追っている立場なんです」


 ユリエルはアルマルナの遺産についてそう語った。


「組織はそれを知らないから、無闇にユリエルの、セフィの命を狙っている。それに気づくまできっとそれは続くと思う」


「それがいつになるかも、誰も分からないんですよね。だから私達は待つことしかできないんです」


 ここでユリエルの言葉が止まった。私もその先の言葉が出てこない。


(本当にこの場所が安全なの? 私にはそう思えないユシス)


 もしかしたら一番危険な場所かもしれないここに、セフィを本当に置いていいのか、今一度彼に話した方がよさそうだ。


「今は聖夜祭が無事終わることを願うしかないです。何も起きなければそれでいいんですが、きっと何かは起きてしまうでしょう。だからフィア、どうか私を護ってください」


「......分かった、絶対に護るって約束する」


 そうして迎えた聖夜祭当日。開始するまでまだ六時間近くある中、早速動きがあった。


「まさかこんなところに天使がいるなんて聞いてないわ」


「しかも第一級天使だなこれは。聖女もやっかいなものを味方にしたな」


 聖夜祭に先駆けて聖女教会に侵入しようとした二人。名前も顔も知らなかった。


「貴方達の狙いが分かっている以上、この場所は通さない。第一級守護天使としての役目、今度こそ果たさせてもらう」


 私は侵入者に向けて無数の光魔法を降り注がせる。天使の力は神の力に等しい。生身の人間が簡単に耐えられるものではない。


 ーけどそれが、私の油断だった。


「人間の力、甘く見るんじゃないわよ!」


 声がしたと思ったのも一瞬、天使の羽根に向けて矢が一本飛んできた。


 矢先が禍禍しい紫色の矢が。


「なっ、これは毒?!」


 私はよける間もなく矢を受けてしまった。


「しまっ、た」


 飛行能力を失った私は地上へ落ちる。その先で待っていたのは、無傷の二人だった。


「あれだけの魔法を受けてどうして?」


「こういうのを傾向と対策っていうんだな。念のため持っておいて正解だったぜ」


 男の方がそう言って私にあるものを見せつける。それはペンダント。


「どうして、それを。そりぇはー」


 身体に毒が回ってきたのか呂律が回らず、意識が朦朧としてくる。


「時期に全身に毒が回って、天使の貴方でも死に至るわ。聖女の最期を遠くで見ていなさい」


 私を置いて二人は聖女教会の方へ歩いて行く。私は手を伸ばそうとするが、届かない。


(こんなところで、私はーセフィ、ごめん。なにも)


「それ以上聖女の元へは向かわせられないな、お二方」


 意識を失う直前、誰かの声が遠くから聞こえた。


(男の......声? でも、どうしてここに......)


 声の正体を見る前に、私は意識を手放した。



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