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第105話それぞれの前夜 後編

「セフィ、戻ってくるの遅いね。いつまでお風呂に入っているのかな」


「そういえばさっき、おかあさんがお風呂に入っていったことと、関係あるかもしれません」


 聖夜祭前夜

 あたしとユイはお風呂から戻らないセフィを待ちながら、布団の上でゴロゴロしていた。


「ユリエル様が? どうしてだろ」


「二人ではなしをしたかったんじゃないでしょうか」


「またなの? あたし達だっているのに」


 たまにユリエル様が考えていることが分からない。初めて聖女教会に行ったときも、あからさまにセフィを優遇していた。


(いまならその理由も分かるけど)


 セフィはあたし達と違って特殊な人間だった。転生と言う言葉の意味は深くは分からないけど、普通ではないことは分かる。


「あたしこの前、セフィと二人だけで話をしたの。このまえユイと話をしたことを直接言いたくて」


「セフィちゃんには私たちをもっと頼ってほしい、って話ですよね。フランちゃんの一件もあって私たちは距離を置いていましたけど、裏でそんなことがあったんですね」


「黙っててごめんね」


 あたしはユイに頭を下げる。あの時にも聖夜祭の話題が上がったけど、まさかこんな形であたし達が関わることになるとは思っていなかった。


「あたし聖夜祭初めてさんかするから、すごく楽しみにしていたんだ」


「おかあさんが余計なことを言わなければこうなりませんでしたよね、すいません」


「ユイも、ユリエル様も、勿論セフィも誰も悪くないよ。悪いのは反聖女きょうかいだし、セフィに至っては被害にあっているんだから」


「それはそうですけど......」


 反聖女教会という名前はあたし達も知っていた。けど直接関係するのはもっと先の話だと思っていたし、もしくは関わることも無いと思っていた。


「私たちにできる事って、何かあるんですかね」


「それはあたしにも分からない。いくら力があっても、あたし達はまだまだ小さな子供だし。ほんとうに警戒する事しかできないと思う」


 だからこそあたし達は不安だった。聖女様に、セフィにもしもの事があったらなんて考えたら今日は眠れないかもしれない。


(あたし達の聖夜祭、成功してくれるよね?)


 言葉には出さないけどあたしもユイも、心の中にある不安は翌日になっても消えることはなかった。


 2

「私もセフィちゃんと同じような気持ちだったんですよ、転生してからちゃんと成長するまでは」


 一通り俺の話を聞いてくれたユリエル様は、天井眺めながらそう言葉を呟いた。


「ユリエル様も同じ、なんですか? 私みたいにこんな人生が嫌になったりしたんですか?」


「嫌になるに決まっているじゃないですか。ソフィ様が辿った末路を考えると、私も同じ道を辿るんじゃないかって思ってすごく怖かったんです。しかもユイも産まれたんですから」


「お母さんも......家族か聖女か、どちらかを選ぶかで悩んでいたみたいです」


 ユシスの話や本人の日記からも、それがヒシヒシと伝わっていた。けど俺やユリエル様は、それ以上に大事なものを懸けた。


 自分の命という一番大事なものを


「最初は生まれ変わることに私も抵抗は感じませんでした。ですが、この世界を、聖女のことを知っていくうちに私も同じよう気持ちになりました」


「それなら学院のことも?」


「はい。生徒会長のことも学院のルールも、全部知っています。本当心が折れてしまいそうです」


「でもどうして、そこまでして」


 聖女になりたいと思ったのか、その言葉は出てこない。彼女だって俺と同じ環境だったのだから、なりたくないと思ってもならなければならない。


 ーそれが神様から与えられた力の意味なのだから


「たまに私は思うんです。女神様はここまでの事情を知っておきながら、私に聖女をやらせたのか。長年聖女が不在だといっていましたが、ソフィ様もいましたし、何より私も聖女です」


「言われてみれば......そうですけど。嘘をつく理由ってあるんですか?」


「それは分かりません。もしくは真の理由があったりするのかもしれないですね」


「真の理由......」


 その言葉を聞いて俺の頭の中に引っかかるものがあった。


(別の理由があるとしたら、一つだけ思い当たることがあるな)


 ただそれは気のせいかもしれない。


「ユリエル様は」


 でも確かめずにはいられなかった。


「アルマルナと言う言葉を知っていますか?」


 3

 翌朝、聖夜祭当日。


 イベントは夕方からの開催なので、それまでは祭りの最終確認などをしていた。


「昨日はへやに戻ってこなかったけど、なにかあったのセフィ」


「別に何もないよ? ユリエル様と長話をしちゃったんだ」


「おかあさんとそんなに話すことがあるんですか?」


「うん、ユリエル様が聞きたいことがあったみたい。私もそれに答えただけ」


 嘘は言っていない。最初は俺が語っていたことが多かったけど、ある話を出してからは向こうから聞かれることが多かった。


 反聖女教会の人間が口にしたアルマルナと言う言葉


 初代聖女のその名前は、ユリエル様にとっても決して無視できない言葉だったらしい。


「色々二人にも話したいことはあるけど、今日はそれどころじゃないかも」


「それは、そうだよね。聖夜祭を乗り越えないといけないし」


「そうですね。でも聖夜祭が終わったらちゃんと今日までのことをぜんぶ話してくださいね」


「わかっているよ、二人とも」


 聖夜祭が開催されるまで残り半日。準備も無事終わり、あとは始まるまで待つだけだと思っていたこの時間。


 しかし裏で既に事件は始まっていた。


「ここから先は通さない、この命に代えても」

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