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第104話それぞれの前夜 前編

 一夜明け。


 セフイ達は翌日に控える聖夜祭に向けて準備を始めた。裏の事情はどうあれ、表向きは年に一度の大切なイベントなので準備などはしっかりしなければならない。


「そっちの飾り付けは終わった? セフイ」


「うん、バッチリ。ユイの方は?」


「こっちも終わりました」


 それを理解しているのか、ユイもアリエッテも作業の間は昨日の話は一切しなかった。


(しなかったというより、できなかったの方が近いけど)


 お昼になると一度休憩に入り、三人で一緒にユリエル様が用意してくれたお昼ご飯を食べた。


 ーしかもユリエル様がわざわざ三人のために作ってくれたとか


「どうですか、これ全部おかあさんの手料理ですよ?」


「これを」


「全部」


 しかし喜んだのも束の間、俺達は目の前に置かれた一般的な料理の五倍近くの量に絶句することになるとは思ってもいなかった。


「夕食も作ってくれるらしいので、楽しみにしていてください」


「ストップ、今すぐお母さんを止めてきて!」


「あたし達のおなか、壊れちゃうから!」


 そんなこともあったりして、聖夜祭の準備は何か起きることもなくむしろ楽しい時間だけが過ぎていった。


「はぁ、つかれた」


 そして無事準備も終了し、迎えた夜。一人だけお風呂に入るのが遅くなった俺は、一人大人数用の大浴場で温泉を堪能していた。


(ひとりでこうやってゆっくりできるの、なんだか久しぶりだな)


 ここ最近はずっと色々なことが起きすぎて、気が休まらない日が多かった、今もさほど変わらないけど、少し息抜きするのも悪くない。


(明日の聖夜祭、何も起きないことを願いたいけど、そうはいかないよな絶対)


 学院に入学するまでは、平和な時間が確かに続いていたはず。それなのにこの半年間で、あらゆる不幸が、俺にセフイに降りかかってきた。


(チート能力を持つということは、そういうことなのかもしれないけど)


 それを差し置いても、セフイが置かれている現状はとっくにキャパオーバーしている。


 ーそう、もう折原光という精神が限界なのだ


 たたでさえ小さい頃に母親を失っているという不幸が起きているのに、それと同等、或いはそれ以上の不幸が精神を蝕んでいる。


(けどここで、弱音なんて吐けない)


 どんなに周りの人間が支えてくれても、転生してこの世界にやって来たのは俺一人なのだから、それを誰かに共有なんてできっこない。


「こんな人生辛いよ......」


 折原光としての本音が漏れ出す。今この場に誰もいないから溢れる自分の気持ち。誰かに手を差し伸べてほしいってどんなに願っても、その手は空を切る。


 ー未だ行方不明の彼女のことも


 ー変な組織に命を狙われている聖女のことも


 全部投げ出して、逃げ出したい。もうどなったっていい、こんな世界。辛いことばかり考えて、勝てない相手に一人で戦って。


 その先に待つのは僅かしか生きれない聖女という人生


 それに何の意味がある。無しか残らない。


「そんな人生、今すぐ終わらしても」


「いいわけ無いですよ、セフイちゃん」


 俺の言葉に誰かが答えてくれた。


「辛い人生を辛いままに終わらせるなんて、それこそ悲しいですよ」


「ユリエル様......」


 俺の言葉にそう返してくれた聖女ユリエルは、涙を流していた。


 2

「どうして、泣いているんですか? ユリエル様」


「そんなの、セフィちゃんが一番分かっていますよね? 今のを見て聞いて、泣かない方が変ですよ」


「あぁ......そういうこと、できるんですよね」


 さっきの俺の想いは全て聖女様には聞こえていたらしい。そう分かった途端、恥ずかしさが増す。


「あまり聞かれたくなかったんですけど......」


「聞かれたくなかったら、そんなこと考えないでください」


「無茶言わないでくださいよ。それよりどうしてここに?」


「私もお風呂に入りに来たからです」


 当然の疑問に当然の答えが返ってくる。ここはお風呂なのだから当然なのだが、どちらかといえば一人でここにいたかった。


「どうしてそんなに抱え込んでいるのに、誰にも相談してくれないんですか?」


 湯船に足だけを入れながらユリエル様は俺に聞いてくる。


「さっきの聞いていたなら、答えも分かっていますよね?」


「分かっているから聞くんですよ。どうして頼らないんですか? ユイもその事で悩んでいましたよ?」


「ユイ達には全部話すわけにもいかないからですよ」


 中身が男の俺は、大人の女性の裸を長時間見ていられないので、背を向けて答える。


「では私には話せますよね?」


「え?」


「以前も話したと思いますが、私も貴方と一緒なんですよ?」


「あっ」


 そんな話を少し前にちょっとだけ聞いたことはある。ユリエルという人間は、誰かが転生した姿なのだと。


「それでも、話すことはできませんか?」


「それは......」


 言葉に困る。唯一相談できるのが彼女なら、もう少し自分のことを話してもいいのかもしれない。


(躊躇っていても駄目なんだけどなぁ)


 誰かと一から共有なんてしたことがないから、どう話をすればいいか分からない。


「時間はありますから、のぼせてしまう前に全部話してしまいましょ? 私なら貴方のお話を全部聞けますから」

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