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第103話反聖女教会Ⅲ

 反聖女教会


 運動会で事件を起こした組織が、まさかこんなにも早く次の狙いを決めてくるとは予想外だった。


(いや、反対勢力ならいつ事件を起こしても何もおかしくない話だけど)


 よりによって聖夜祭という人が多く集まるイベントで、大胆にも聖女を狙ってくるなんてあまりに想定外だった。


「反聖女教会って......セフィちゃんをねらった組織、ですよね。どうしてお母さんを」


「彼らの狙いは元から私のはずなんです。教会に対する反対組織というよりは、聖女そのものに反感を持っている組織ですから」


 ユシスもそんなことを話していた。けど彼らの狙いはその先にあるもの、セフィの命を狙ったのもそこにあると言っていた、


 ー何より俺が気になっていたのは、襲撃犯が言っていた“アルマルナ”という言葉と、その後に繋がる何かの言葉


 その言葉が組織の狙いと深い関わりがあるのは間違いないことだと思う。


「でもあたし達にできる事ってあるんですか?」


「アリエッテちゃん達には聖夜祭の手伝いをしながら、不審な人物がいないか警戒しておいてほしいんです。ただしあくまで警戒するだけ。絶対に危険なことだけはしないでください」


「でも、お母さんにもしもの事があったら」


 この話を聞いて一番不安な表情を浮かべたのは、誰よりも娘のユイだった。彼女の言うもしもの事、それは間違いなく最悪の事態だ。


「大丈夫ですよ、ユイ。貴女を悲しませるようなことは、絶対にありませんから」


 そんなユイをユリエル様は優しく抱きしめ、頭を撫でてあげた。


「ほんとうに......大丈夫なのかな、あたしたちで」


 それを眺めながらアリエッテはやはり不安の言葉。俺も拭いきれない不安に、彼女に返事をすることはできなかった。


 2

 夜は教会の中に用意された大部屋で、セフィ、アリエッテ、ユイの三人で布団をくっつけて眠ることにした。


「おやすみなさい、セフィちゃん、アリエッテちゃん」


「おやすみなさい」


 いつものお泊まり会なら、もう少し長い夜になりそうだったが、今回は別の意味で眠れそうにない夜になってしまった。


(反聖女教会、か......)


 おやすみと言ってから一時間ほど。俺は考え事ばかりしてまともに眠ることができなかった。


 ー聖女という存在そのものに異論を唱え、この世界から聖女を消し去ろうとする組織


 もし運動会で彼らと遭遇さえしなければ、その存在自体を知ることもなかったかもしれないこの世界の闇の部分。けど彼らの言い分も今なら少しだけ理解できてしまう。


 ー聖女というのは一種の呪いだ


 それが無くなれば、誰かが苦しむ必要がなくなる。そういう意味では正しい部分はあるのかもしれない。


(やり方さえ間違わなければ、だけど)


「セフィちゃん、起きていますか?」


「ユイ? 起きてるよ」


「あたしも起きてる。あんな話をされたあとにねむれるわけないよ」


 俺と同じく考え事をしていたのか、ユイもアリエッテも同じように眠れないらしく声だけが部屋に響く。


「私たちがお母さんを、聖女様を護る事なんてできるんでしょうか?」


「あたしたちは警戒するだけなんだよね?」


「でもそれだけで済むような話にはならないと思う。聖夜祭自体は大きなイベントだし、そこでもしもの事でも起きたら、私たちも戦わないと行けないかもしれない」


「やっぱり、そうなんですよね。お母さんはそれだけ危険なばしょに立つんですよね」


「......」


 俺もアリエッテもユイの言葉に何も答えられない。それが聖女という存在で、それに反抗するのが反聖女教会という組織なのだから。


(どっちも危険、という立場は変わらないんだよな)


「さっき、お母さんにだきしめられたとき、おかあさんの身体がすごくふるえていました。私たちの前では気丈に振る舞っていたのかもしれないですけど、ほんとうはふあんで怖いのかもしれません」


「あたりまえだよ。自分のいのちが狙われているなんて言われて、だれだって怖くなる。でもユリエル様は聖女だから弱音を吐けないんだと思う」


「なら、聖夜祭そのものを中止にはできないんですか? こんなに危険な状態で聖夜祭をたのしむなんて、できるわけないですよ」


「あたしたちはそうかもしれないけど、何も事情を知らない人達からしたら、それこそ不安を煽ることになるよ」


「そんな......」


 聖夜祭まで残り二日もない。そんな時に突然中止だなんて言い出したら、聖女に、或いは聖夜祭そのものに何かあったのではと世界中が不安になる。

 後者ならまだいいいが、前者に不安を抱いてしまったら、それこそ大きな問題に発展しかねない。


 そのバランスを考えた結果、最小限の不安に抑えるためにセフイ達を選んだ、そういうことだ。


「今はユリエル様を信じるか事しかできないよ、あたしたちは」


 アリエッテのその言葉を最後に誰も言葉を発することなく、そのまま静かに眠りについた。


 ーその頃


「お久しぶりですね、フィア。まさかまた会えるとは思っていませんでした」


「ユリエルも元気そうでなにより。けどさっきの話を聞いた限り、そうも言ってられない」


「聞いていたんですね?」


「セフイの近くにいたから、嫌でも聞こえる」


「そうですか。なら私のすることも理解してくれている、そういうことでいいですね?」


「少し強引、かもしれないけど、それが望んだ形なら何も言わない」


「ありがとうございます、フィア」


「その代わり、条件がある」


「条件?」


「今後のことを考えて、セフイを」


「セフイちゃんを?」


「ここで、聖女教会で保護してほしい」

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