第101話セフィとアリエッテI
翌日、俺は一人でアリエッテの家にやって来た。
「いらっしゃい、セフィ。きょうはきてくれてありがとう」
到着してすぐにアリエッテの部屋に通されると、俺は適当な場所に座りアリエッテもその近くに座った。
「こうやってあたし達がふたりきりになるのってもしかして初めてかも」
「うん。二人だけで遊ぶのは初めてかな。いつも誰かがいたし」
「......」
何を彼女と話せばいいのか分からず、しばらく部屋に沈黙が流れる。
「セフィは......フランが転校しちゃったことどう思っているの?」
一分くらいそれが続いた後に、アリエッテがそう切り出した。彼女が今日セフィを呼び出した1番の理由はこれだと俺は理解していた。
「どうって、わたしは寂しいよ。また会えると言ってもいつになるかなんて分からないし」
「そういう話がしたいんじゃないの。あたしは運動会から続いているこの一件、どうしても理解できないことばかりなの?セフィちゃんもほんとうらそうなんじゃないの?」
「それは......」
誤魔化しは聞かないとばかりに、アリエッテは真っ直ぐにこちらを見つめながら言ってくる。
(こういうところはほんとうに鋭いよな、アリエッテは)
「運動会がおわってから、放課後ずっとセフィちゃんはどこかに行っているよね? それもなにか関係あるんでしょ?」
「気になったことがあって調べていただけだよ。フランの事とはちょくせつ関係はしていない」
「直接じゃなくても、なにか関係があるってこと?」
「それは言い切れないよ。いまの情報だけだと、はんだんはできない」
「そうやってセフィちゃんはいつも誤魔化してるよね。このまえも強く言ったはずなのに何も理解してないよ」
「なにも理解してないわけじゃないよ。わたしも反省しているところはあるし、話せることは話したいって思ってる」
それが彼女達を頼るという意味になるのかは分からないが、抱え込みすぎは駄目だと反省はしている。
(けどわざわざ喧嘩しに来た訳じゃないんだよな)
俺も言葉を選ばなければならない。
「わたしもフランのことは沢山思うことがあるの。遠足の件でじけんを起こした私たちよりも酷い結果になったフランにたいして。もしかしたらリラーシアは何かを隠していて、変なのかもしれないって」
「ならあたしもちからになるよ。二人で、ううん、みんなで真実を探そうよ」
「アリエッテ......」
彼女はやはりセフィを真っ直ぐに見て言う。俺は少したじろぎながらも、言葉を続ける。
「もしわたしたちがこの先知る真実が、残酷なものでもだいじょうぶ?」
「その覚悟はできてるよ。運動会のときみたいにセフィだけを危険な目に合わせるなんてできない。だから、おねがい。もっとあたし達を頼って」
(アリエッテにここまで言わせておいて、俺はまた逃げてもいいのか?)
俺は大人だ。けどアリエッテ達はまだまだ子供。もしかしたらこの先にある真実は彼女達にとっては、あまりに辛く残酷な結末が待っているかもしれない。
「ほんとうにいいの?」
「なんども言わせないでよ。あたし達友だちでしょ?」
「......ありがとう、アリエッテ」
それでも大丈夫と言ってくれた彼女に、俺は小さくお礼を言った。
2
その話は学院に行かないとできない話なので、今日はひとまずその話は終わりにして、アリエッテがと二人での時間を過ごした。
「そういえばもうすぐ聖夜祭だね」
「あたし初めてさんかするんだよね、聖夜祭。セフィちゃんは?」
「わたしは去年おとうさんと参加したことがあるよ。出店とかもあってとても楽しかった思い出かな」
その中で話題は一ヶ月後に迫った聖夜祭について。毎年クリスマスが近くなると聖女教会が開催しているイベントで、王都で行われているものとはまた違った、ある意味では神聖な祭りだ。
「やっぱお祭りはたくさん食べてなんぼだよねぇ。あたしはそれを楽しみにしておこうかな」
「いちおう神聖なお祭りだから、気をつけてね」
(というかそんなに食い意地はるキャラだったか? アリエッテって)
普段はそんなに食べているようには見えないのだが、気のせいだろうか。
「たのしみだなぁ、聖夜祭」
けどそんな俺の疑問とは裏腹に、アリエッテは一ヶ月先の行事に胸を躍らせているのだった。
ーそれから二時間後
「じゃあまたあした学校で」
「うん、またね」
つい長話をしている間に時間が過ぎ、俺は家に帰ることに。玄関先まで見送ってくれたアリエッテに、俺は手を振りながら別れを告げた。
(これでほんとうによかったんだよな)
フランや学院の件を彼女達に協力してもらうのは、今でも少し気が引ける。でもあそこまでアリエッテに言われてしまったら言い返せないし、今後のことにも影響する。
ー間違っていたかいなかったか、それが分かるのはまだ先になる
やたらと大きい家を出て空を見上げる。この季節になると昼間の時間も短く、空も夕焼け空が広がっていた。
「わたしの進む道って、まちがっているのかなお母さん」
ふと口に出た言葉が、夕焼け空に響き渡る。その答えは返ってくるはずがないのに、ソフィに『このまま進んでください、貴女の道を』と背中を押されたような気がした。
「家に帰ろう」




