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第99話去る者と進む者⑥

 セフィ達の前にやって来たフランは、何故か身体がボロボロだったが元気そうだった。


「フラン、どうしてここに?」


 そう彼女に声をかけたのはやはりキャルだった。


「どうしてもなにも、お二人が喧嘩しているのが私の部屋から丸見えだったからですわ」


「それは......ごめんなさい。でも、あなたを傷つけたセフィをゆるせなかったの」


「セフィがわたくしを? どういうことですの?」


「じつは」


 ここでようやくセフィが口を挟める。キャルが明らかに勘違いしていることは、フラン本人から説眼をしてもらった方が早い。


(あに場にいた本人そのものだからな)


 その代わりフランはキャルと向き合わなければならないのだけど。


「そういう事でしたのね......それなら」


 フランは一度前置きをすると、セフィに、いやキャルも含めたその場にいた全員に向かって頭を下げてきた。


「このたびは、わたくしにせいで迷惑をおかけして、ほんんとうに申し訳ございませんでしたわ」


 その謝罪は言葉遣いもしっかりしていて、小学一年生だなんてとても思えないくらいしっかりしていた。一瞬全員が呆気に取られたが、すぐにキャルが言葉を発した。


「どうして謝るの? フランはなにも悪くないはずなのに」


「いえ、わるいのは全てわたくしですわ。わたくしが今日まで逃げてきたから、みんなを巻き込んでしまいましたの」


「フラン......」


 2

 フランは頭を下げたまま言葉を続ける。


「わたくしは昔からおかあさかに友達はじぶんの身分にあった人間だけを選べときょういくされてきましたの。それがこの家のきまりなのだと」


 彼女は最初誰にも近寄ろうとはせずに、孤独を貫いていた。けど遠足がきっかけでセフィ達と交流することが増え、いつの間にか彼女の中に"友達"という言葉が、思いが芽生えてきたと言う。


 ーただの幼馴染みと思っていたキャルという存在でさえも、気持ちの変化が大きかったらしい


「いつの日かわたくしの中に芽生えた感情を、どうしたらいいかわからなくなって、ほんとうに間違っているのはこの家ではないかとさえ思ってしまいましたわ」


「でもその感情は何一つまちがってないよ、フラン。私やアリエッテ、他のみんなにだって必ずある感情だもん」


「それは......わたくしも少しずつ理解していましたわ。だからわたくしは貴女と......」


 そこまで言ったフランはキャルを見た。


「ちゃんと友達になりたいって思えたんですわ。そしてその気持ちをおしえてくれたのは、他でもないセフィ達よ」


「フラン......」


 俺にはフランとキャルの間にどんな過去があったかは分からない。でも彼女が望む本当の友達は、こういう小さな事を乗り越えて、時には喧嘩して時には笑いあったりするものだと思う。


「キャル、いまさらこんなことをいうのは恥ずかしいですが、わたくしともう一度最初から友達をやりなおさせてください」


 3

「へー、それでその二人は仲直りをできたんだ」


「はい。やっぱりお互いにやり直したいって思っていたみたいです」


 二日後。

 俺はようやくフランとの話が落ち着いたので、生徒会室へとやって来た。単刀直入に例の話を聞いてみてもよかったのだが、少し雑談を交えることにした。


「でもそれだと逆に寂しいね」


「寂しい、ですか?」


「だって折角お友達になれたのに、お別れするなんて」


「それは......フランが決めたことですから」


 あの後フランは今日まであったことを話してくれた。母親と運動会の件で言い争ったこと、そしてそれが原因で学院を本当に去らなければならないこと。


『ほんとうは......一人ででもここに残ってやりたいと思いましたわ。でもそれはただのわがままですものね。わたくしはこれを受け入れますわ』


 そう語った彼女は今にでも泣き出しそうな顔をしていたが、それを何とか拭って笑顔で語っていた。

 俺もアリエッテ達も寂しくなるが、彼女が決心したことでもあるし、何よりセフィ達になにかできることがない。


「初等科の生徒が転校するなんて結構珍しいんだけどね。その子が望んでしまった以上はどうにもできないよ」


「分かっています。だから私もそれを受け入れていますし、辛いけど我慢しています」


「辛いならここで泣いていってもいいよ? 私以外だれもいないから」


「だいじょうぶ、です。きのうたくさん泣きましたから。それよりもわたしがきょうここに来たのは、別の理由があるんです」


 一瞬揺らぎそうになった気持ちを何とか抑えながら俺は本題に入る。


「読んでくれた? あの日誌」


「読みました。読んだからここに来たんです。会長が言っていたことばのいみがわからなくて」


「セフィちゃんのやる気を出させるって意味で私は渡したんだけど、違ったかな」


「やる気が出るどころか、私は学院に嫌悪感を抱きましたよ」


 俺は机にわざわざ持ってきた日誌達を置く。


「なんでこんな内容なんですか?」


「何でってそれが全て事実だから、だよ」


「事実なのはわかります。だからこそなんでそんな事実がこの二十年もの間に起きているんですか?」


 日誌の最後の内容は一部を除いて殆どが同じものだった。


 ーこれがどういう意味を示すのか


「セフィちゃんのお母さん......先代聖女以外の生徒会長の殆ど、八割が皆同じように生徒会長を辞めてる。私の前の生徒会長もそうだった」


「やめるだけなら、まだ私もなにも言わないです。けどこれは......」


「連続不審死、この学院にはそう伝えられてるよ。もしかしたら私も同じ道を辿るかもしれないとても大きな事件」


「私にそれを話してどうしてほしいんですか? まさか私を生徒会に誘っているのも」


「うん、セフィちゃんにはこの事件を解決してほしい。道半ばで聖女の道を諦めてきた人達の為に」


 俺はここまで言われてようやくこの日誌を渡した意味を理解する。


(やる気が出るってそういう意味かよ)


 斜めすぎる生徒会長の考えに、俺はただ絶句するしかなかった。

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