第98話去る者と進む者⑤
フランに直接会えないまま三日が経った。こちらとしては早く生徒会室に行きたいのに、とんだ遠回りをしてしまっている。
(解決策があるとしたら、昨日いたキャルだよな)
今日彼女は何事もなかったように登校したが、こちらが声をかけても何も反応しなかった。でも何か理由があってあの場所にいたのではないかと俺は確信している。
ー彼女は恥ずかしくなってあの場所から逃げたのではないかとかそんな可能性すらもあると思っていたり
『キャルちゃんもフランちゃんと仲直りをしたかったんですかね?』
キャルを見失った後、ユイがそんなことを言っていた。それは俺もアリエッテも同じ意見で、もしかしたら協力できるかもしれない、そんな予感もして今日も放課後にフランの家にやって来た。
「あっ」
そしてそこには同じようにキャルがいて、同じようにその場から逃げようとしたが今度はこちらの方が行動が早く、彼女の腕を掴むことに成功した。
「離して」
「きのうみたいに逃がしたくないから、離さない」
「わたしはあなた達に用はない。特にセフィ、あなたには」
「わたし? どうして?」
「だって貴方がフランを追い詰めた張本人でしょ?」
一瞬キャルが何を言っているのか、彼女以外の全員が理解できなかった。
(俺がーセフィがフランを追い詰めた? 何を言っているんだ?)
「理解していないならいい。でもそれは紛れもない事実だから」
「まってよ、わたしがいつフランにそんなことをしたの?」
「そうだよ。あたし達そもそも運動会以来フランに会ってないのに」
「会ってないから何もしてない、なんて言葉は通用しないよ。だってわたしは見ていたんだから」
「見ていた?」
(それってまさか、リレー前にトイレでフランに会った時のことを言っているのか?)
けもあの時はフランを引き止めようとしていた。何より彼女が悩んでいたのはキャルの事だったし、追い詰めるも何もセフィは何もしていない。
「あのときフランは泣いていた。そして啼かしたのはあなたしかいなかった。それを見てたわたしは確信した。こうなったのはセフィが原因だって」
「それは間違ってるよ、キャル。フランが悩んでいたのは、キャルの事だった。どうしても仲直りをしたいって」
「よくもそんな嘘を。なら、どうしてフランはわたしすらも会いたくないって言っているの?」
「それは......わたしには分からない」
「ほら、やっぱり」
「わたくしの家の前でうるさいですわよ!」
セフィとキャルの喧嘩に第三者の声が割り込んでくる。それはアリエッテでもユイでもない、
「わたくしがいないからって、好き放題言ってくれますわね、二人とも」
フランだった。
2
「もうこれ以上、貴方を学院に置いておけませんわ、フラン」
母がそう言ったのは運動会が終わったの日の夜。ある意味問題行動ばかり起こし続けたわたくしに、母の堪忍袋の緒が切れわたくしを転校させると言い出しました。
「おかあさま、わたくしはただキャルと友達に」
「あんな子、あなたには相応しくありませんわ。幼馴染みと呼ぶのも汚らわしい」
「そこまで言わなくても」
「事実を言っているだけ、ですわよ。話を聞いたところ、貴女の新しい友達も、彼女と同じじゃないの」
「違いますわ! セフィ達もわたくしにとって......わたくしにとって......」
感極まってわたくしは母に嗚咽しながらこう訴えかけた。
「かけがえのない友達ですわ!」
運動会の時にはセフィに申し訳ないことをしてしまった。それをすぐにでも謝りに行きたいし、キャルにだってもう一度やり直したいって言いたい。
たとえ目の前の母にいくら反対されても、わたくしは友達を大切にしたい。
「その友達が貴女にとって必要なものではないのよ。それさえなげれば学院であんな事を」
「お母様はなにもわかっていませんわ! ともだちがどれだけ大切で、どれだけかけがえのないものなのか! それがわからないならわたくしは、一人ででもこの場所で暮らしますわ!」
「フラン!」
今まで抑えてきた気持ちが、わたくしの中で溢れ、そしてそれを母に吐き出してしまった。
(まだまだちいさいわたくしが言っているのは、到底不可能なわがままなことは理解していますわ。それでも)
わたくしは今度こそ作れたこの大切な絆を壊したくはない。ただそう願った。
ーそれから三日間、キャルやセフィがわたくしの家ノ前までやって来ていたのを自分の部屋で眺めるしかできなかった
母とは一度も口を効かずに部屋にずっと引き籠もって、いつか向こうが折れてくれるのを祈って。
(何か言い争いをしていますわね、二人が)
今日もいつも通り外の景色を眺めていると、家の前まで来てくれたセフィ達とギャルが、何か言い争いをしていた。ここからは何を言っているか聞こえない。
(どうして二人が喧嘩を......)
どうしても気になってわたくしは窓から身を乗り出す。
ーあと少し
ーあと少しで聞こえそうな距離の所まで身を乗り出したところで
「あれっ?」
わたくしは二階の窓から落下してしまった。
「いたた」
魔法で衝撃を抑えたものの、全身が少し痛む。けどこれはもしかしたら、誰かが与えてくれたチャンスなのかもしれない。
(わたくしが、喧嘩を止めて、仲直りを)
わたくしは家には戻らず五人のところへと向かった。




