命運
俺たちの運命を決める一日は豪華な朝食から始まった。
用意して頂いた朝食を残すことなく食べ尽くし、俺たちはポベルティ村に行くための身支度をそれぞれで進めていく。
優雅だと感じられた時間はあっという間に過ぎ去っていき、やがて出発のときを迎えた。
「何から何までありがとうございました」
「そんなこと気にしなくていいよ。むしろ、僕が知らなかったことを色々と知ることができたし、こっちがお礼を言いたいくらいだよ。みんなありがとね」
至れり尽くせりの歓待にお礼をすると、ウルフはひたすらに謙遜しながら言葉を返した。
そんなウルフの姿勢を目の当たりにした俺は、こういった偉い人たちはもっと傲慢だと思っていたことに情けなさを覚える。
やがて、別れの挨拶を終えた俺たちはウルフによって手配されたスカイバードでポベルティ村へと飛び立った。
空に発ってからしばらくして、今ではすっかり見慣れたポロッサの街並みが俺たちの真下に見え始めてきた。
つまり、目的のポベルティ村にも随分と近づいているというわけだ。
村に近づくにつれて、胸の鼓動が強くなっていることがはっきりとわかる。単に俺が心配しすぎなだけなのだろうか?
「ねぇカイル、もうすぐ着きそうだけど心の準備できた?」
俺は心境のほどをカイルにぼそりと聞いてみる。
「正直……すげぇ恐いぜ。自分の村に帰るだけだっていうのに可笑しいよな?」
「いや、俺だけじゃなくて少し安心したよ」
それから程なくして、俺たちを乗せたスカイバードは村中央の広場に降り立った。
当然、広場を行き交う多くの人につき、瞬く間に俺たちの周りに村の人たちが集まってきた。
その中のひとりに村長の姿もあり、俺たちを見るなり語りかけてきた。
「おぉ、カイルにツバサくんじゃないか。それと……」
「こんにちは。本日は村の皆さんにお願いしたいことがあって参りました」
村長の家まで足を運ぶ手間がなくなったと喜ぶべきか、息をつく暇もないままイベントに突入したと嘆くべきか……。
とは言え、今さらそんなことを考えたところでこの状況が変わるわけではない。
俺はゆっくりと息を吐き出して呼吸を整え、これまでの経緯と頼みごとについて話した。
「なるほど……、村に来たのはそういう理由だったか。お前たちは村にとっても恩人だし、ワシとしてはなるべく良い返事をしたいと思っとる。ただ――、すまないが今の話はさすがにワシの一存だけでは決めづらい話だな」
村長は俺の話を最後まで聞くと、それに対する考えを口にした。
もっとも、アルフレッドやこの国の領主であるウルフでさえ、自分ひとりで判断できる話ではないと言っていたし、この答えでも無理はない。
ただ、少なくとも承諾したいとする意思が村長からは感じられ、少しばかり安堵の余地が俺たちの心の中に生まれてきた。
その直後、人混みの中から飛びっきりに力強い聞き覚えのある女性の声が上がった。
「別に良いんじゃないのかい!」
「えっ!?」
声が聞こえる方向に振り向くと、人混みの先頭で仁王立ちをするカーラの姿があった。
「アタシも構わないよ。これが罪滅ぼしってわけじゃないけど、カイルやツバサの頼みだからね! みんなは少しでも恩を返したいとは思わないのかい?」
カーラがそのほか村人大勢に呼びかけるように賛成の声を上げると、それをきっかけに次々と賛成の声が上がり始めた。
本音を言えば、カイルが悪魔を連れ帰ったなどと非難する声が上がることを心配していた。しかし、どうやら要らぬ心配だったようだ。
「そういうことだ。ツバサくんにリオンくん、そしてユウガくんも――、こんな村でも良ければ歓迎するよ」
「「ありがとうございます!」」
住民の総意がわかると、村長から先程まで保留としていた答えの表明があった。
聞くまでもなくわかっていたことではあったが嬉しさのあまり、俺とユウガは目一杯に頭を下げながらお礼を叫んだ。
「それから、まだ言っていなかったな……。ただいま、カイル」
「あぁ、おかえり!」
俺たちが喜ぶ横で村長はカイルにおかえりの声をかけた。
カイルは突然のことに驚いているようだったが、ほんの少しの溜めの後に元気よく挨拶を返した。




