悪魔の正体
「この街を守れるのは僕しかいない」
――なんだ?
「だから、絶対――」
悪魔は肩で荒く息をしながら、俺を睨みつけている。
だが、何か様子がおかしい。さっきまでの余裕がどこにもない。
「僕が負けるわけにはいかないんだ!」
次の瞬間、悪魔の身体から溢れ出る禍々しいオーラが、一気に膨れ上がった。
肌を刺すような圧力に、俺は思わず息を呑んだ。
――わからない。
あいつのこの街を守りたいという思いは、本物に見える。それなのに、今のあいつからは守りたいという思いよりも、憎しみが強く感じられる。
俺の行動が、それほどまでにあいつの過去の記憶に触れたのか?
――いや、それが何であれ、この状況がまずいことに変わりはない。
禍々しいオーラが、今もなお膨れ上がり続けている。
「僕の邪魔をするヤツは絶対に許さない!」
悪魔はそう言って石造りの床を蹴った。
「っ!?」
瞬く間に距離を詰められ、剣を振り下ろされる。
俺は咄嗟に棒で受け止めたが、凄まじい衝撃が腕を貫いた。
「ぐっ……!」
重い――!
押し切られそうになった俺は、無理やり棒を捻って剣撃を受け流す。
剣先が火花を散らしながら石床を裂いた。
すごい剣撃だ……。一度でも喰らったら間違いなく終わる。
「お前みたいな……」
悪魔は間髪を入れずに斬りかかってきた。
横薙ぎに振るわれた剣を、俺は後ろに飛んで回避する。
「弱い人たちを見捨てるようなヤツは……」
剣は空を斬ったが、それでもなお悪魔は踏み込んできて、再び剣を振るった。
「みんな敵だぁ!!」
迫る剣を間一髪のところで受け止めるも、無情にも俺の手元から棒が弾き飛ばされた。
「……っ!」
――まずい!
「今度こそ……これで終わりだね」
悪魔は俺を見るなり、ニコッとしながらトドメと言わんばかりに剣を振り下ろした。
ここまでか……。
――はっ!
俺は反射的に腰のナイフを引き抜き、瞬時にそれを構える。
カキィン!!
剣撃の衝撃がナイフを通じて俺の腕に伝わると同時に、けたたましい金属音が響いた。
悪魔自身も今のがトドメになると思っていたようで、大振りな一撃から追撃はなかった。
この隙を突いて、俺はすぐさまナイフを床へ放り、飛ばされた棒を拾い上げる。
これまでの傾向を踏まえると、あいつに主導権を握らせるのは危険だ。
――迷っている暇なんてない。
俺は即座に棒を構え、つづけて一気に踏み込む。そして、棒の間合いに入ったところで迷わず突きを放った。
悪魔は身を捻って突きを躱し、そのまま斬り込もうとする。だが、その前に俺は次の突きを繰り出した。
互いに一歩も譲らない攻防が続くと、やがて、悪魔は後ろに退くと同時に手のひらをこちらに向けて腕を伸ばした。
「これならどうかな?」
「――ん?」
「喰らえ! ジャッジメントフレア!」
悪魔が技名を叫んだ次の瞬間、その手のひらから赤黒い渦状の炎が噴き出した。
「ぐっ……! アースウォール!」
俺は咄嗟に土魔法で目の前に分厚い土の壁を出現させるも、炎の餌食となって瞬く間に崩れ去った。
黒く焼け焦げた壁の残骸を見て、この街の近くで見かけた魔導兵器の焼け焦げた残骸はあいつによるものだったと確信した。
とりあえず、今のは危なかった。もし、喰らっていたら、ひとたまりもなかったに違いない。
「今のは、とっておきだったんだけどな……。まさか、これも防がれるなんてね。――ほんと、しつこいね」
「――どうして、そこまで俺に敵意を?」
俺はお互いの攻撃の手が止まったタイミングで、一番の疑問を悪魔にぶつけた。
すると、悪魔は怒りに満ちた表情で俺の方を見ながら、ゆっくりとその口を開いた。
「お前の、その……綺麗事ばかりなところ……その武器……そして、何よりもその名前! お前の見せる全部が! あの日、僕を見捨てたアイツと似ていて目障りなんだよ!」
悪魔が声を大にして発したその言葉に、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。
槍をさしおいて棒を主力武器にする人が珍しいという話は、冒険者の適正テストのときに聞いた。とはいえ、珍しいだけで棒を使う人は俺以外にもいるはず。
自分のことをそうだと思いたくはないが、綺麗事だらけの人だって決して珍しくはない。
――だが、俺の名前に関しては話が変わる。「ツバサ」という名前は、転生前に地球で生まれたときに両親が俺につけた名前だ。
当然、それはここらで一般に使われるような名前ではない。普通に考えて俺の名前に怒りを覚えるなどあり得ないはず。
それにも関わらず、この悪魔は俺の名前にまで異常な反応を示している。
――はっ! まさか、そんなはず……。
にわかには信じられないが、ほかに考えられない。
「ひょっとして、お前……ユウガ、なのか?」
俺は無意識のうちに、かつての旧友の名前を口にしていた。




