出陣!アンガレイジ城
ラッセさんと別れたあと、俺たちは宿泊用の部屋を借りるために再びギルドの受付へ向かう。
この街に閉じ込められている冒険者はそれなりにいるようで、一人でも多くの冒険者に部屋を行き渡らせるため、俺たちは一室を共同で使うことになった。
貸し出された部屋は、ポロッサのギルドと同じくカプセルホテルのような一室。さすがに三人だと少し窮屈だが、こればっかりは仕方ない。
疲れ切った身体を休めるべく、俺たちは部屋に入る。
限られたスペースに収まるように体の向きを調整しながら、何とか三人で横になった。
「……狭いな」
カイルがぼそっと呟いた。
「この状況だし、仕方ないよ」
俺も天井を見上げたまま答える。ただ、少年に身を近づける理由ができたと言うこともできるわけで、正直、これはこれで悪くないとも思ってしまう。
「――それで、本当に城に向かうのか?」
リオンがぽつりと訊いてきた。
「うーん……これからやれることって結界を破って街から出るか、城に向かうかの二択だと思うけど……二人はどう思う?」
「悪魔の子ってヤツの素性がわからないまま城に行くのは、さすがに危険じゃないか?」
二人に考えを訊き返すと、リオンが静かに言った。
「でもよ……このままそいつから逃げ隠れ続けても埒が明かないぜ? それによ――、ここまで来たらその悪魔の真意ってヤツも知りたくないか?」
それに続いて、カイルも少し身を乗り出すように言った。
出てきた意見は割れているが、どちらの考えも間違ってはいない。
城に向かった場合、悪魔の子と呼ばれるヤツとの対峙は必至。突然現れたという話だから、事前に調べようにも情報はほとんど期待できないだろう。
かと言って、街を出ようにも結界を突破する過程で悪魔の子に気づかれることは確実。それに、作り直された結界を突破できる保証もない。
そして、どちらを選んだとしても、あの悪魔の子を刺激しかねない。
最悪、戦闘になる可能性もあるが、大型モンスターの迎撃に使われるような魔導兵器すら容易く破壊するだけの力があるヤツが相手。できる限りそれは避けたい。
「……悩ましいね」
「まったくだ」
ぼそりと漏れた言葉に、リオンも同意した。
「この街さ、十分おかしな状態なはずなのに、全然それを感じないよね」
「なんつーか、この街の人らも呑気だよな」
カイルも呆れたように続けた。
「実はさ、下手に行動を起こすよりも対面で話した方が安全……ってことはないかな?」
悪魔の子によって街は閉鎖されているが、それでも街を支配するような動きはまるでない。何なら、敵意すら感じられない。
「たしかに……一理ある気もするな」
俺の言葉に、リオンは少し考えるように間を置いてから頷いた。
「城に向かうでも……いいかもしれないな」
さらに時間を置いてからリオンが再び口を開いた。
考えるための情報の少なさがネックだが、それでも――どちらかを選ばなければならない。
「支配することが目的でないなら、話し合いの余地も少しはありそう……だよね?」
「ゼロじゃないだろうな。それよりも、怪しさが残るような行動をする方が返ってリスクな気がする」
考えていたことを言葉に出すと、リオンもそれに対する考えを口にした。
実際、悪魔と称される相手に話し合いを期待するなんて正気の沙汰じゃない。だが、俺たちが得た数少ない情報から考えると、それを否定することもできない。
「よしっ! それじゃあ、これで決まりだ。せっかく、ここまで来たんだから、最後までやってやろうぜ!」
「そうだな。せめて、真相を知るくらいはないと割に合わないしな」
カイルがこの場をまとめるように声を上げ、リオンもそれに頷いた。
こうして、俺たちの方針は自然と固まった。
「そうと決まれば、明日に向けて今日はしっかり休もうか」
そう言って、俺は目を閉じた。
◇
翌朝、俺はお腹に妙な圧迫感を覚えて目を覚ました。
首をわずかに起こして身体に目をやると、大の字で眠るカイルの足が俺のお腹に乗っているではないか。……そりゃ息苦しいはずだ。
その足をそっとどかすと、それに反応してカイルが身じろぎした。
「……ツバサ、今日は早起きなんだな」
「ははっ、おかげさまで」
まだ寝ぼけたような声に苦笑しつつ、俺は小さく息を吐いた。
カイルは大きく伸びをしながら体を起こした。
それから少しして、リオンも目を覚ました。
軽く身支度を整えたあと、俺たちはそのまま食堂に向かった。
朝の食堂は昨夜とは違い、どこか落ち着いた空気が流れている。
俺たちは朝食のセットを受け取り、空いているテーブルについた。
「で、今日はこのあと、そのままアンガレイジ城に向かうんだよな?」
パンをかじりながらカイルが言う。
「うん。そのつもり」
「……まぁ、それ以外にやれることもないからな」
俺が短く答えると、リオンも静かに続いた。
食事を終え、俺たちは席を立つと、そのままギルドの扉を開けて外へ出た。
これから向かう先のことを考えると、落ち着いていられるはずもない。
朝の空気を肺いっぱいに吸い込み、俺はゆっくりと息を吐いた。
そして、俺たちは街の最深部にそびえ立つアンガレイジ城を目指して歩きはじめた。
街の奥へ進むにつれて、人の気配が少しずつ遠のいていく。それと同時に、視界の先にある城の輪郭もはっきりとしていった。
程なくしてアンガレイジ城の前に着いた。
本物のお城をこんな間近で見るのは、これが初めてだ。近くから見上げると、より一層の迫力が感じられる。
ただ……できれば、もっと観光気分で見たい光景だった。




