尋ね人との出会い
「ところで……あなた方はどうしてこの街に?」
これといった話題が思いつかず、俺は当たり障りのなさそうなことを訊いてみる。
――そのつもりだったが、もしかすると地雷を踏んだかもしれない。ダミアンは古傷だらけの左腕を俺たちに見せつけながら答えた。
「そりゃ、貴様から受けた左腕の傷を治すために決まってるだろ? この街は普段から周りでドンパチやっていることもあって、腕利きの医者が多いからな」
「……」
たしかに結構な深傷を負わせた記憶だが、その傷は十分に癒えているように見えた。とはいえ、遠まわしに俺のせいと言われている気がしてしまい、コメントに困る。
「それに、この街は人の出入り自体が少ないんだ。――だから、俺たちみたいなはぐれ者が身を隠すのにもってこいの場所でもあるんだ」
「そ、そうでしたか……」
俺の沈黙をどう受け取ったのか、ダミアンは鼻で笑った。
「そんな顔すんな。あれはお前をガキだと舐めてた俺らが悪いんだ。さすがの俺も、あの負けに言い訳するほど落ちぶれちゃいねぇさ」
責める気配はない。むしろ、どこか清々しい声色だった。
そう言ってから、今度は逆に俺たちを見返す。
「――で? そういう貴様らこそ、何か用があるからこんな街の酒場なんかに来たんだろ?」
「はい。実は――、ある冒険者の行方を追ってほしいと頼まれまして、集まった情報からこの街にいる可能性が高かったので来ました。ただ、それ以降の情報が乏しく、人の多そうなところで情報を集めようかと……」
ラッセさんを探してこの街に来たことを、出せる範囲で話す。
「そんなことか。そいつが普通の冒険者なら、夜になれば冒険者ギルドに現れるんじゃないのか?」
「夜、ですか?」
思わず聞き返す。
「あぁ、俺の聞いた話が本当なら、冒険者ギルドで簡単な寝泊りができるらしい。昼間は知らんが、さすがに寝床くらいは確保してるはずだろ?」
なるほど……たしかにその通りだ。
ポロッサの冒険者ギルドでも、カプセルホテルのような簡易的な一室の貸し出しはあった。ダミアンが言う話も、恐らくそれのことだろう。
であれば、陽が沈む頃に冒険者ギルドへ向かうのが手っ取り早そうだ。
「――それより」
不意に、ダミアンの声色がわずかに変わる。酒場の喧騒が、少し遠のいた気がした。
「仮にそいつと会えたとして、そのあとはどうするつもりだ? どうせ、この街からは出られねぇだろ?」
「それはまだ考えてはいません。――ですが、結界を張った人物は結界の近くにいるはずです。なので、まずはその人物を探そうかと……」
自分でも少し無謀とは思ったが、他に手掛かりもない。
ダミアンは、じっと俺を見たまま動かない。
「――貴様ら、何か妙だな」
俺たちを見透かすような視線に、背筋が少しゾッとした。
「と、いいますと?」
「どうやったかは知らんが、貴様ら……この街に来たばかりだったりしないか?」
ちょっ……いきなり何を言い出すんだ!?
唐突な一言に心臓が一瞬、強く跳ねた。線を逸らしそうになるのを、どうにか堪える。
「そ、そんなことは……」
「ふん、そもそもあんな森にいた時点で察するべきだったが、貴様が只者じゃないことは明らかだろ?」
「それは……」
返す言葉が思いつかず、喉がわずかに詰まる。
「まぁ、そんなこと、今はどうでもいい」
ダミアンは一度、ゆっくりと酒をあおった。
「本当に結界が張られる前からこの街にいたんなら、ゲマイン帝国の攻撃を一方的に迎撃して結界を作った、あの悪魔みたいなガキを知らないはずがない」
――悪魔みたいなガキ。
そんなヤツが、この街にいるというのか。
「今の話って本当ですか?」
俺は思わず身を乗り出す。
「その反応……やっぱり知らなかったのか」
ダミアンは苦笑する。
「そのガキなら、今もアンガレイジ城にいるはずだ。――もっとも、俺たちが知っているのはそれくらいだがな」
酒杯を傾けてから、ぼそりと続けた。
「さて……俺としたことが、少し喋りすぎちまったな」
「いえ、ありがとうございます。情報が全然なかったので助かりました」
俺は軽く頭を下げる。
そこから視線を卓上へ落とすと、空になりかけた酒杯がいくつか並んでいる。
「情報料の代わりになるかはわかりませんが……代金は俺が持ちますね」
そう告げて、俺は店員を呼び止めた。
「おい、俺が好きで喋っただけなんだから気にすんな」
「いえ。情報を頂けたことに変わりはないので、これは対価です。むしろ、安いくらいだと思います」
俺は冒険者ライセンスを取り出し、店員が用意した魔導端末に軽く触れさせる。
処理が終わるまでのわずかな間。ダミアンは無言で、ただこちらを見ていた。
支払い完了の表示を確認してから冒険者ライセンスを戻し、俺たちは酒場を後にした。
店を出たところで、俺たちは足を止めた。
「――で、次はどうするんだ? まだ明るいけど、さっきのヤツも言ってたように冒険者ギルドに行ってみるか?」
「そうだね。下手に街中を動き回るよりは、冒険者ギルドに行くでいいと思うよ」
「それもそうだな。もし、ラッセさんと会えなかったとしても、何かしら情報を集めることだってできるだろうからな」
「……で、冒険者ギルドってどっちなんだ?」
今の酒場は、表通りを人の流れに乗って歩いてきた中で見つけたに過ぎない。さっき通ってきた道は何となく覚えているが、街の位置関係までは把握していない。
通りすがりの商人に声をかけると、「あの大通りを左に曲がってまっすぐだ」と教えてくれた。
礼を言って、俺たちはそちらに向かって歩き出す。
言われた通りに進むと、人の出入りが一際多い建物が見えてきた。掲げられた紋章を見て、ここが冒険者ギルドで間違いないと確信した。
中は思いのほか騒がしく、夕食時だからか奥の食堂スペースは思ったよりも人で賑わっている。ただ、そのほとんどは何の装備もしていないことから冒険者ではなさそう。
冒険者ギルドは公共施設として運営されているため、冒険者に限らず誰でも利用することができる。
受付の前には数組の冒険者が並んでおり、俺たちも最後尾に並ぶ。
前の冒険者たちが手続きを終えるのを待ち、やがて順番が回ってきた。
「すみません、ある人の依頼でラッセさんって冒険者を探しているのですが、こちらに来ているかってわかりますか?」
「ラッセさんですか、少々お待ち――」
受付の人が奥の書類に手を伸ばしかけた、そのとき。
「おぅ、そのラッセってのは俺のことだと思うが、君たちは?」
俺たちの背後から低い声が飛んできた。
振り返ると、革鎧姿をした男がこちらを見ていた。




