違和感
翌朝。
まだ日も昇りきらぬうちに、俺は目を覚ました。
――だというのに、カイルに続いてリオンまでもが俺よりも先に起きていた。
「おっ? ツバサにしては早いな。ちゃんと寝れたか?」
「うん、それなりには。カイルはいつものことだけど、リオンも早いんだね」
「まぁな」
食堂で朝食を済ませたあと、それぞれ出発に向けた最後の準備を整える。
「二人とも準備はできた?」
「あぁ、バッチリだ!」
「いつでもいいぜ!」
準備の状況を聞くと、二人からハツラツとした声が返ってきた。
昨夜は、あのあとも俺たち三人は何だかんだで少し夜更かしをしてしまった。それにも関わらず、二人からは疲労の色がまるで感じられない。これが若さというやつか?
出発の準備が整うと早速、俺たちは宿を出た。
朝の光が照らす中、俺たちはこの街のスカイバード乗り場まで歩く。
「すみません。俺たち三人で、アンガレイジまでお願いしたいんですが……」
「アンガレイジ? ――悪いがそいつは無理な話だ。あの辺の一帯は、何が起こるかわかったもんじゃないからな」
さすがはアンガレイジ。スカイバードは今までも度々使ってきたが、このような断られ方は初めてだ。それだけ、アンガレイジ周辺が危険だということなのだろう。
いつものように近くまではスカイバードでの移動と思っていたが、どうしたものか……。
「そうですか……。で、では……、スカイバードで行けるところまでで構いませんので、何とかなりませんか?」
誰しもが危険という場所だ。むしろ、これが当然の反応。しかし、俺たちも軽い気持ちでアンガレイジに行くと決めたわけではない。
俺はできる限りの譲歩をし、何とかスカイバードに乗せてほしいと嘆願する。
「――そ、それなら構わないが、あまり期待はしないでくれよ?」
操者は俺の必死のお願いに少し考えてから、渋々首を縦に振った。
操者の人には申し訳ないが、内心ホッとする俺がいた。
話がまとまり、俺たちはスカイバードの背中に乗り込むと、スカイバードはセントロの空に向かって飛び立った。
そのまま、風をも切れそうな早さでビュンと突き進む。
風を肌身で感じているとやがて、障害物となり得るものが何一つとして見えない平野に降り立った。
「スカイバードで来れるのは、悪いがここで限界だ。あとは向こうに向かって進んでいけば、そのうちアンガレイジにも着く」
「無理なお願いをありがとうございます。すごく助かりました」
俺たちはスカイバードから降りる。この見晴らしのよさは、俺がまだカイルと出会う前に一人で歩いた平原を思い出す。
「君たちの目的は知らないが、くれぐれも気をつけろよ」
俺たちが降りたあと、スカイバードの操者はそう言ってセントロ方面に飛び去った。
さて、ここからは俺たちだけで進むことになるのか。
「静かだね」
「あぁ、動物一匹すらいないな」
俺が言葉を漏らすと、カイルも同調した。
ついさっきまでは、あれほど風を切っていたのに、今は草の擦れる音しか聞こえない。かつて、歩いた平原と似て、生き物の気配がまるで感じられない。
いい言い方をすれば安全。だが、自然に生きる動物たちが避ける理由がきっとあるはず。
「この先、何があるかわからないし、気をつけないとね」
「そうだな、さすがに不気味すぎるからな」
リオンも周囲に視線を巡らせながら言う。
「それじゃ、出発しよっか」
俺たちはアンガレイジに向かって歩きはじめた。
◇
周囲に気をつけつつ、適度に休憩を挟みながら、俺たちはアンガレイジに向かって歩を進める。
体感で一時間は歩いたと思うが、生き物の姿は今も見えないまま。ただ、足元の土はすっかり乾いており、進むにつれて草の色も少しずつくすんできている。
そんな中、カイルが前方に指を向けながら声を上げた。
「お……おい、あれは何だ?」
指の先には、酷く焼き焦げた機械兵器らしきものの残骸が無数に転がっている。
「うわっ、すごっ……」
「多分、魔導兵器だな」
「魔導兵器?」
「あぁ、大型モンスターの迎撃に使われるって話を聞いたことがある」
リオンは焼け焦げた装甲に触れ、すぐに手を離す。
魔導兵器……。そんなものまで存在するのか――とも思ったが、平たく言えば戦車のようなものだよな。
「――ということは、ここらで何か危険なモンスターでも出たってことか?」
「いや、そうとも限らないな」
カイルが一つの考えを口にすると、リオンは眉をひそめながらそれを否定した。
「それはどういうこと?」
「ここを見てみろ。焦げていて少し見づらいが、ゲマイン帝国の紋章だ」
「え? それって、つまり――」
仮に対モンスターとして使われたものであれば、ここにあるべきはアンガレイジが所有する魔導兵器であるはず。――だが、実際はちがう。
「あぁ、――これらはゲマイン帝国がアンガレイジを攻撃するために使ったと考えた方がいいと思う」
紛争があるとは聞いていたけど、まさかここまで酷い状態だったとは……。これなら、人々が危険といって避けるのにも頷ける。
俺とカイルが足を止めて考えていると、カイルが遠くを見ながら言った。
「とりあえず、ここまで来たんだからアンガレイジに行ってみねぇか? そうしたら、もっと情報があるかもしれないだろ?」
それはごもっともだ。今、目の前に広がる光景だけで考えたところで、可能性の域は越えられない。であれば、早いところアンガレイジに行って情報を集めた方が有意義だろう。
「そうだね。ここで考えてもキリがないし、まずはアンガレイジに向かおうか」
俺たちは再び足を動かす。かつて戦場だった平野を抜けた先に、アンガレイジの城壁が静かに佇んでいた。




