違和感
「2人とも準備は良い?」
「あぁ!」「バッチリだ!」
俺は自分を勢いづける意味も込めて声高に確認を取ると、2人の溌剌とした声が返ってきた。
昨日は3人揃って夜更かしをしてしまったが、それにも関わらず2人からは疲労の色がまるで感じられない。俺も忘れていたが、これが若さなのか?
そして、皆の身支度が整ったことが分かると俺たちは早々に宿屋を出発し、アンガレイジへ向かうためにスカイバード乗り場へ訪れた。
「すみません。俺たち3人、アンガレイジまでお願いしたいんですが……」
「アンガレイジか……。悪いがそいつは無理な話だ。あの辺の一帯は、何が起こるか分かったもんじゃないからな」
いつもと同じようにスカイバードでの移動を考えていたが、俺が行先を伝えるとスカイバードの操者は俺たちを軽くあしらった。
スカイバードは今までも度々使ってきたが、こんなことは初めてだ。まぁ、誰しもが危険と感じる場所に行くことが正気の沙汰ではないし、これが当然の反応なのかもしれないが。
ただ、アンガレイジという街に安全が約束されていないってことだけは、ありありと伝わってくる。
「そうですか……。じゃ、じゃあ……、スカイバードで行けるところまでで構いませんので、何とかなりませんか?」
「――それなら構わないが、あんまり期待はするなよ?」
しかし、俺たちも軽い気持ちでアンガレイジに行くと決めたわけではない。
俺は譲歩してスカイバードに乗せてほしいと嘆願すると、操者は少し考えてから渋々首を縦に振った。
操者の人には申し訳ない気持ちで一杯だが、これでラッセさんの行方調査を続けることができる。俺は少しだけホッとした。
話がまとまると、スカイバードは俺たちを背中に乗せてセントロを勢いよく飛び立った。
そして、スカイバード上で気持ちの良い風を肌身に感じていると、やがて、障害物となり得るものが何一つ見えない平野に降り立った。
「スカイバードで来れるのは、この辺までだな。後はこの道を進んで行けば、そのうちアンガレイジにも着くだろう」
「ありがとうございます。助かりました」
この見晴らしの良さは、俺がまだカイルと出会う前に一人で歩いた平原を彷彿とさせる。
どうやら、ここがスカイバードで来られる限界らしい。ここから先は操者と別れ、俺たちだけでアンガレイジの方面に向かって歩を進めることにした。
偶に小休止を挟みながら、アンガレイジを目指して平野をひたすらに歩き続ける。
「お……おい、あれは何だ?」
「えっ?」
3人で喋りながら歩いていると、突然、カイルが前方に指を向けながら声を上げた。
その指の先に目を向けると、酷く焼け焦げた機械兵器らしきものの残骸が無数に転がっている。これは一体?
「ま……魔導兵器だな。一般的には大型モンスターの迎撃に使われることが多い兵器って言われているが……」
魔導兵器? そんなものが存在していたとは……、それは知らなかった。
冒険者でも太刀打ちできないようなモンスターが出現したときに、使われるってことだよな……。
「――でも、どうしてそんなものがここにあるんだろう。そんな危険なモンスターが出たのかな?」
「それは分からないが、この紋章を見るにこれらの兵器はゲマイン帝国のもので間違いない」
リオンは残骸の山の中からゲマイン帝国を示す紋章が書かれた破片を見つけ、それを俺とカイルにも見せる。
対モンスターに使われたものであるなら、ここにあるべきはアンガレイジが所有する魔導兵器の筈。
となると、対モンスター以外の用途で使われた、ということになるわけだが……。
「つまり……、そんな兵器が紛争のために使われたってこと?」
「あぁ、その可能性は十分にあると思うぜ。ただ――、そんな兵器を使ったにも関わらず、ここまで破壊されていることが少し気掛かりだけどな」
言われてみれば、たしかにそうだ。今、俺たちの目の前に広がっている光景は、対モンスター用に作られた兵器を殲滅できるだけの力がアンガレイジにあるということを証明している。
だが、アンガレイジは平和主義だと聞いている。仮に強大な力を持っていたとして、これが平和主義を謳う街の解決方法とは到底思えない。
そうだとするなら、これは一体どういうことなんだ?
「取り敢えず、アンガレイジに行ってみねぇか。そうしたら、何か分かるかもしれないだろ?」
「――うん、そうだね。このまま考えても、埒が明かなそうだしね」
俺とリオンが足を止めて考え込んでいたところに、カイルが横から言葉を挟む。
たしかに、目の前の光景だけを見ていくら考えたところで、可能性の域は越えられない。
であれば、一刻も早くアンガレイジを目指した方が良いのは間違いない。
その後、魔導兵器の残骸が散らばった平野を歩き続けているうちに、アンガレイジと思われる街の城壁が俺たちの目に見え始めた。