はじめての弓矢
荷運びのクエストを終えてルーカスさんと別れ、俺たちは昼下がりの街中を練り歩く。
目指す目的地は今のところないが、街の空気に酔いしれながらプラプラと歩くだけってのも俺は好きだ。
そうやって歩いていると、射的を意味する文字が書かれた看板を掲げた店が俺の目に入った。
「射的屋? ここってどんな店なんだろ……」
「おっ、ホントだ。――なぁ、ちょっと寄ってみても良いか?」
俺が射的屋の内容に疑問を感じていると、リオンがその射的屋に強い興味を示した。
外見からは店の中が見えず、俺には射的屋がどんな店なのかすら分からない。
射的と聞いて、俺の頭に思い浮かぶイメージ像は生前の縁日で見かける射的だけ。そもそも、そんな射的で使われる銃がこの世界にあるのかは定かでないが……。
まぁ、そんなことは店に入れば分かることだろう。早速、リオンを先頭に俺たちは射的屋に足を踏み入れた。
店内に入って店内を見回してみると、真剣な表情をして弓を構える一人の男の子の姿が俺の目に飛び込んできた。
その男の子のあまりの真剣さに、思わず俺も固唾を呑んで見入ってしまう。
それから程なくして、その男の子の手から矢が放たれると、前方に設置された的に吸い込まれるように突き刺さった。
なるほどな……。射的っていうのは弓矢のことだったわけか。納得。
「おぅ、いらっしゃい! 初めて見る顔だが、ここは初めてか?」
「はい、初めてです」
「そうか。ここは見ての通り、皆に射的を楽しんで貰ったり、冒険者を目指す子たちが弓矢の練習するための場所さ。1回、矢10本分で50ギルだけど、君たちもどうだい?」
弓矢の練習か……。そういえば、弓矢を使うことなんて一度も考えたことがなかったな。
ゲームや漫画なんかだと、みんな簡単そうに使ってるイメージがあるけど、俺にも使えるのかな。
「俺、1回お願いします。そんなに高くもないし、ツバサたちもやってみたら?」
「そうだな。折角だし、俺も1回やってみるぜ」
「そ……そう? じゃあ、俺もやってみようかな」
店主から射的を勧められると、その言葉にリオンが食い付きを見せた。
そして、そんなリオンの言葉を受けて、カイルも同じように射的をすると決めて店主に申し出た。
もちろん、俺もやってみたいと思っているが、弓矢の経験がゼロということで躊躇いも感じている。――が、流石にこの流れで俺だけやらないってのもないよな。
であれば、これを機に人生初の弓矢を体験してみるのもありだろうと思い、俺も流れに乗っかることにする。
「毎度あり。ほれ、これが貸し出し用の弓と矢だ」
「「ありがとうございます」」
俺たちは店主から弓と矢を受け取ると、それぞれ空いている立ち位置に着く。
俺は肩幅より少し広めに足を開いて、弓を持つ左腕を水平となるように上げる。その状態で矢を弦に引っ掛けて、目一杯に引く。
弓の正しい構え方など知らないが、俺のイメージを基に弓を構えるならこんな感じといったところだ。
リオンやカイルは俺の方をじっと見ている中、俺はしっかりと狙いを定めて弓を放つ。
「――あれっ?」
「「ブハハハハ……」」
むむっ、どうしてなんだ?
的の中心を狙ったつもりだったが、俺が放った矢は思ったようにまっすぐに飛ばず、狙った的からは大きく外れていた。
何だか悔しいことに、隣から溢れんばかりの笑い声が聞こえてくる。
「そんなに笑うことも無いじゃんさー」
「すまんすまん。この前のクエストでツバサって割と優等生だと思ってたから、面白くって」
「リオンの気持ちは俺にも分かるぜ。ツバサはいざという時には頼もしいけど、意外と抜けてるとこあるぜ?」
えっ? あまり意識はしていなかったが、俺って優等生に見られてたのか?
たしかに、俺主動でクエストを進めることは多かったけど、そうだったのか……。
仮にそうだったとして、俺の失敗ってそんなに面白いのか?
「そういうリオンはどうなのさ」
「まぁ、少し見てろって」
先日のゴブリンとの戦闘したときの記憶が正しければ、リオンが使っていた武器は槍だったはず。
そう思った俺は、自分と同じような失敗することを期待してリオンを嗾けると、リオンは自信有り気に弓を構え始める。
そして、リオンの手から放たれた矢は、途中でブレることなく的の中心に突き刺さった。
「おぉ! お前さん、中々良い腕持ってるじゃねえか。弓を使ったことあるんか?」
「はい。とは言っても、俺がもっと小さい頃に少しですけどね」
なんと! 先日も槍を使ってたから、俺と同じように失敗することを少し期待していたというのに。
その後、リオンに続いてカイルが矢を放つと、的の中心ではないもののしっかりと的が射抜かれていた。
リオンだけでなく、カイルも弓が使えたとは……。いや、実は俺が知らなかっただけで、弓矢ってこの世界では割とメジャーな武器なのか?
残す9本の矢で俺も射的を続けたが、最終的に的を捉えることができたのは僅かに2本。
これが初体験の結果に相応しいのかは、正直俺には分からない。
ただ、現実はゲームや漫画とは違い、そこまで甘くないということを見せつけられた気がした。