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一騎打ち

 俺はリーダーの出方を探るべく、足を地につけたまま両手で構えた棒を少しだけ動かし、相手の攻撃を誘ってみる。

 一方でリーダーも同じように、俺の出方を探っているのか剣を構えたまま微動だにしない。


「いつでも来い。ただし、俺はそいつらとは違うぞ? そいつらに勝てたからと言って調子には乗らないことだ」


 お互いに一歩たりとも動かない硬直した状態の中、リーダーが言葉を口にした。

 今の言葉は俺に対する挑発のつもりか? どちらにせよ、考えなしに飛びかかってきた先の二人と明らかに違うことはわかる。

 とは言え、このままお見合いを続けても埒が明かない。それなら、不本意だが多少の危険を承知でこちらから攻撃をしかけてみようか。


 俺は構えていた棒をぎゅっと握り込み、リーダーとの間合いを一気に詰めるように動き出した。


 ガコン!


 勢いよく繰り出した突きだったが、リーダーはそれを瞬時に見切って剣で受け流すと、リーダーもまた反撃に転じる。


 キンッ!


 リーダーが繰り出した剣撃を俺も負けじと棒で受けとめ、そのまま薙ぎ払うように棒を振る。

 それさえも見切ったリーダーは後退して俺から距離を取ったため、俺はその場でもう一度体勢を立て直す。


「思ったよりやるじゃないか。どうりで、あいつらじゃ歯が立たなかったわけだ」

「お褒めに授かり光栄です」


 どうやら、リーダーは今の少しの打ち合いだけで、俺の実力が見た目以上ということは感じとったらしい。

 だが、ここまでで俺が見せたのは生前の中学生時代に習っていた棒術を主体とした戦闘だけ。こっちの世界に来てから習得した魔法は、まだ身体強化と呼んでいる自身の肉体を強化する魔法しか使っていない。

 棒術の動きを十分に思い出せていることは今ので確認できたが、これが俺の全力と思われるのも癪というもの。




「さて、お互い身体も温まってきた頃と思いますし、そろそろウォーミングアップは終わりにしませんか?」

「ほぅ?」


 挑発の意味も込めて一言口にすると、その言葉がよほど効いたのかリーダーの顔色が先ほどまでと比べて明らかに変わっていた。

 俺は棒を構えたまま静かに相手の出方をうかがい続けていると、今度はリーダーの方から攻撃をしかけてきた。


 次々と繰り出される剣撃をひとつひとつ冷静に対処し、俺も隙を見て反撃の一撃を振りかざす。

 しかし、リーダーも俺の動きをしっかりと見切っており、寸前のところで後退して俺の反撃を回避した。


 ――だが、ここまでは俺が想定していた通り。




「ロックバレット!」


 リーダーが後退した瞬間を狙ってロックバレットを放ち、すぐさま追撃をしかける。

 撃ち放った土塊のすべてを避け切れないと判断したのか、リーダーは左腕を上げて頭を覆うようにガードする姿勢を見せた。


 当然、そんな隙を俺が見逃すはずもなく、俺は土の棒を握りしめて一気にリーダーとの間合いを詰める。そして――




「ぐあぁぁぁっ!」


 力強く振り抜いた俺の一撃はリーダーの左腕にしっかりと命中し、リーダーの痛み苦しむ声が森の中に響き渡った。

 リーダーは左腕に力が入れられないのかだらんとさせているが、それでもなお右腕一本で剣を構えて俺の目の前に立ち続けている。


 これだけの深傷にも関わらず剣を構え続ける気概には感服するが、さすがにこの戦いの決着はついたと言ってもいい。


「まだ続けますか? そんな腕では、まともに剣も振れないのでは?」

「ふ……ふざけるんじゃねぇ! こんなガキ一人に負かされたまま帰れるか!」


 俺としては撃退さえできれば十分である以上、この戦いを続けることには何の意味もない。

 とは言え、俺だって敗けるわけにはいかないし、こいつが攻撃をやめないのであれば反撃せざるを得ない。


 いい加減、変な意地を張るのはやめて今すぐにこの森から退いてほしいのだが、退くどころか今もこちらに剣を向け続けている。




「おらぁ! ぐっ……はぁはぁ……」


 今も攻撃をやめないリーダーに対し、俺も棒を構えて反撃を続ける。そんな攻防を続けるうちに体力がすでに限界を迎えたのか、次第にリーダーの息も乱れ始めてきている。

 下っ端二人の方に目をチラッと向けてみるが、二人とも呆然としたまま立ち尽くしているだけ。良くも悪くも動く気配はまるで感じられない。


「そこのお二人さん、少しよろしいですか?」


 さすがに、これ以上この戦いを続けることは危険と思った俺は下っ端たちに向かって声をかける。

 すると、下っ端二人はビクッとしながら俺の呼びかけに反応を示した。


「は、はい! な、何でしょうか……」


 うん。下っ端二人から反抗心は感じられない。

 それなら話も通じるだろうし、こちらから提案を持ちかけてみる価値もありそうだ。


「これは僕からの提案です。こいつを連れて今すぐにこの森から出ることを約束していただければ、今回は見逃そうと思いますがどうします?」

「ふ、ふざけるな! 俺なら……まだ……やれる!」


 俺の言葉を聞いたリーダーは声を張り上げ、その戦意を示す。


「「……」」


 下っ端二人は今もなおリーダーに気を使っているのか沈黙を続ける。


 下っ端らの答えを待つ間に、なおもリーダーは攻撃を再開させてきた。すでに左腕はまともに機能しておらず、その場に立っているだけで精一杯のはずにも関わらずだ。

 俺は攻撃を回避することに専念しながら、下っ端二人に向かってもう再度問いかける。


「――で、どうします? さすがにこれ以上となると命の保障はできませんし、今の状況を見れば答えは一つだと思いますよ?」


 二度目の問いかけに対し、下っ端の二人は決心がついたのかお互いに顔を見合わせた。


「も……申し訳ないですぜ……親分」

「すぐにここから去るので、これ以上はどうかご勘弁を……」

「お、お前らぁ!」


 下っ端二人は重い口振りで答えると、手負いとなったリーダーの介抱を始める。


「く……くそが……」


 介抱する下っ端二人にリーダーは反発しているが、両側から肩を貸され半ば強引な格好でレアンの森から立ち去って行った。




 俺は三人組が森から出るところを最後までしっかりと見届けたあと、茂みに隠した鹿を回収しに身を潜めていた場所に戻った。

 その途中、さっきの三人組が落としていったと思われる、この森周辺の地形が書かれた一枚の地図が落ちていた。


 森周辺の地理を知る上で役に立つことは間違いないし、これは次にあの三人組と会うときまで俺の方で預かっておくことにしよう。


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