俺って変わり者?
時間がお昼に近づいたところで、俺たちは喫茶店を後にして再びギルドの闘技場へ戻った。俺たちが戻った頃には、すでに半分ほどの冒険者が闘技場で待機している。俺たちのあとにも続々とクエストに参加する冒険者が戻ってきて、程なくして揃ったように見えた。
そして、最後にアルフレッドさんが闘技場に姿を現すや否や、ここに集まっている冒険者の人数を数えはじめた。
「みんな集まっているようだな。――念のため、確認しておくが準備は万端だな?」
「「はいっ!」」
「よしっ、いい返事だ。これといって問題もなさそうだな」
アルフレッドさんはクエストに参加する冒険者が全員いることの確認を終えると、最後に念押しで準備が終わっていることの確認をとった。もちろん、どの冒険者も言われるまでもなく準備は済んでいるようで、多くの冒険者の活気に満ちた答えがアルフレッドさんのもとへ返った。
「それじゃあ、最後に一つだ。今回のクエスト地であるイレナルム鉱山までは、この街からだと少し距離がある。だから、移動用にギルドでスカイバード10乗をギルドの屋上に待機させている。遠慮なく使ってくれ」
つい先日、イレナルム鉱山に行ったけど、たしかに歩くにはちょっと距離がある。恐らく、俺たちがクエスト準備に動いている裏でギルドが手配していたのだろう。何がともあれ、移動手段まで用意していてくれたことには感謝しかない。
「では――、ここから先のことはエリックとマークに一任する。後は任せるぞ?」
「「はっ、承知しました!」
アルフレッドさんは、自身の後ろに立つエリックさんとマークさんの方をポンっと叩いて最後に言い残すと、そのまま闘技場を去った。他にも通常業務の作業があるだろうに、緊急クエストの度にこうやってリーダとして全体の旗振りをしないといけないのだから、アルフレッドさんも大変だな。
「はいっ、皆さん。早速ですが、それぞれグループ毎になって整列してください」
マークは手を鳴らしながら、ばらけている冒険者に呼びかけると、ここにいる冒険者たちは一斉に動きはじめた。マークの指示どおりに整列が終わると、偶然にもギルドが手配したスカイバードと同数の列ができていた。
「うん。――それじゃあ、ギルドで手配したスカイバードはグループ毎に1乗。僕らは――、比較的小柄な3人でグループを組んでるツバサくんたちのグループと同乗がよさそうだね」
案の定といった感じではあるが、スカイバードの振り分けはすんなりと終わった。もっとも、今回のグループ事情を見るに、これ以上によい分配があるとも思えないが……。
「残りの確認事項は現地に着いてからの予定だけど、エリックからは何かある?」
「いや、特にないな」
「では――、これから現地に向かって移動を開始します。こっち側の列から順にエリックに続いて屋上まで行き、その後はスカイバードの御者の方に従って動いてください」
屋上に着くと、御者が各グループの冒険者を誘導し、グループ全員が乗り込んだスカイバードが順次、イレナルム鉱山に向かって飛び立った。そして、俺たち以外のグループがすべて飛び立ったことをマークさんたちが確認したあと、俺たちが乗るスカイバードも飛び立った。
「おぉ! すごいなコレ!」
風を切るような速度で飛行するスカイバードの上でリオンが感嘆の声を上げた。
「ひょっとして、リオンってスカイバードに乗るの初めて?」
「え? 初めてだよ。遠出するようなクエストは受けてないし、乗るような用事もそうそうないからね」
やはりそうだったか。俺たちが初めてスカイバードに乗ったときと、まるで同じ反応だったからな。
「なるほどね。――でも、ポロッサから離れた場所のクエストの方が多かったと思うけど……」
「そうだと思うよ? だって、ほとんどのクエストが移動にかかる費用は自費だからね。時間もお金もかかるクエストを避ける人は俺も含めてだけど普通にいるよ」
「あぁ……だから、ポロッサから近いクエストがあまり見なかったのか」
どうりで、ポロッサから近い範囲で受けられるクエストをあまり見かけなかったわけだ。理由を聞いて納得こそするが、まさかそこまでポロッサ周辺で受けられるクエストの競争率が高かったとは……。
「ところで――、カイルは腰に剣を下げてるから剣士だってわかるけど、ツバサは見た感じ武器を持ってないよね? 魔法で戦うとかそんな感じか?」
何かと思ったら、リオンが俺の戦闘職が気になっていたらしい。なるほどね。さっきの喫茶店でも話題は俺とカイルの馴れ初めばかりだったし、俺の武器はいつも空間魔法で管理しているから見た目から判断もできないからな。
「別に魔法でも戦えないことはないと思うけど……、いつもは棒で戦ってるよ」
「えっ……ぼ、棒? ――槍とかじゃなくてか?」
「うん、棒だよ。空間魔法に収めてあるから、今は手元にないけどね」
リオンの疑問にありのまま答えると、リオンは俺の武器が棒であることに驚きを見せた。たしかに棒がメジャーな武器でないことはわかるが、そんなに驚くほど珍しいのだろうか……。
「まぁ、そもそも実戦で棒を使う人っていうのがほとんどいないし、リオンくんの反応が普通だと思うよ? 僕らだって冒険者適正テストで棒を武器に選んだツバサくんを見て驚いたくらいだからね……」
「やっぱりそうだよな! 俺の住んでた村でも、棒なんて槍をまだ持たせられない子どもに持たせる物だったし……」
俺たちの会話を聞いていたマークさんが笑いながら言い、リオンもまた自分の一般性に安堵していた。そして、気がつけば俺が変わり者みたいな流れになっているようだった。
「でもね、冒険者適正テストで見た結果だけど、実力は間違いなく本物だよ? リオンくんも油断はできないかもね?」
「こ……こいつら、そんなに強いのか?」
俺たちの強さを知っているマークさんはフォローをしてくれるも、同時にこのあとに控えている戦闘での期待を上げられてしまった気がした。




