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奇襲

 まずは坑道周辺の状況を少しでも把握するべく、坑道から近い岩陰に身を潜めて様子見する。すると、それほど待たずして坑道の入口付近に三匹のゴブリンが姿を見せた。


「へぇ……あれがゴブリンか。本物を見たのは初めてだけど、思ってたより小っちゃいんだね」


 ゴブリンはギルドの図鑑で軽く見ただけで、それ以外だと生前に読んでいた某小説で見たのが精々といったところ。レアンの森にもいわゆる魔物と呼ばれるようなモンスターはいなかったし、実物を見たのは今が初めてだ。


 外見は今の俺の身体よりも少し小さいくらいの人型で、肌はくすんだ緑色をしている。そして、短い棒に石を括りつけた石斧のような武器を持っているのが見える。


「そういえば、ツバサはゴブリンを見るのって初めてなんだっけ? ――まぁ、俺もはぐれたゴブリンが村に入ってきたのを一度見たことがあるだけだけど……」


 初めてゴブリンを目の当たりにした俺に対し、カイルが小声で訊いてきた。


「うん。モンスターと呼んでいいのか微妙だけど……見たことあるのは、さっきのスカイバードを除いたらブラックボアとホーンディアくらいだよ」

「えっ、それホントかよ……」

「ホントだよ? ゴブリンって名前くらいはさすがに聞いたこともあったけどさ……」


 嘘ではないが、聞いたことがあるのだって俺が生前に読んでいた某小説や遊んでいたゲームといった架空な情報に過ぎない。実際のところ、こちらの世界に来てからもギルドで図鑑をチラ見した程度で、ほとんど無知も同然だ。


 ゴブリンのような魔物と対峙するのは今回が初めてだが、倒す自信がないわけではない。人間相手ではあるが、盗賊を打ち負かしたことは二度あるし、冒険者適正テストの模擬戦も悪くない結果だった。この世界で冒険者として生きていく上で必要な強さもそれなりにはあるはずだ。




 さて、本題に戻るとしよう。坑道の外に姿を見せた三匹のゴブリン、恐らくあれば見張り役といったところだろうか。それぞれが持っている武器が自作したものならば、それなりの知能は持ち合わせているともいえそうだ。兎にも角にも、油断しないに越したことはない。


 それはそうと、このままここで偵察を続けたところで得られる情報にも限りがありそうだ。――あくまで俺の勘だが、この程度ならこのまま俺たちの方から奇襲をかけて殲滅を謀ってもよさそうに思える。


「ねえ、ここから見た感じ、このまま奇襲をかけてもいい気がするんだけど……どうかな? 何か準備とかいる?」

「このまま攻撃をしかけていいんじゃないか? ゴブリンを甘く見ているわけじゃないが、そこまで強いモンスターとも思えないからな」

「じゃあ、それで決まりだね!」


 俺とカイルの考えに相違がないことがわかり、突然だがこのままゴブリンに奇襲をかける方針で決まった。早速、俺はアイテムボックスからいつもの棒を取り出し、奇襲をしかけるための準備を整える。同じようにカイルも腰に携えた鞘から剣を抜き、それをしっかりと両手で構えた。


「カイル、準備はいい?」

「あぁ、いつでもいいぜ!」


 戦闘準備が整った俺たちは、坑道の入口付近で佇むゴブリン目掛けて岩陰から勢いよく飛び出した。




「ギィ……? ギィィィィ!」


 坑道の入り口に構えるゴブリンたちが俺たちの動きに気づいて応戦する態勢を作ったが、俺はそれに構わず一匹のゴブリンをめがけて豪快に棒を振るう。


「グワァァァァ!」


 俺が振るった一撃に耐え切れず一匹のゴブリンが吹っ飛んだのと同時に、カイルもまた一匹のゴブリンを斬り伏せた。残る一匹のゴブリンは俺たちの奇襲を仲間に知らせるためか、一目散に坑道の奥へと駆け込んでいった。俺たちは互いに顔を見合わせ、そのゴブリンの後を追って坑道に足を踏み入れた。


 坑道の中は明かりがほとんどなく、奥に進むにつれて暗さが増していく。ゴブリンに警戒しながら坑道を歩み進めると、やがて道が二手に分岐している場所に着いた。


「うーん、どっちの道にする?」

「別にどっちでもいいけど――、じゃあ左だな」

「わかった。それじゃ、右側の道は一旦塞いじゃうね? ――アースウォール!」


 坑道の中にどれほどゴブリンが蔓延っているかわからない以上、安易に二手に分かれるのが得策とはいえない。だから、俺たちはまとまって一方の道を進むことにし、もう一方の道はゴブリンによる背後からの奇襲やゴブリンが坑道の外に逃げられないようにすべく土の壁で塞ぐ。この壁が破壊されないという保障はないが、それでも時間を稼ぐくらいはできるはず。


「よしっ! それじゃ、左の道に進もっか」

「ツバサ――、俺も見慣れてはきたけど、どんだけの魔力を持ってるんだよ……」


 カイルは慣れからか俺のやることに驚くさまこそ見せなくなったものの、作ったばかりの土の壁をコンコンと叩きながら呆れるさまを見せた。その後、俺たちは前方への注意を払いながら、まずは左の道の最深部に向かって歩きはじめた。


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