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初めての異世界

 どこか遠くない場所から聞こえてくる水の流れる心地の良い音で俺は目を覚ました。


 俺はすっと上体を起こしてその場で周囲をぐるりと見まわすと、青々と生い茂る木々と底が見えるほどに透き通った小川が目に映った。

 わかることは、俺が今いるこの場所は俺の知らない場所ということだけ。ここはどこなのだろうか?

 頭を回転させようにもまだ頭がぼーっとしており、ここに至るまでの経緯があまり思い出せない。




「――そうだ! 俺はたしか……神様? ――シトラ様の力で異世界転移したんだっけか……」


 時間の経過とともに記憶が少しずつ鮮明になっていき、俺が置かれた状況についてもぼんやりと思い出せてきた。

 そんな己の記憶を信じ、俺は恐る恐る自分の身体に目を向ける。


「おっ!?」


 俺の目に飛び込んだものは麻でできた衣服を纏った小さな身体。そして、自分の身体とはとても思えないほどに小さく可愛らしい手。

 視覚から得られた情報が信じられず、無意識のうちに俺はその小さな手を自分のほっぺに当て、そのまま撫で下ろす。


「やべぇ、すべすべしてる。まるで子どもだ……」


 指で触れた先に感じたものは、すべすべとしていて弾力とハリに満ち溢れた若さを感じるほっぺ。まさか、本当に俺は異世界に転移したというのか?

 すぐ近くに流れている小川を覗き込むと、その揺らめく水面に幼い男の子の顔が映った。


 どうやら、本当に俺は異世界に転移しているようだ。


「――ということは、ひょっとして……」


 小さな手、そして幼い顔。つまり、この麻の服に包まれた身体も同じように子どものそれになっているのではないか?

 ふと、俺の頭の中にひとつの穢れた考えがよぎる。

 そんな思い込みを確信にすべく早速、俺は自分のパンツに手をかけ、そのままパンツを下ろす。


 ぷるん!


 下ろしたパンツの中からは、しおらしい姿をした若い息子が勢いよく飛び出した。

 想像していたとおりとは言え、少しばかりの興奮を抑えられなかった。




 自身の肉体への関心が薄れてきたところで、次に自分の腰につけられたポーチを捉えた。

 このポーチには一体、何が入っているのだろうか? 俺はポーチの中身を確認すると、中には少し装飾が施されたサバイバルナイフが一本と一通の手紙が入っていた。


 とりあえず、その手紙をポーチから取り出して開封してみる。

 手紙には初めて目にする文字がずらずらと並んでいる。しかし、それにも関わらず俺はこの手紙に書かれていることが読める。

 どうやら、シトラ様が俺につけてくれると言っていた言語の知識がしっかりと活きているみたいだ。


 その手紙はシトラ様から俺に宛てられたものであり、魔法を使うにあたってのヒントが書かれていた。

 魔法がどのくらい使えるようになるかは練習次第と聞いていたものの、魔法に関する知識はゼロも同然だったのでこれはすごくありがたい。

 俺は人生初の魔法に胸を躍らせながら、早速、手紙に書かれた助言の言葉に沿って試行錯誤してみようと思う。




「えっと、何々……。まずは己の体内に流れる魔力を感じ取ること……、か」


 文頭から早くもよくわからないことが書かれている。

 これは……つまり、どういうことなんだ? 感じ取ると書いてあるのだから、これは感覚の話と予想する。


 書かれていることの意味がわからないながらに、俺は手紙に書かれた言葉を信じて全神経を集中させる。




「うーん……この感覚のこと……なのかな」


 しばらく集中を続けているうち、皮膚の下という下から今までに感じたことのないゾワゾワとするような妙な感覚が込み上げてきた。

 これが俺の体内に流れる魔力によって得られた感覚なのだろうか。魔法を使うところを想像したことはあったとしても、実際に使ったことは当然だが一度たりともありはしない。


 それ故に俺が今、感じているこの奇妙な感覚が魔力によるものかが判断できないでいる。

 とは言え、このままじゃ埒が明かない。とりあえず、今はこの感覚を信じて次のステップに進んでみよう。


「次は……感じ取った魔力を体外に向けて放出させるイメージで流れを操作」


 書いてあることも言いたいことも何となくはわかる。わかるんだが……、少し抽象的すぎやしないか?

 しかし、これ以上ほかに書かれていることはないので、とにかく書かれた通り魔力の流れをイメージしてみる。




 ボワッ……。


「えっ、今のって……。まさか、やったのか?」


 時間が経つことも忘れ、俺は無我夢中でイメージを続けていた。

 やがて、ほんの一瞬だったが俺の手元が微かな炎によって照らされた。


 俺が理想とする姿には程遠い。

 それでも、初めて魔法が使えたことの感激があまりにも強く、思わず感嘆の声が漏れ出てしまった。


 初の魔法チャレンジも一段落がつき、一息をつきながら俺はその場に腰を下ろす。


「少しお腹が空いてきたな」


 目を覚ましてからどのくらいの時間が経ったのだろう? 空を見上げると、太陽は完全に昇り切っており、陽の光が激しく俺に突き刺さっている。

 本当であれば、今の感覚を忘れないうちにもっと色々と試してみたいところだが、今後のことを踏まえて食料調達や身を置ける場所の確保、地理の確認は必要不可欠。

 ここはグッと堪えて魔法の練習を中断し、しばしの休憩を挟んでから森の中の探索を開始した。




「これとかどうだろ。パッと見は食べられそうだけど……」


 小川から少し離れた場所でイチゴのような手乗りサイズの木の実がなった植物を見つけた。

 これが食用かどうかはわからないが、木の周辺に動物が食べ散らかしたと思われる残骸がいくつも落ちている。つまり、森に住む動物たちのお墨付きに違いないはず。


 俺は確信をもって木の実をひとつ摘み取ると、それを口に含んだ。


「おっ? これ……結構美味しいな」


 木の実を噛んだ瞬間、酸っぱさが口いっぱいに広がり、それから少し遅れてほんのりとした甘さがやってきた。

 この木の実をいくつか摘み取ってポーチにしまい、俺は探索を再開する。


 とりあえず、食料はいま採った木の実で最低限だが確保はできた。あとは住処として身を置けそうな場所だな……。

 小動物はチラチラと見かけたが、そのほとんどが俺の姿を見るなりどこかに逃げ去ってしまう。

 今のところ凶暴そうな動物とは遭遇していないし、シトラ様が言っていた比較的安全という言葉に嘘偽りは感じない。


 それからまたしばらく森を歩き続けていると、住処に良さそうな程よい大きさの洞穴が見つかった。

 外からは洞穴の中まではよく見えない。俺は先客がいないことを確かめるため、細心の注意を払いながら洞穴を進む。




「誰も……いなさそうだな」


 中を進んでみたが、先住者は誰もいないようだ。広さについても、狭すぎず広すぎずといった感じで申し分ない。

 だったら、しばらくの間ここを俺の生活の拠点として使わせてもらっても良さそうだな。


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