和解
茂みを刈り倒してから早二日。村の外周と畑の見回りを終えた俺たちは、しばしの仮眠のために一度カイルの家に戻る。
そして、昼下がりまで仮眠をとってから、クエストの報告のため三日ぶりに村長の家へと足を運んだ。
「すみません、村長さんはいますか?」
「誰だ? ――って、なんだ。また、お前たちかぁ……。で、今度は何の用件だ? お前たちと違ってこっちは暇じゃないんだから用があるなら早くしてくれ」
ドアノッカーを鳴らして村長に呼びかけると、程なくして村長の返答があった。
あまりに予想通りすぎる対応に今さら何も思わない。――が、自分らが依頼したクエストだっていうのに、よくこれほどまでに癪に障る対応ができるよな……と。
カイルにとっては当然のことだろうけど、俺もこんな村長と長く関わりたくなどない。だが、幸いにも村長自身も用件を早くしろと言っており、そこの理念だけは一致しているので俺は単刀直入にクエストの報告をはじめる。
「あなた方がギルドに依頼されていたクエストの件です。まだ二晩だけですが、ブラックボアが村の畑に来なくなったことが確認できたので、まずはそれをお伝えに来ました」
「何だって? 夜中にブラックボアが来なくなっただって? ――フン、この二日間で何をしたのかは知らんが、とにかく信用できんな」
無論、予想通りのことだったが、案の定、村長は俺たちに疑いの目を向けた。すると、そんな村長の発言に我慢ならなかったのか、カイルが口を開いた。
「別に俺たちのことを信用するもしないもお前の勝手だが、そんなに言うんなら自分の目で直接確かめればいいじゃねーか。少なくとも、こっちは二日連続でブラックボアが村に来なかったことは確認したんだからよ」
「言ったとおりです。今、僕らがこれ以上、何かを言ったところで信用する気はないようですので、今日の夜にでも村の畑で集合することにしませんか?」
カイルの言葉に続き、俺も現時点で考え得る一番堅実だろう方法をぶつけた。
村長をはじめとした村人のほぼ全員が俺たちを忌み嫌っていることは百も承知だ。とは言え、クエストを受注した俺たちの評価にも関わるから、クエストが完了したことは是が非でも認めさせなければならない。
「今日の夜だな? ――わかったよ。そこまで言うならこの目で直々に確認してやるよ」
村長は何かを考えているように見えたが、別案が思いつかなかったのか渋々、俺の提案を受け入れる姿勢を見せた。
「では、今日の夜に村の畑で待ち合わせるということで、この場は一旦失礼したいと思います」
ひとまず今夜、村の畑で村長と待ち合わせることを取り決めて、俺たちは村長の家を後にした。
◇
日が暮れかかり始めた頃、俺たちは一足早く待ち合わせ予定の畑に行って村長の到着を待った。
そして、日が沈み切ってあたりが暗くなった頃に村長が姿を見せた。
「ありがとうございます。約束通りちゃんと来ていただけて何よりです」
「フンっ、まったくだ」
「では、立ち話もなんですし、早いところ見まわりを始めちゃいましょう」
俺たちは村長を連れ、昨晩と同じように村の外周や畑の見まわりを始めた。
村を軽く一周し終えたが、立ち往生するブラックボアが数匹いた程度で村に危害を加えるブラックボアは今回もいなかった。一周だけでは信じられなかったようで、その後も二周、三周と繰り返して見回りを続けたが、どれも同じような結果となった。
「し……信じられん。ホントにブラックボアが一匹も村に入ってきていないじゃないか。でも、一体どうして……」
先ほどまでの村長の高飛車な態度は見る影もなく消え去り、面食らった表情で言葉を発した。
「俺たちがやったことは畑に立ち入ったブラックボアを追い返したことと、村を囲んでいた茂みを刈り倒したことだけです」
「た……たった、それだけ――なのか?」
「はい。僕らも専門家ではないので確証はないですが、深い茂みがなくなったことで身を隠せる場所がなくなったので村に入りづらくなったのだと思います」
俺たちがこの二日間でやったことをありのままに伝えると、村長は呆気に取られていた。
それもそうだろう。何せ、畑に立ち入ったブラックボアを追い払うのはともかく、茂みの伐採はその気になれば誰でもできるようなことだから、そんな反応になるのも頷ける。
それから、見回りを終えた俺たちは村長の家の前に場所を移し、最後にクエストの終了確認をはじめる。
「さて、一通り確認していただけたとは思いますが、依頼されていたブラックボアの件はこれで解決ということでよろしいでしょうか?」
「あぁ……たしかに、ブラックボアが村に入ってこなくなったことは確認したよ」
村長は牙を抜かれた虎のようにすっかり静かになり、何の異論もないまま今回のクエストは終わりを迎えた。
「ありがとうございます。それでは、クエストはこれで終わりということで、僕たちはこの辺で失礼しますね」
「おっ……おい! 少しだけでいい、時間をくれないか?」
正式にクエストも終わってカイルの家に帰るための一歩目を踏み出した矢先、村長は後ろから俺たちを呼び止めた。
「――今度は何だよ。依頼されていたクエストは終わっただろ? まだ何か俺たちに用があるのか?」
カイルは冷ややかな視線を村長に向けながら問う。もちろん、カイルの心情を思えば、冷たい返しになることも理解できないことではないが……。
そんなことより、俺たちを呼び止めた村長の方が黙ったままなのだが、一体何を考えているのだろうか。
俺たちは呼び止められた理由もわからないまま、村長の次の言葉を待った。
「カイル……今まですまんかった!」
えっ……?
村長は地面に手をつきながら、その重い口を開いた。
思ってもいなかった村長の行動に唖然としたが、俺なんかよりもカイルの方がずっと驚いているに違いない。ぽかんと立ち尽くしている俺たちに向かって、村長は言葉を続けた。
「カイルなんだろう? これまでブラックボアを村から追い払ってくれていたのは……」
「ど……どうしてそれを?」
村長の口から出た言葉は、カイルが村の誰にも言わずに人知れずやっていたことであり、さすがのカイルもこれには驚きを隠せずにいた。
「昨日、冒険者ギルドの連中からカイルが適任と判断した理由を聞かされてな。――それに、思い返せばブラックボアの被害が出始めた時期も、お前たちが村を出て行ってすぐのことだったからな」
「……」
「それなのに……そうとも知らず、ワシたちはお前が孤児というだけでつらい思いをさせてしまった。――今までのことを許してくれと言うつもりはない。だが、謝らせてくれ! 本当にすまなかった」
村長はカイルの問いに答えるとともに、精一杯と感じさせる謝罪を見せた。
カイルは顔を俯かせたまま沈黙を続けている。まぁ、謝られたところで今までに受けた傷が癒えるわけでもないし、気持ちの整理が追いつかないのも無理はない。
「それで……無理を承知での頼みなんだが……カイル、村に戻ってくる気はないか? 村にある畑はこの村の生命線で、同じようなことがまた起きても困る。――だから」
「悪いが俺はもう……ツバサと冒険に行くって決めたから、帰るつもりはない」
今まで無言を貫いていたカイルだったが、村長からもう一つのお願いを聞かされるとカイルは即答した。
「そ……そうか、そうだよな。それなら仕方ない……か」
カイルの返事を聞いた村長はしゅんとしているように見えた。
「――でもまぁ……」
「ん?」
「父さんや母さんは今もこの村で眠っているから、たまに村に帰ってくるのも悪くはないのかもしれないな」
カイルは気持ちの整理ができたのか、いつの間にかどことなく嬉しそうな表情に変わっていた。




