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茂みのお手入れ

 俺とカイルで畑の防衛を続けていると、やがて太陽が姿を見せ始めた。それとともにブラックボアは再び身を隠しはじめ、無事、ブラックボアの侵入を許すことなく朝を迎えることができた。

 ただし、それも俺たちが防衛していた畑に限った話だが……。


 他の畑の状況をまだ見ていないからわからないが、この畑だけでもこれだけの数のブラックボアだ。恐らく、この畑と同じように食い荒らされていることは容易に想像できる。

 とは言え、俺たち二人で守れる範囲にも限度があるし、このまま撃退を繰り返したところで根本的な問題は何も解決しない。

 そうだとすると、このクエストの達成にはもう少し作戦を練る必要がありそうだが、それは休憩のあとに考えるとしよう。


「朝になったからかブラックボアは出なくなったみたいだね? とりあえず、少し休憩しよっか」

「そうだな……このまま畑にいても何も変わらないもんな」


 俺たちは一度カイルの家に戻り、布団の上に腰を下ろして息をついた。




「――ふと思ったんだけどさ、この村に出てくるブラックボアって何処から来てるんだろう。何か知ってる?」

「村の外ってことは間違いないけど、それ以上のことはわからんな。なんせ、村の周りにある茂みのせいでブラックボアの姿がほとんど見えないからな」


 それもそっか……まぁ、村の周囲があんな状態なんだからそうだよな。


「やっぱりそうだよね。――それじゃあ、その茂みって俺たちで勝手に刈り払ってもいいのかな? そうしたら、ブラックボアの動向も見えるようになるかもしれないしさ」


 色々と考えてはいるが、やる意味のありそうな行動がこれくらいしか俺には思いつかない。

 それでも、立ち止まったり闇雲に畑を守りつづけるより、ゆっくりでも目の前の問題を一つ一つ取り除いていく方が問題解決の近道だろう。


「それは村のみんなが放置した結果だから別にいいと思うけどよ……どうやって茂みを刈るつもりなんだ? こんな村でも結構あるぞ?」


 俺が出した一案にカイルは実現性の疑問を返した。カイルの疑問はごもっともだが、さすがの俺も何の策もなしに提案は出すわけはない。


「それなら、ウィンドカッターっていう風魔法を使おうと思ってるよ?」


 茂みを刈りはらうだけであればこれで十分なはず。一度の魔法でそこそこの範囲の茂みを刈れるから、これなら俺一人でもそれなりに茂みを対処できると踏んでいる。


「ウィンドカッター? ツバサ、お前……無属性に土属性……さっきも火属性の魔法を使ってたよな。――で、風属性の魔法まで使えるのかよ」

「うん、ほかにもあと水や氷、雷属性の魔法も少しだけだけど使えるよ」


 多属性の魔法を使える人が珍しいということはシトラ様から聞いていたこともあり、実のところ不必要に他言することは避けていた。

 だが、これを機に冒険のパートナーとしてこれからも付き合いが続くであろうカイルに打ち明けると、それを聞いたカイルはただただポカンとしていた。

 そんな呆然としてるカイルに対し、俺は構わずに話を続ける。


「――で、これからの作戦なんだけど、俺が今から夜になるまで茂みをひたすら刈ってそのあとは朝まで休んで、カイルは今から夜まで休んでから朝まで畑の防衛。これでどうかな?」

「俺はそれでもいいけど……ツバサは大丈夫なのか?」


 たしかに、一見すると俺が昨日の夜からぶっ通しで無理をしているようにも見えなくはない。案の定、カイルは俺のことを気にしているようだ。

 完全に無理をしていないかと言われると嘘になってしまうが、一日二日程度の徹夜であれば耐えられることは生前で経験済みだし、大した問題とは思っていない。

 むしろ、下手な仕事と違い、今回の一件は誰に言われるでもなく自分で提案しているだけに、こちらの方が数倍マシとさえ言えるだろう。


「うん、ありがと。――俺も疲れを感じたら、そのときは休むから大丈夫」

「そ……そうか、わかった。それじゃ、俺は休ませてもらうけど、ツバサも無理だけはすんじゃねーぞ?」


 カイルは納得していない様子を見せながらも、今夜の対応に備えて布団に就いた。




 さて、休憩もほどほどに茂みの対処を始めるとしよう。

 俺は再び外に出て、手入れが施された形跡がまるでない茂みのある方へと向かう。

 それにしても、これはすごいな……。乱雑に生えた茂みは、どれも俺の背丈ほどあってブラックボアが身を隠しながら侵入するにはもってこいな状態だ。


 俺は早速、風魔法を使った茂みの刈り払いに取りかった。





 時間が経つことも忘れて夢中で茂みを刈り倒していると、後方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 その声に振り返ると、手を振りながら駆け寄ってくるカイルの姿があった。


「おーい、ツバサー! こんなところにいたか」

「あれっカイル? ――って、もうそんな時間?」


 空を見上げると、空色は燃えるような橙と紫のコントラストでいかにも夕暮れ時であることを示している。


「まだ一日経ってないけど、ほとんど刈り終わったんだな。朝までの光景が嘘みたいだな」

「ただ草を刈ってただけなんだけど、これが思ったより楽しくて気づけばつい……ね?」


 膨大な量の草を刈るだけだったが、これが思いのほか楽しくて気がつけばこの有様だった。

 ただ、その甲斐もあって村を隠すように囲んでいた茂みのほとんどがなくなり、見晴らしはかなり良くなった。


「そうか……。無理をしてないなら別にいいけど、もう夕方だからツバサも少しは休めよ?」

「うん、そうだね。それじゃ、俺もそろそろ休ませてもらうよ。カイルも気をつけてね」

「あぁ、わかってる」


 何だかんだ一日中動き続けていた結果、さすがの俺も十分な疲れと眠気を感じはじめてきた。

 ここで無理をする必要もないし、夜の見張りはカイルに任せて俺は休息を取るためカイルの家へと戻った。





 翌朝、俺は朝の光に照らされて目を覚ますなり、気になってやまない昨夜の状況を聞くべくカイルのいる畑へと急いだ。


「カイルおはよう!」

「おぉ、ツバサ! 聞いてくれよ。昨日の夜から村中の畑も見て回ったんだが、ブラックボアを一匹も見なかったぜ!」


 畑に到着するやいなや、カイルは興奮気味に昨夜の状況を話してくれた。

 それにしても……まさか、たったそれだけのことでブラックボアが一匹も姿を見せなくなるとは……。ただ、急激な環境の変化による可能性も大いにあるし、まだ油断はできないだろう。


「――それで、何でこれだけでブラックボアが来なくなったんだ?」

「うーん……。詳しくはわからないけど、俺たちが思っているよりも野生動物たちは臆病なんじゃないかな。草むらがなくなったことで身を隠す場所がなくなっただけでなく、人間がいることも伝わっただろうからね」

「なるほどな……。たしかに、そういうこともあり得そうだな」


 カイルは納得しているようだが、俺も専門の知識があるわけではないからどんなに考えたところで憶測の域を出ることはない。とは言え、野生動物が人間に対して臆病であることは珍しい話でもないから、強ちおかしな話でもないとは思う。


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