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野生動物撃退作戦

「たっだいまー!」


 俺たちが村を発って以来、およそ十日ぶりのカイル家。俺の家ではないにも関わらず、俺カイルの家に入るなり俺は声高に言った。


「まさか、こんなに早くこの村に戻ってくることになるなんてな……。思ってもいなかったぜ」

「ホントにね。正直、俺もこの村に良い思い入れはあまりないけど――でも、ここだけは結構気に入ってるよ」


 家の中は俺たちが村を発った日から布団がずっと敷きっぱなしのままとなっており、カイルは早くも敷かれたままの布団にボフッとダイブするかのように倒れ込んだ。


「ふぅ……。敷きっぱなしの布団、ツバサも好きに使ってくれていいぜ」

「うん、ありがと」


 俺も空いてる方の布団に向かって思いっきり倒れこんだ。

 ここは俺とカイルの冒険の原点と言っても過言ではない場所であり、少なくとも俺の中では思い入れの強い場所だ。それにしても、カイルと出会ってからというもの、何気に色濃い日々が続いていた気がするな……。


 俺たちは夜のクエストに備え、日が暮れるまでの時間で仮眠を取るため布団に就いた。





 日が暮れかかった頃に俺たちは仮眠から目を覚ました。身支度をさっと済ませ、外が完全に暗くなる前に野生動物の被害が報告されている畑に向かう。

 畑に到着すると、早くも野生動物によって食い散らかされてボロボロとなった農作物が俺たちの目に映った。


「これは……思ったよりも酷いね」

「そうだな」


 あまりの光景に俺は驚きを隠すこともできなかったが、その一方でカイルは目の前に広がる惨状に一切として動じることなく、淡々と畑の観察をはじめていた。

 そんなカイルに続いて俺も畑に踏み入り、特に荒れた場所に目を向けると野生動物のものと思わしき足跡がいくつも見つかった。


「この足跡の形――やっぱり、ブラックボアの足跡かな?」

「あぁ、これはブラックボアで間違いないな」


 ブラックボアを日頃から見ていたカイルがそう言うのであれば、今回のクエストの討伐対象はブラックボアが主でまず間違いないのだろう。

 それにしても、ここら一帯に残された足跡はどれも同じような蹄の形をしているように見える。


「俺がカイルと初めて会った日も二人でブラックボアを狩りに行ったけど、ブラックボアってそんなにたくさん村に出てくるの?」

「たくさん――かは微妙だけど、ラットみたいな小動物と比べたらブラックボアは割と見ることが多かったな。実際、村の周りをちょっと探せばすぐに何匹かは見つけられたからな」

「そうだったね」


 カイルの回答に納得すると同時に、小さな懸念が頭に一つ浮かび上がった。


「ん? どうかしたか?」

「あっ……いや、ブラックボアの対策ができたとして、そのあとに今度はラット系とか別の動物による被害が始まらないかな――って思ってさ」

「それはあるだろうけど、さすがにラットみたいな小動物程度なら、さすがに村の連中でもどうにかできるんじゃないか? ブラックボアに比べたら素早いだけで力はないからな」

「うーん……それもそっか」


 たしかに、カイルの言うとおりではある。むしろ、ここで中途半端に深く考え込んで、何もしない方が悪手であることに間違いない。

 だが、仮にもラットのような別の野生動物が増えたとなれば、この村の民度ならば間違いなく俺たちに責任を負わせようとしてくるだろう。

 わかっていたことではあったが、今回のクエストは思っていた以上に骨が折れそうなクエストになりそうだ。




 それからしばらく、畑で警戒を続けていると畑の端にある草むらからガサガサと目立つ音が聞こえてきた。

 音の聞こえる方に目を向けると、草むらから顔を覗かせて俺たちのことを注意深く見ているブラックボアの姿が目に映った。

 恐らく、俺たちが村を出てからの数日間、ここらを餌場としているブラックボアの一匹なのだろうが、今は俺たちを警戒しているのか草むらから出てくる気配が一向に感じられない。


「来たみたいだね」

「そうだな。さて、これからどうする? 前みたいに討伐するか?」

「向こうから来ないのなら、こちらから攻撃をしかけるしかないね。――カイル、ここは俺にやらせてくれない?」

「別にいいぜ。それじゃ、ここは任せたぜ」

「うん、ありがと」


 俺はいつもどおり棒を構える。そして、草むらに身を潜めつづけるブラックボアめがけて飛びかかると、同じくブラックボアも俺に向かって突進をしかけてきた。


「うわっ!」


 俺とブラックボアの攻撃が激しくぶつかり合ったが、ブラックボアは俺の一撃をものともせずにそのまま身体を押し込んできた。俺は間一髪のところで横跳びをして突進を回避するも、ブラックボアは間髪を入れずに再び突進を繰り出した。

 わかりきってはいたが、力勝負ではやはり俺の方が分は悪そうだ。ただ、ブラックボアの攻撃は突進がほとんどで、冷静に見極めさえすれば回避は容易い。

 俺はブラックボアから片時も目を離さず、ブラックボアが繰り返す突進のすべてを当たる直前でしっかりと回避した。


 そして、これが今回、俺の試してみたかったこと。


「ファイアボール!」


 俺は突進をかわした直後、ブラックボアに向けて三発の火魔法を放った。

 ファイアボールは三発すべて命中したが、下級攻撃魔法なだけあって大きなダメージにはなっていないようだ。

 しかし、どこからともなく発生した火球に驚いたのか、ブラックボアは瞬く間にこの場から逃走していった。


「お? やっぱり予想どおり火魔法は効果がありそうかな?」


 今のブラックボアの様子を見た感じ、ブラックボアは火が苦手なのだろう。

 動物除けで焚き火を点けるという話を聞いたことがあったから試してみたが、どうやら思ったよりも効果てきめんとわかった。

 そうとわかれば、ファイアーボールを主体に切り替えて応戦してみよう。


「ツバサ、次が来てるぞ!」

「うん、わかってる」


 その後も、餌場を求めたブラックボアが次々と俺たちが待ち構える畑にやって来た。


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