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ポベルティ村 再び

 アルフレッドさんとの話が終わった俺たちは、早速、受付に行ってクエスト受注の手続きを済ませた。


「ところで、クエストに備えて何か準備しておきたいことって何かあったりする?」


 カイルは少し考える仕草を見せてから答えた。


「うーん……食料はツバサが腐るほど持ってるし、そもそもクエストって言っても俺が元々住んでた村に帰るみたいなもんだからな。あまり思いつかんな」

「やっぱりそうだよね。俺も特に思いつかなかったし……」


 カイルも言うように食料は俺の備蓄で十分だし、ポロッサに来てから薬草類の準備も充実した。防具がないことは少し気にはなるが、それでもポロッサに来る前よりも準備が整ったと言える。


「それじゃあ、少し早い気もするけど出発する? 早く村に着く分には問題もないだろうしさ」

「そうだな。ポロッサにいてもすることはないし、別に良いんじゃないか?」


 無理をして中途半端にポロッサを散策する意味もないし、カイルとともにポベルティ村を目指してポロッサを発った。





 ほとんど来た道を戻るだけだったことに加え、やや駆け足気味で平原を移動していたこともあってか、ポロッサを発った翌日にはポベルティ村に到着した。つい十日ほど前に見た古ぼけた看板がいま、こうして再び俺の目の前で静かに立っている。


「思ったより早く着いちゃったね。念のために聞くけど、心の準備は大丈夫そう?」

「――俺なら大丈夫だ。何度も言わせるなよ」

「ごめんごめん。でも、やっぱり気になっちゃって……」


 カイルは村の入口で立ち止まったまま、大きく深呼吸をしてから力強い声で俺の問いに答えた。カイルの意志はずっと固いようで、俺は心の底から安心した。

 それからまもなくカイルは村に足を踏み入れたので、カイルに合わせて俺も歩き始めた。




 村の市場にさしかかると、前と同じように俺たちを見るなり指をさしながら陰口を叩く村人らの姿が目につく。俺たちはそれを横目に市場を通り抜け、今回のクエスト依頼主である村長の家へ向かった。

 村長の家に到着するなり、俺はドアノッカーをコンコンと二回鳴らす。


「はいよ、どちらさんだ?」


 ノックの音に反応した声とともに扉が開き、村長が顔を見せた。


「こんにちは。俺たち――」

「こんにち――なっ! フン! 誰かと思えばお前たちか。一体、何の用なんだ?」


 村長は俺たちを見た途端にまるで暇ではないといわんばかりの態度で俺たちに要件を聞いてきた。

 この村長の態度が人として気に入らないことは言うまでもないが、俺はグッと堪えて淡々と用件だけを簡潔に話す。


「あなた方が野生生物の被害に困っているとのお話を受けて、ポロッサの冒険者ギルドから来ました」

「そうだったか。――それで、来ているのはお前たちだけ……なのか?」


 村長は辺りをキョロキョロと見まわしながら、俺たち以外の冒険者の存在を聞いてきた。


「はい、俺たちだけですが何か問題でもありましたか?」

「くそっ! ギルドの奴ら、ワシらが依頼した内容にこんなガキどもしか寄越さんとは……バカにでもしとるのか! 抗議してやる!」


 俺が毅然とした態度で問いに答えると、村長は不満を爆発させて吐き捨てるように不平を口にしながら力強く扉を閉めた。

 村長が俺たちを信用していないことは明白。もっとも、今回の依頼内容である野生生物の討伐も元々はカイルが一人で自発的にやっていたことであり、それを村長をはじめ村の人たちは知らないのだから無理もないわけだが。


 それにしても、村に戻ってきたことへの労いの言葉がないことは予想どおりだったが、まさかこれ程までに酷く言われるとは……。

 まぁ、ギルドとして依頼内容に対応する姿勢はしっかりと示したわけで、これで仮に俺たちが村長の一存で撤退することになったとしても文句を言われる筋合いはなくなったわけだ。




「何か――ゴメンな? 俺のせいで色々とさ……」

「ん? どうしてカイルが謝るのさ。カイルは何も悪くないじゃん」


 今の村長の一言に負い目を感じたのか、突然、カイルが謝ってきた。カイルが気にする気持ちもわからなくはないが、この村の人たちが色々とおかしいことなど今に始まったことではない。少なくともカイルは何も悪くないし、カイルに謝られたところで俺も困ってしまうのが本音だ。


「そりゃ、そうかもしれないけど――」

「だったら、今回のクエストでこの村の人たちに、俺たちの力を見せつけてやれば良いじゃない? ぐうの音も出ないほどにさ!」


 今さらここの村人を相手にいくら説いたところで、俺たちの話に聞く耳を持つ人が一人としていないことは火を見るより明らか。であれば、依頼された問題を解決することでもって、実力行使で村の人たちに知らしめるのが一番早いだろう。もちろん、クエストを最後まで遂行できればの話にはなってしまうが。


「あ、あぁ……そうだよな! さっきのは聞かなかったことにしてくれ」

「それじゃあ、そうと決まれば今夜のクエストに備えるためにも、今のうちにできるだけ休んでおこっか。休む場所はカイルの家でいいよね?」

「そんなことはもちろんだ」


 大抵の野生生物が活発に動き出す時間帯が夜であるため、まずは視察のつもりだが夜に備えて少しでも体力は温存しておきたい。夜を迎えるまでの時間で仮眠を取るため、俺たちはカイルの家に向かった。


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