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爆誕!2人の冒険者

「二人だとちょっと狭いかもしれないけど大丈夫かな? 他の冒険者たちも利用していて空きが少ないから、申し訳ないけど今日のところはこれで我慢してほしいんだ」

「いえいえ、野宿に比べたらこれでも十分過ぎます! ぜひ、ありがたく使わせて頂きます」


 マークさんに案内された場所は、いわゆるカプセルホテルのような実にシンプルな一室だった。広さはシングルベッドを少し広くしたくらいだろうか。

 たしかに、マークさんも言っているように俺たちが二人で過ごすには少しばかり狭いということは否めない。とは言え、俺が簡易的に土で作る小屋より良い環境なことは間違いないので、マークさんとエリックさんのご厚意に甘えさせていただくことにしよう。





 翌朝、個室内の蒸し暑さや適正テストの結果が気になったりといった要因で俺はいつもより早く目が覚めた。それでも、カイルより寝ていたことに変わりはないが……。

 起床するなり早速、休憩スペースの個室を飛び出し、いの一番にギルドの受付まで走った。


「おはようございます。昨日の適正テストの結果を聞きに来ました」

「おはようございます。ツバサさんとカイルさんですね? 申し訳ありませんが、まだ結果が出ておりませんのでもうしばらくお待ち頂けますか?」


 とりあえず、どこにも行かず結果が出るまでロビーのソファーに腰をかけて待つことにする。

 冷静に考えてみれば、アルフレッドさんの不在が理由で今日に持ち越ししたのだから、こんな朝一に来たって結果が出ていないのも無理はない。




 しばらくして、俺たちはギルドのスタッフから声をかけられ、応接ルームに案内された。


「ただいまギルドマスターをお呼びしますので、こちらで少々お待ちください」


 俺たちは長椅子のそばで立ったままアルフレッドさんが来るのを待っていると、それから程なくしてアルフレッドさんが応接ルームに姿を見せた。


「おぉ、ツバサとカイル……この前は世話になったな。改めて礼を言うぜ」

「そ、そんな……こちらの方こそ」

「まさか、本当に我がギルドに来てくれるとはな……まぁ、立ち話もなんだから、まずは椅子に座ってくれ」


 アルフレッドさんに促され、俺たちはそのまま長椅子に腰を下ろす。

 俺たちが座ったあとにアルフレッドさんも俺たちの対面に座り、話は本題に入った。


「それじゃあ早速、君たちが一番気になっているであろう適正テストの結果だが――」

「は、はい……」


 わずか数秒がとにかく長く感じる中、俺はごくりと唾を飲み込んで続きの言葉を待つ。


「――おめでとう。二人とも文句なしの合格だ。これで君たちも今日から晴れて冒険者の仲間入り、というわけだ」


 アルフレッドさんの口から合格と告げられた瞬間、喜びと安堵から俺とカイルは思わず笑みがこぼれた。


「ありがとうございます! ――ところで、合格の理由って教えてもらえるのでしょうか?」

「まぁ待て、落ちつけ落ちつけ」


 無意識のうちに立ち上がって前のめりになっていた俺は、アルフレッドさんの言葉に落ちつきを取り戻して再び椅子につく。


「話の続きだ。――知りたがってる合格の決め手なんだが、実のところ今回の適正テストに大した意味はないんだ」


 ん? 適正テストに意味がない?


「えっと……つまり、それってどういう……」

「そりゃあ、お前たちの強さも人となりもこの前の平原の一件ですでにわかりきっていることだからな。今さら改めて見る必要性なんざねぇって話だ。単なる建前とでも思ってくれていいぜ」


 あー、なるほど……なのか? まぁ、たしかにアルフレッドさんの目の前で親衛隊の人たちと一緒に戦ったのだから、模擬戦程度では新しい情報がないのも当然か。


「まぁ、それはそれとして、今回の適正テストの様子は魔導水晶を通じて見させてもらってはいるぜ」

「そうだったんですね。でも、さっきはテストに大きな意味はないと言っていたのにどうして……」

「それは単純な話でお前たちには将来性も感じるし、何より興味があったからな。模擬戦とは言え、この目でしっかり見ておきたいと思ったんだ。あとは……冒険者として認める以上、こちらにも相応の責任ってもんもあるからな」


 俺たちに興味? なるべく目立たないようにしたいとは思っていたのだが……。




「――それじゃ、ここから適正テストの見て思ったことを順番に話すとしよう。とは言っても、俺の率直な感想だから楽な気持ちで聞いてくれればいい。では、まずはツバサからだ」

「はい」


 楽な気持ちで聞けと言われても……。合格とわかっているだけに気持ちは楽であるが、それでも、どことなく感じる空気の重さには緊張だってしてしまう。

 俺は深く息を吐き、気持ちを落ちつかせてアルフレッドさんの言葉を待った。


「対面した相手の情報を的確に捉えた上で、武器のリーチ差を最大限に意識した応戦が良かったぞ。平原での一戦でも思ったことだが、ああいった状況で冷静に対処できるヤツなんざ、お前くらいの年代にはほとんどいないからな。これからの冒険者活動でも活躍を期待しているぞ」


 目の前に立つ相手の能力を冷静にかつ、確実に見極めて対応すること。

 これは、俺がかつて棒術を習っていた頃に師範から散々言われてきたことだ。自分でも意識はしていたが、アルフレッドさんのコメントを受けることで師範の教えを守れていることが実感できた。


「はい」




 俺へのコメントが終わると、アルフレッドさんの目線はそのままカイルの方へと移っていった。

 それと同時に、先ほどまで俺に纏わりついていた重たい空気がスッと消え、俺の気持ちはどっと軽くなった。


「次にカイルだが、ツバサとは逆で勘の鋭さを活かした型にはまらない戦い方は大したものだったな。見たことのない剣筋から察するに我流だと思うが、マークをあれだけ手こずらせたことは誇ってもいいだろう。ツバサ同様、これからの活動に期待しているぜ」


 俺も感じていたが、対峙する相手の弱点をピンポイントに狙う能力を見せられると、さすがあの村で誰にも頼らず一人で狩猟を中心に生活していただけのことはあるなと思わざるを得ない。




 カイルへのコメントが済んだところで、アルフレッドさんは目線を再び俺たち二人の方へと戻して締めに入った。


「最後に……これは君ら二人に共通して言えることなんだが、これから先にはきっと数々の困難が君らを待ち受けているだろう」

「はい」

「――だが、君らはお互いに自分の強みで足りないものをカバーし合える、実に良いコンビだと感じた。だから、今あるその絆はこれからも大事にしてほしい」

「それはつまり、力の合わせ方次第で俺たちはもっと強くなることも目指せる――ということでしょうか?」

「まぁ、そんなところだ」


 複数人で協力関係を結ぶことで物事への対応力を上げられることがパーティを組む大きな利点であり、実際にパーティを組んで行動している人たちの大半はそういった目的だろう。

 ただ、俺としてはカイルのように一緒にいて楽しいと思える人と組むパーティもありと思うし、これまでと同じように親友とでも呼べるような関係であり続けたい。もちろん、互いに強みでカバーし合えるのであれば、それに越したことはない。


「なるほど……。それじゃ、カイルさえ良かったらこれからもよろしくね」

「な……何だよ今さら……」


 改めて言うのも少し照れ臭く感じたが、せっかくだからアルフレッドさんの言葉に相乗りするように言ってみた。

 カイルは照れ臭そうにしながらも、俺の言葉をしっかりと受け入れてくれたようだった。




 俺たちがお互いに顔を見合わせる中、アルフレッドさんは手をパンと叩いて俺たちの視線を戻してから話を再開した。


「適正テストの結果についての話はこれで終わりだ。――さて、今日からツバサやカイルも冒険者としてクエストを受けられるようになるわけだ。ここからは、冒険者として活動するにあたっての決まり事についてを話すから心して聞いて欲しい」

「「はい!」」


 そうして、アルフレッドさんによる長い長い説明が始まった。


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