表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/74

冒険者ギルド

「ここがポロッサかぁ……」

「俺たち、ついにポロッサまで来たんだな」


 目の前にそびえ立つ大きな城門からは、活気づいた街と言わんばかり音が微かに零れている。

 ポベルティ村を発ってからまだ二日あまりだが、ほとんど虚無に等しい平原を歩き続けてきた俺たちにとっては幻のようにさえ思えてしまう。

 早速、ポロッサに入街するため、俺たちは門番に声をかける


「すみません。ポロッサの街に入りたいので手続きをお願いします」

「わかった。では、この水晶で君たちの身元を確認するから、順番にこの水晶に手を触れてみてくれ」


 どうやら、手続きの内容はさっきのクリフたちのときと同じく、水晶による確認のようだ。

 結果もさっきと同じく問題はなく、俺たちはすんなりとポロッサの街に足を踏み入れることができた。




 街に入ると住宅はもちろん、飲食店をはじめとした様々なお店が立ち並ぶ光景に呆然とした。


「す……すごい。まるで都会だ……」

「人の数も何もかもが村なんかとは全然比べものになんねぇ……」


 パッと見だが、街を行き交っている人の数は某都内にも匹敵しそうなまである。少なくとも、俺が想像していたよりもずっと栄えているようで言葉が出てこない。




 さて、ひとまずは目標としていたポロッサに来ることはできた。――が、具体的に何かやりたいことがあったわけでもなく、これから先どうしようかは正直なところ迷っている。

 もとは自分が始めた冒険というのにも関わらず人任せが過ぎるが、一緒に冒険するカイルにも訊いてみようと思う。


「俺はポロッサに来れただけで割と満足してるんだけど、カイルはどこか行きたい場所とかやりたいことって何かある?」

「俺か? うーん、そうだな……。だったら、冒険者ギルドに行ってみないか? さっきの護衛隊の人たちが言っていた冒険者ライセンスが少し気になってるんだけど……」


 冒険者ギルドか……。たしかに、冒険者ギルドがこの世界に実在することを知って、俺も少し気にはなっていた。

 カイルも同じような考えを持っているとわかった以上、冒険者ギルドに行かない選択肢など無いに等しい。


「それじゃあ、俺も少し気になってたし、とりあえず冒険者ギルドに行ってみようか」


 俺たちは冒険者ギルドを探しながら、街中の散策を始めた。




 辺りを見回しながら街中をしばらく歩いていると、冒険者ギルドと書かれた大きな看板を掲げた一際大きな建物が見えた。恐らく、ここが俺たちが探していた冒険者ギルドで間違いなさそうだ。

 俺たちはすぐさま建物の中に入り、そのまま受付に直行して冒険者ライセンスのことを尋ねた。


「こんにちは、ここが冒険者ギルド……で合っていすよね?」

「はい、合っておりますよ。ご用件は何かありましたか?」

「えーっと……冒険者ライセンスというものがあると聞いたのですが、それがあるとどういったことができるのでしょうか?」

「そうですね……まずは氏名や冒険者歴、クエスト達成数や達成率といった身分や信用情報の証明が容易にできるようになります。あとは――魔導通貨のご利用も可能になります」


 ――魔導通貨? 身分証明の方はレックスから聞いていたから想像もできていたが、魔導通貨は初めて聞いた。通貨と言っているからお金に関連するものとは思うが、これはどういったものなのだろうか。


「あの……魔導通貨とは何なのでしょうか?」

「魔導通貨とは文字通り、貨幣の代わりに魔力でやり取りを記録するお金のようなものです。クエストの報酬は原則この魔導通貨によって支払われ、買い物等で何かのお支払いをするときに冒険者ライセンスを掲示することで所有する魔導通貨をお金の代わりとして使用できます」


 なるほど……。今の説明を聞いた感じ、早い話が生前でいうところの電子マネーの魔力版とでもいったものってことか。まさか、この世界にもそういったデータ化に近い思想があったとは、少しばかり驚いた。

 それなら持っていたら何かと便利と言っていたクリフの話にも頷ける。


「ありがとうございます。――ところで、その冒険者ライセンスって俺たちでも取得できるんでしょうか?」

「もちろんです。冒険者適性テストを受けていただき、そのテストの結果次第ですが、原則、どなたでも取得はできますよ。あなた方もテストを受けられますか?」


 ――冒険者か。手っ取り早く信用情報を得るという意味でも冒険者ライセンスは持っておきたいところ。だが、それを抜きにしても冒険者そのものにも興味がある。


「俺はテスト受けてみたいと思ってるけど、カイルはどうする?」

「あぁ、俺も同じだぜ」


 どうやら、聞くまでもなかったようだ。俺たちは受付用紙に必要事項の記入を済ませ、それを受付に渡した。


「ご記入ありがとうございます。適性テストの方は少し準備が必要ですので、明日にまた冒険者ギルドにお越しください」

「わかりました。それでは、また明日もよろしくお願いします」


 受付とのやりとりが終わり、今日のところは冒険者ギルドを後にした。




 さて……と、これからどうしようか……。

 まだお昼過ぎで時間はたっぷりあるし、街中をもっと色々と見て歩きたい思いはある。だが、さすがの俺たちも連日の平原移動でくたくたに疲れている。

 急な話でもあるが、明日の適性テストに備えるという意味でも、今日のところはしっかりと身体を休めるために宿屋を探すことにした。


「なぁツバサ。宿屋は良いんだけどさ、俺、お金なんてそんなに持ってないぞ」

「一日分くらいのお金なら俺が出すから、気にしないでいいよ?」


 俺の残りの所持金は中銀貨が三枚。ブラブラと歩く中で目に入った宿屋の料金表を見た感じ、俺たち二人が泊まるにはギリギリ足りている。

 たかが宿屋代くらいで俺は全然気にしていなかったが、当のカイル本人がそれをすごく気にしている様子だ。


「――いや、でも、そんな大金はやっぱり……」

「だったら、冒険者になったあとにでも返してくれればいいよ。――だから、今日は宿屋で決まり!」

「そ……そうか、わかった。――ありがとな」


 少し強引だったとは思うが、カイルは渋い顔をしながらも納得してくれたようだった。

 泊まる宿屋を探しながら街中を歩くと、栄えた街なだけあって軽く歩いただけでも数件の宿屋が見つかった。

 唯一の問題は、どの宿屋がおススメなのかがわからないこと。とは言え、このまま悩んでいても解決しないので泊まる宿屋を直感で選び、俺たちはその宿屋に入った。




 チェックインを済ませて割り振られた部屋に入るなり、俺は一目散に部屋に備えられたベッドに倒れ込んだ。


「あぁ……疲れたぁ!」


 ベッドは思っていたよりもふかふかしている。少なくとも、土魔法で急造したベッドとは比べものにもならないレベルで、油断していると今にも眠りに落ちてしまいそうだ。


「俺は風呂に行こうと思うけど、ツバサはどうする? もう少しそのまま寝てるか?」

「いや、俺も行こっかな」


 泊まる部屋をさくっと見終え、俺たちはこの宿が一番の売りにしていた大浴場に足を運んだ。「大きなお風呂に入れる宿はここだけ」と大きく書かれていたことが、この宿屋に決めた理由と言ってもいい。


「すげぇ……。こんなでけぇ風呂なんて初めて見たぜ」


 カイルはこういった大浴場が初めてだったらしく、浴場の扉を開けるなり驚嘆した。かく言う俺も、まさか異世界に来てこんな大浴場に巡り会えるとは思ってもいなかった。

 おまけに今のところ俺たち以外に人の姿はなく、実質、俺たちの貸し切り状態と言っても過言ではない。


 早速、洗い場に行き、俺たちは並んで座ってそれぞれ自分の身体を洗い始めた。




「あ、そうだ! せっかくだし背中流してあげるよ」


 身体を洗っている途中にふと背中の流しっこを思いつき、俺は半ば勝手にカイルの背中を流し始めた。別に卑しいことなんて……こ、これっぽっちも考えていないぞ?


「なぁ、俺もツバサの背中流したいから、そろそろ交代しないか?」

「そ、そう? ――それじゃあ、お願いしよっかな」


 俺がカイルに背中を向けて椅子に座ると、カイルは俺の背中を流し始めた。


「ツバサ、気持ちはどうだ?」

「うん、最っ高!」


 これが気持ちよくないはずがない。できることなら、いつまででもお願いしたいくらいだ。

 程々のところで背中の流しっこを終え、待ちに待っていた大きな湯船にその清めた身を沈めた


「ふぅ……。やっぱり、こうやって足を伸ばして入れるのっていいな」


 カイルは思いっきり足を伸ばして、初の大浴場にも満足気な表情を浮かべている。


「俺はカイルの家で入った、あんな感じのお風呂も好きだけどねー」


 正直、前にカイルの家で入った自然に囲まれた中でのドラム缶風呂は風情があって俺は好きだ。とは言え、こうやって足を伸ばせるお風呂もまた良いものだと思う。

 今日まで溜めてきた疲れを残すことなく取り切るつもりで、俺も思いっきり足を伸ばした。


 それからしばらくお風呂を堪能したあと、俺たちは自分たちの部屋へと戻った。




 カイルと二人でベッドに身を沈めて、ぼけっとしているとコンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえた。


「はーい」

「本日のお夕食をお持ちいたしました」


 扉を開けると宿屋のスタッフが立っており、部屋のテーブルに俺たち二人分の夕食が並べられた。

 夕食の内容は取り立てて感激するほどではないが、それでも俺たちの最近の食事事情を思えば十分すぎる内容ではあった。


 用意された夕食をひとつ残さずペロリと平らげたあと、少ししてから空になった食器を回収するため宿屋のスタッフが再び部屋に訪れた。

 お腹を満たしたあとも尚ベッドに寝転がるうち、次第に睡魔が俺たちを襲い始めた。

 明日、適性テストも控えているし、今日のところは睡魔に抵抗せず眠りに就くことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ