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平原に潜む悪党

 ポベルティ村を出発して早二日が経った。

 ポロッサと思わしき街並みはいまだに見えないが、それでも着実にポロッサに近づいていると信じて今日もカイルと歩いている。




 ドゴオォォォォン!


「うわっ! すごい音……」

「こんな平原で何の音だっていうんだ?」


 相も変わらず俺たち以外の人の姿が見えない平原で突如、凄まじい衝撃音が響き渡るとともに土煙が大きく舞い上がった。


「今の音、あそこだよね? ちょっと行ってみよっか」

「あぁ、そうだな」


 平原に似つかわしくない音の要因を確かめるべく、俺たちは土煙が立っている場所に向かって駆け走る。




「お……おい、何だよこれ」


 土煙が立ち込める場所を見るなり、カイルが言葉を漏らす。

 土煙の中には大破した一台の馬車と、その馬車に乗っていたと思われる四人ほどの人の姿。そして、十人ほどの盗賊のような身なりの男たちがそれを取り囲むように立っていた。


 これがどういった状況なのかはわからないが、ただごとでないことだけは明白。

 俺ひとりで何人かを惹きつけられれば、少しは戦況が変わるだろうか。

 ――いや、悠長に考えている時間なんてない。先日、レアンの森で三人組の男たちを撃退したことで得た自信がより一層、加勢することを掻き立てる。


「おい、ツバサ? お前、何を考えているんだ?」

「ごめん。ちょっとだけ待ってて」


 俺はすぐさまアイテムボックスから土の棒を取り出し、カイルに一言だけ残して馬車に乗っていた人たちの加勢に向かった。


「わかった。――けど、俺はツバサについていくって言ったろ?」


 カイルには待っていてもらおうと思っていたが、カイルも剣を抜き、俺のうしろに続いて加勢に入った。




「君たち! ここは危ないから早く遠くに逃げなさい!」

「そうだぜ、ここはお前たちみたいなガキが来ていい場所じゃあねえぜ。わかったらとっとと帰りな!」


 馬車の人たちの一人が、加勢に入る俺たちを見て焦ったように注意を促してきた。

 そして、その続けざまに盗賊のひとりがニヤリと薄ら笑いを浮かべながら、俺たちに向かって言い放った。


 盗賊たちは俺たちのことを見て嘲笑っているが、少なくとも俺はこのまま引き下がるつもりなど毛頭ない。

 俺はカイルとアイコンタクトを取り、このまま加勢することの意識を合わせた。




 俺は盗賊の一人に狙いを定め、先に飛び出して棒を振りかざす。

 その盗賊は持っていた剣で俺の棒を受け止めたが、防がれることは想定通り。それによって生じた隙をカイルの剣撃が襲う。


「こ……こいつらぁ!」

「ただじゃ済まさねぇぜ!」


 俺たちのコンビネーションで盗賊の一人を倒したことで、残る盗賊たちが次々と俺たちに剣先を向けてきた。

 さっきまで俺たちを嘲笑っていた盗賊の顔色も、今じゃ怒りに満ち溢れていることが見て取れる。

 まずは、盗賊たちの攻撃の矛先を俺たちに向けることは成功したと言ってもよい。ただ、まだ盗賊を一人倒したというだけで、俺たちが数的不利な状況であることに変わりない。


「今はこの盗賊さんたちを倒すが先です。皆さん、立てますか?」

「あ、あぁ……すまない」


 馬車の人たちに応戦を呼びかけると、呆気にとられた表情になりながらも体勢を立て直した。

 その後、俺たちは馬車の人たちとともに盗賊を次々と戦闘不能に追いやり、一人残らず盗賊を捕獲してこの戦闘に終止符を打った。




 戦闘が終わるとすぐに、馬車の人たちの一人が心配そうな顔をしながら俺たちのもとに駆け寄ってきた。


「君たち大丈夫? 怪我はなかったかい?」

「はい、僕らは大丈夫です」

「そうか、だったらよかった。――正直、助かったよ。ありがとう、えーっと……」


 俺たちに怪我がないことがわかると、その人はホッとした様子でお礼を述べた。


「あっ、僕はツバサ、こっちがカイルです」

「ツバサくんにカイルくんね……。僕はクリフ、こっちの二人がレックスとリーフで、僕たちはポロッサ冒険者ギルドの護衛隊なんだ。そして、こちらが……」

「俺がギルドマスターのアルフレッドだ。さっきは護衛隊共々助けられたな。感謝する」


 ポロッサ? それから冒険者ギルド?

 今の短い自己紹介の中で、とんでもなく気になるワードが一気にふたつも……。


 お互いの自己紹介が終わるなり、レックスが疑るような顔で俺たちに問いただす。


「そんなことより、君たちの方こそこんな場所でいったい何をしていたんだ?」

「ごめんね。さっきのことは感謝しているけど僕らも立場上、君たちを簡単に信用するわけにもいかなくてね」

「ポロッサを目指して、ポベルティ村から歩いていました」

「何? それは君たち二人だけでか?」


 ここで嘘をつく理由などあるはずもなく、平原にいた理由について正直に答えた。

 ただ、やはり現実味に欠けるのか疑念は拭い切れてはいないようだ。まぁ、信用しろと言う方が無理な話だっていうこともわかりはする。

 とは言え、俺たちもこれ以上に語れることがないのも事実。彼らに怪しい者でないことを信用してもらうためにはどうしたものか……。




 俺とレックスが問答を続けていると、クリフが馬車の荷物から何かを取り出した。


「それじゃあ、携帯水晶があるからそれで確認してみようか」

「おぉ、名案だな。俺は賛成だ」


 携帯水晶? それが何なのかがわからず、俺はクリフにこれが何かを尋ねる。


「すみません……、これは?」

「これは、人の経歴といった情報をざっくりと確認するための水晶だよ。この水晶に触れた人が危険人物であれば赤く、そうでなければ青く光るんだ」


 なるほどなー。細かい原理こそわからないが、恐らくは魔法を活用したこの世界ならではのアイテムなのだろう……。

 あれだけ俺たちに疑念を向けていたレックスですら、あの水晶に信用を寄せているのだから、それ相応の信頼性があるということは容易に想像できた。


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